会って楽しい人
夫がてっちゃん!と呼ぶ・大好きな2番目の・・義兄が
仙台にやってきた。
(てっちゃんと呼ばれる人はいい人であります。
卒業生のパソコンでしじゅうお世話になっている
M・てっちゃんもなんていい人なんでしょ!)
滋賀の奥で有機農業・山仕事で長年鍛えた義兄はいつ会っても
精悍で
少しも変わりはない。まるで昨日会ったばかりのよう。
夫と兄弟だから面影・似ているが、
浅黒い肌に黒目がちな目、身丈は夫より低いが
頑強な体躯で、ハスキーで低いがよく通る声、
赤と青のチェックのシャツに薄茶のベスト、
さりげなくてね・・・・
「お兄さん、お洒落ですね」
「結構、気い使こうとるんよ」
あーはっはっ。
(笑い声を字面にするのはもどかしくて難しいもんです。
以下、何の工夫も変哲もなくてすみません。)
茶目っ気のある笑い声は周りがぱっとなる。
山の話も面白いし、数々の失敗談も抱腹の笑いに転ずる話術で・・
何せ、明るい。
きっと、天候に左右される自然との暮らしは大変なこともあるだろうに、
穏やかな口調と絶えない笑顔でこせこせしない。
木の話、環境の話、
義兄の自然を見る目に、講演を頼まれたり、会えば、
全国に「てっちゃんフアン」がいると夫が言っていた。
愉快な人に愉快な神様がご一緒するのだろうか。
いや、不都合なことを愉快にしてしまう発想のセンスなのかと思いますね。
今回も
仙台に来るまでのトラブルに次ぐトラブルの連続に家族が笑い転げた。
話の終わり・・
「ほんでな、正史、
やっと、兄貴(長兄)に送られて
大津駅に着いてな・・・
乗る寸前で乗車券を忘れたことに気がついたんよ。
甥っ子にリュックを借りたんよ。
それでさ、チケット(乗車券)は大事なものだからわざわざ、バッグの中に入れて、
(自分が)リュックに変えたことを忘れたんよ。
汽車に乗る前でよかったわあ」
あーはっはっ!
横で夫が
「オレはそれを心配しよってん。てっちゃんが北仙台の駅から降りてくるのを
生徒と見とったよ」
「ほんまあー!生徒と?・・すまん、すまん」
夫は本気で案じていたようだ。
もしや、乗車券を忘れて引き返すことがあるかも?
乗ったはいいけど乗車券を落として立ち往生しているかも?
無事に仙台に着くかどうか、教室の窓から夕方到着するはずの時間に
北仙台駅を飽かず、眺めていたのだ。
「すまんのう、正史。なんちゃって、言ったりして」あーはっはっ
「ほんまやで。てっちゃん、無事に来てよかったわあ」
豪放な兄を慕い、想い、末っ子の夫は小さい頃から賢く、気端の回る弟の顔になっていた。
昨夜、次男が
「お母さんは天然と言われたことある?」
(ぼおっとしていると言われたことはあるが、
土台、天然という言葉は若い頃、なかったですから)
「ないよ。あなたはあるの?」
「ある!」
旅先で
ビニール袋が欲しくて、買ったばかりのサンドウイッチが入ったまま、お願いした。
「これと同じもの下さい」
早速、店の人はサンドウイッチをこさえようとした。
慌てて、言い直したのを
「天然だなあ!お前は!」
友達は口をそろえて言った。
天然・・さまざまなランクはあるけど・・
違うよ。
あなたはね・・
おもしろい人だと思うよ。
「天然」と初めて形容した御仁には敬意だが、
こうも、皆して、使うと
違うなあと思う。
タイプ別にするには分かりやすい表現だが、
日本語は人柄を表すにはもっとあったはず。
珍事を引き起こす、せっかち、おっちょこちょい、
大雑把、無頓着、朴訥、純朴、鷹揚、
落雪(ぼっとり)した人・・・雪などのやわらかいものを落ちる様子。初々しくかわいい人
うっそり者・・・ぼんやり、
腹蔵ない・・・心中包み隠さず、ふくむところがない
大馬鹿サンタさん、夢見る夢子さん、
以前、
小園冶師匠が
変わった人を
将棋頭、碁頭・・ってのがあると教えてもらった。
それを何でもかんでも天然って?
ねっ・・
天然という言葉は良くも悪くもぼんやりと人柄を括ってしまう。
喜んでいいのか、考えたほうがいいのか、方策が見つからない。
昨夜の話を思い出して、次男に言った。
「あなたはおじさんに似ているのかもしれないね」
次男は心づいて
義兄に旅先の勘違いやら、失敗を楽しそうに話した。
そしたら、
「えらいとこ、似てしもうたな」
・・大笑い。
大好きなおじさんに似ているなんてね!
大津の二人の夫の兄を
子供たちは好きなんです。私も。
義兄も
今風に言えば、天然になるのだろうか。
それはない。まして、尊敬の義兄に失礼千万です。
でも
そっか!・・
「天然」という言葉に・・・そんなにいちゃもんつけなくとも
次男の話を聞く限り、どうも
「愛すべき人」と訳して
どちらさんも使っているのかもしれないなって思った。
次の朝、
義兄が私に・・・
「昨夜のわしのタオル、乾いたかな?」
「えっ?何色です?」
「ピンク。
確かに乾かしてって頼んだんだがなあ」
頼まれた次男を呼んで家の中を探してもピンクのタオルはない。
もしや、車の中?探していると
次男が「あったよ。お母さん」
「すまん・すまん、玲子さん
ピンクや、なかったわ。白やった。帽子も乾かしてもろうとった」
大笑い
義兄といるといくらでも笑える。
帰る時間が・・・
私も夫と同じ気持ちになって
「お兄さん、乗車券はお持ちですか?」
「ん?」
しばし、身体検査をして
「そうそう、無くしたらいかんと思うて、どこだったかいな?
・・・・・
そや!財布に入れた。よっしゃ!ありました」
上官に報告するみたいなの、ね。
教室に寄ってから汽車に乗るというので、ご挨拶・・
「お兄さん、お元気で」
「玲子さんも元気でな。ほな、また」
にこにこっとして教室に歩いていかれた。
塾から
じきに夫が戻ってきた。
「てっちゃん、ズボン忘れたらしいわ」
ご丁寧にハンガーにかけたズボンがあった。
他に忘れ物がないかどうか、夫と点検して
よっしゃ!
見送りに次男と
駅で待った。
義兄が教室から出てきた。
あら?
帽子が乾いてよかったと言っていたのにかぶっていない。
「お兄さん、帽子は?」
「ほんまや、ない!」
夫が聞いた。
「どこに置いたん?」
「わからん」
本人はいたって楽しそうだ。
まもなく、汽車が来る。
夫は教室に引き返し、
そこは、さすが、
夫!弟君!
ちゃんと帽子を持ってきた。
「最後の最後まですまんな。」
帽子をつかんだ片手をひらひら振りながら
「どうもありがと!」
あたり構わず、響く声で言うと
北仙台のホームに向かう通路を小学生みたいにダッシュ!
甥に借りたリュックを右に左にゆらゆら揺らし、階段も駆け上る勢いで走り出した。
「そんなに走らんでも
まだ、汽車は入ってへんがな・・」
すっかり、関西弁になってしまった夫が兄につぶやいた。
無邪気な後ろ姿につい頬がゆるんだ。
本当に会えば楽しい、いい人だなって思った。
この人の
妹に
なれるものならなりたい・・・そう思った・19の私にヤッホッ!
飲んでしゃべって楽しいさなか、
昨夜、義兄の一言を明日になって忘れないように!
忘れまいと急いでコタツから立ち、
封筒の裏の
走り書きを読み返した。
「お兄さん、笑うっていいですね」
「そうや、笑い飛ばしたら、ええ人生やで!」
今北玲子