2008年10月28日

こんな時

授業中、夫の携帯が鳴った。
「出て」言われて出たけど、
切れた。
主を見て、
「Y君だ。すぐにかけてやってくれ」
留守電・・・だったから
「授業中ですが、遠慮なくかけてね」
言い置くと
すぐに電話が鳴った。

「どうしたの・」
「仙台に向かっていて、先生たちに会いたいんですけど」
「いいよ、10時まで教室にいるから」
「仙台に着くのは9時過ぎです」

言った通り9時過ぎ、
中2の数学の授業中にY君は入ってきた。

「ひさしぶり」

折りしも
夫は中2の生徒に激怒の真っ最中
「7割やって諦めるなよ。書けと言われたこと書けよ。
詰めが甘いんだよ。ちゃんとやれよ・・」

卒業生のY君は
「玲子先生、中学生と一緒に座っていいですか」
「どうぞ」

鉛筆もノートもないけど、ひたすら夫を見つめて
授業を聞いていた。
「なにかあったの?」

聞かずにはいられなかったが、
中学生のあの時のように夫を黒板を見つめてじっと聞いている。

授業が終わった。
中2の子どもたちが帰るのを
「気をつけてなっ!がんばれよーっ」
Y君は一人ひとりにアシスタントみたいに子どもたちに声をかけた。

やっと、夫の身体が空いて
「よーっ」
しばし、Y君と世間話が終わると
Y君が
「先生、俺、
仕事やめたくて・・すごいんですから。
この年になって
ストレスで盲腸ですよ・・」

激務を話した。
思わず、私、
「いやならやめなさい。我慢することないからね」
「玲子先生、そう言うけど、すぐにやめるのはできないですよ」

誰に言うでもない、自分に言うために来たのかもしれない。

仙台駅に降りて、実家に行かずに
真っ先に塾に行こうって思ったのね。
廊下にトランク二つ、置いてあった。

がんばらなくともいい、やめなさい。
私にそう言われたかったのだろうか。
「そんなことはできないです、がんばります」
自分に宣言してみたかったのだろうか。
「お前は詰めが甘い。7割しか頑張っていなんじゃないのか。」
夫に怒鳴られたかったのだろうか。

どちらでも、いい。
会えたからいい。
どうしているのか、
食堂をたたんで、あなたが仙台を離れて、半年、
心配だった。

「元気そうね、あなたは若いね」
「またまたー本当?玲子先生。友達には痩せてどうしたの?って言われるんですよ」


あなたが十五の時、
「だめだった、先生」
結果を報告に来て、塾の階段を
うつむいて降りる背中に思った。
乗り切んなさいね。

あなたはその後、いろいろ頑張ったと思う。
ふと階段に
「知っているよね、Y君」
「もちろんです」

大好きな義母の口癖
「祈りは一人より二人、二人より三人」
こんな時
私と一緒にお願いします。
「もちろんです。」
塾の階段と一緒に祈る。

乗り切って下さい・・

今北玲子


2008年10月26日

この時期

9月、10月、この時期、
18歳が来ることが多い。
OA入試、指定校推薦、伴う小論、教えて下さい。
お久しぶり!の高校生が来る。

最近、嬉しかったのは小学生まで塾にいたけれど
やめたS君。

「大学入試には先生しかいないと思ったので・・」
あれから
3年ぶり。
「お願いします」
柔道で養われた礼は
教室に
私に・・頭を下げた。

「どうぞ、役に立ちたいです」

塾をやめると言われると何がいけなかったのか、傷が残る。
あの時の失恋・・から3年たって
振られた相手が
「君に会いたくなってね・・」なんて言われた気分になって
「私もずっとあなたに会いたくて」言いたくなったりして・・
八杉先生はやめた子どもたちが戻ってきた時、
「出戻り」と笑って仰っていた。
私は別れた恋人と再会した気分になる。
復縁は長いこと心の下にあった古傷がすっと消える。


又一人、やってきた。
復縁ではないが、夫に進学相談。

「玲子先生にお借りした漢字練習張お返しします」
カバンから出して
「長々とお借りしました」
貸したことさえ、忘れてしまっていたが、
人様から借りたものは律儀に返す、
いい心がけだなって思った。
「あなたに差し上げます。お使いなさい」
[いいんですか?」
「いいんですよ」

夕方に又一人、卒業生。
理科と国語の受験の問題集の相談。

「担任に薄い漢字の本でも買って勉強しろって・・言われたんですけど。
薄い漢字のテキストってどんなものかわからなくて・・

特殊な専門学校受験だ。過去問題を見せてもらったら
高校入試のレベルの高いものでもいいような気がした。
入試は迫っているという。本屋に行くより4年分くらいなら、今、コピーするから、それをやったらいいよ。
いいんですか?
いいんですよ・・
「やっぱり、先生のところに来てよかった。」

塾に行こうかなって
その気持ちになにか応えられたらと思う。


15歳に一旦、さよならしても、
18歳、22歳、24歳、30歳、40歳
なんやかやとここを訪ねてくれるなんて、
ヤッホーです。

私なんか、恩師に賀状を失礼したり、
ご無沙汰ばかり、
皆さん、偉いなって思います。

今北玲子


2008年10月15日

ちょっとしたこと・・

小学生のMちゃんが近づいて言った。
「黒板消し掃除してもいい?玲子先生」
「いいよ」

いい回しによって
がらりと変わる。
・・・・
・・・「黒板消し掃除してあげる?先生」
・・・「ありがとう」

しかし、
「先生、してもいい?」
「いいよ」
「ありがとう」は発生しない。

恩に着せない言い方になるほど。
夫は
「ありがとなー」

Mちゃんは聞こえてはいるが
黙々と掃除に余念がない。

してもいい?
自分で断ってしているのだから、礼を言われる筋合いではない、
とでも、思っていたのか。

ちょっとしたこと
見習おう。

「教えてもいい?」

今北玲子


2008年10月10日

成績表

「前期の成績を渡します・・・」

入塾まもない子は少し驚いている。
成績表!といってもテストの素点や
5段階評価などではない。

日ごろ、感じたこと、思ったこと、努力したこと、
頑張ってほしいこと
小学生は夫婦で
中1から中3までは夫が綴る。

今日は中2に渡す日、
親御さんに郵送ではなく、
まず、本人に読んでもらう。一人ずつ名前を呼んで
「座って、これを読んでください」

はいと座って読む成績表は夫の手書きの文。

気がついた。
国語が大嫌いで文章を読むのも大嫌いな生徒だって
自分について書かれた文章は
ゆっくり、丁寧に、真剣に読むのだ。
褒められているところは
ほほがゆるんで嬉しそう・・・

自分宛の手紙は嬉しいものだ。

「学年で君は一番がんばった。」
「こつこつとよくやったよ」
自分の評価が5段階でも素点でもないことにほっとして文字を追う。

成績表は夫の発案で手紙である。

「親御さんに見せてね」
「はい」

「ありがと、ございました」

強要したことはないけど、
起立・直立して挨拶していく。

中3の息子が折しも学校の成績表を持ってきた。
神棚に供えて
「拝見」

数字ばかりが並んでいる。
所見にやっと文字を見つけて読む。

係りをよくやったこと、書いてあった。よかったです。
数字メインの
成績はそれは仕方がないが、文字が恋しくなる。
でも、いっぺんに大勢の子どもたちとの毎日は先生も大変だろう。

ふと、22歳の教育実習のことを思い出した。
運動会の総練習で正面の校長先生に向かって
ザックザックと一列になって行進してきた。
職員の末席にいたが、私に向かって大人に向かって
一心に
行進ではなく、やってくるように思えた。
名さえ顔さえ分からない子どもたちに
一体、
私はどうなってしまったのだろう。
ぽろぽろ、涙が止まらない。
この子どもたちは生きているんだ。

皆さんにも・・

わが子の運動会で子どもたちが走るのを見て・・。
笑うのを見て・・

ほおばって食べる顔見て
ああ・・
可愛くて、可愛くて、
いい子だなって思うこと・ありますよね。

笑っている。
食べている。・・・・
理由などない、じわっと涙が・・する・・

教室でも思う。
なんて、いい子なんだろう!あなたがそこにいる。
どこにもいかない感動はそこ・・

「喋ってだめよ」
「ちゃんとおやんなさい」
「丁寧に字を書きなさい」
「なんで、やってこないの?」
言ったりするけど
子どもはなんていいのだろう。
火種は消えない。

塾に来て無口で帰る子がいる。
なんて、いい子だろうと思う。
喋り通しで帰る子もいる。
なんていい子だろうと思う。

私の前で
渡された成績表を
瞬きもせず書かれてある「自分」を読んでいる。
「自分」を見ている。
どの子も懸命に生きている・・・
なんていい子なんだろうと思う。

あなたはここにいるのですね。
「あなたの役にたちたいです」
手でも握りたくなる。

今北玲子


2008年10月01日

時にはラップ。

サランラップの端がどこかにいった。
透明なラップの端が分からなければ、使えない。

筒に
まとわるおびただしいラップを捨てるには惜しいものだから、
くるくる
どこが
始まりか、終わりか、
探る。
見つけたと思うと
ラップのちりちりと端は縦に割れていって
切れ目を見失う。

しょっちゅうある。

どこが始まりでどこが終わりか、

こういうとき、
そっちがその気で隠すのなら、丹念に探そうじゃないの?
筒をまわし、ラップの端をつまみ、探す。

もともと、私がしでかしたことだから
文句も言えず、
今日も
ラップの端を探す羽目になった。

慌てないように。
短気を起こさないように。

透明なラップの筒は私が顔を近づけると
お気楽に私を見ている気がする。
「ありますよ、きっと」

おおーっ
見つけたっ!

ラップの端はひらっと光に揺れて
切れ目をさらして、
丁寧に引っ張ったら
横に横になびいて
遂には一反棒のラップになった。・・・

ほーらねっ
ラップの「ピリッ」といい音がした。

探せば糸口は
どこかにある。


今北玲子

2008年09月29日

昨日、今日,、明日

課題を何もしてこなかった生徒が軒並み夫に怒られた。

「塾に来れば成績が上がると思ってるのか!
お前たちが一生懸命に勉強してはじめて
成績が上がるんだ!」

ささやかなプリントさえ、
やってこない、生徒が怒られていた。
カバンの中に手付かずのプリントがあるのだ。

塾に来て、ただ座って、成績は上がらない。

そりゃ、時間をかけて教える。
行けば何とかなる、日もある.ことはある。

量が足りない時だ。
「お前にはこれが必要だぞ。がんばれ、やってこい」
「はい」
「これだけはやって来い。あとで困らないようにな。
なんとかやってこい。」
「はい」

そう言われれば、はい、とは言うものの
勉強は楽しくはないのだろう。
やってこないのだ。

子どもたちは昔も今も変わりはないと思う。
やれと言われてもできれば逃げてしまいたい。

夫はこの間、
「学ぶことに
誠実になれよ。」
大声で言っていた。

できる、できない、
評価の問題ではない。
いい点数をとるためではなくて
いい高校に入るためではなくて
知ることに
誠実になれ!

いい言葉だなって思った。
 
昨日、今日、
そして、
明日、

継続は力なり。
一理あるけど、そういうことでもない。

毎日、漢字10回書き続けたとして、覚えないこともある。
字を見て、2回、
覚えられなければもう1回、いいです、それぞれで・・

風邪なら、なにもしなくともいいです。

でも、
まあいいや、こんなもんで・・
ぺらぺらでいやいやの勉強は
継続しても
たいした力にならない気がする。

あなたは
あなたに

これでいいのか・・
飛ばしていいのか・・
ちゃんと知りたくはないのか・・
いい加減にしていないか・・
分からなければ、なぜ考えないのか・・
考えても分からないのなら、なぜ、聞かないのか・・

分かるってことに
誠実であってほしい・・

脅かされて学ぶのは
苦しいですね。
でも、勉強は
楽しいばかりでもないですね。

芯があったらいいですね。

誠実であれ・・・
どうぞ・・・

夫の言葉に
私は共感する。

今北玲子

2008年09月28日

誕生日

娘の誕生日、
「もう大人だから・・何もしなくていいよ・・」

娘が言うから、
そうね、大人よね・・

何もしないで
夕方家に帰ったら
テーブルに咲くカスミソウ・・

「自分で買ったの?何もしないで・ごめんね」
花さえ、自分で買ったのかと思うと申し訳ない気がした・・

「違うの、お母さん、
私を産んだ人にね・・」

私の好きな
カスミソウ・・

産んだ人ですか・・
なんだか、すみませんね・・

井上光晴・・
直木賞受賞の長女井上荒野が7歳の時の述懐。
「小さなランドセル背負って
『行って来ます』て
学校に行ったんだ。
それを見送ったら
この子が
これから生きていく長い人生の途上で
苦労する数々のことを思いやって
可哀そうになって泣けてきた。」

塾に
学校帰りでランドセルを背負う子は汗だくの夏の日にも、
寒ーい!の冬の日にも、
愛しくて。

背中のランドセルは・・
親なら、
可愛い背中の持ち物は複雑です。
ランドセルがもたらす、
成績、将来・・。

確かにわが子の成長は嬉しいけれど

ランドセルの代物には
暗雲も希望もつまって見える。

母乳を飲まないだの、離乳食を食べないだの、
なんのかんの、そんなこと・・
ここまで育った恩など、きれいさっぱり忘れる。

ランドセルを子どもが背負う時、
一抹の不安がよぎり、
一縷の望みが広がる。

7歳の子に背負わせたのは
国だか、
親だか。
これから大変だよって、声がしたのを思い出す。
嬉しくて、
不安で
その後姿に・・
つと、泣いた気もする。
わが子がかわいそうで泣いたって気持ち、あった。


娘が
「おかあさん、おやすみなさい・,ありがとうございます」
毎夜、私に
深々と
頭を下げて
一礼して部屋に引き上げる。

しつけたわけではない。
どこで学んだか。
問うこともしないでいるが、・・

産んだ人ですが、
あなたの誕生に力を貸しただけで
礼には及びません・・

娘が私の前に生きている。
むしろ、どなたかに一礼、しとうございます。

ランドセルの
親の夢・不安・
所詮、
子どものも持ち物は
お互いの故郷みたいなもんです。

娘の就寝の一礼は
ランドセルを終えたからこそ
ありがたく思えるのだろうか。

わが子がまだ、ランドセルの
塾生の親の皆様、卒業生の親の皆様、

いつか昔・・
重かったランドセルを背負って
何とか生きてきたことを
思いだしますよね。
そうやってここまでなんとか生きてきた。

どなたかに一礼しとうございますね。

カスミソウが
そうなさいまし、

ぽちっと
花々
大勢で
私を見る。

産んだ人・・
やはり、それは
たいしたことではないように思うけど
ランドセルを背負っては、制服を着ては
どっかこっか、心配ばかり・・・だったような気がする。

今日の誕生日の長女の時、
力が弱い気がしてその夜、眠れなかった。
次の日、
先生が「心臓に欠陥があります」
「命に別状はないんですか」
「ないです」
それならいい。
生きていればいい。
その後、自然治癒して元気になった。
気持ちはさっぱりとした青空になって嬉しかった。

誕生日に産んだのは私だから、あれやこれやと誕生の話をしたくなる。
毎年、同じ話でどうかと思うけど、何度も話したい。
陣痛がいつ始まって、いつタクシーを呼んで、
いつ、生まれて・・・
話したくなる。

聞いてね。あなたの生まれた日のこと・・・

この子が生きてほしい、ずっと生きて、祈ったこと。

無垢な
小さな身体を抱いて
アリガトウ、を連呼したこと・・

今北玲子

2008年09月27日

おめもじ

教室に入るといた!
いた!

 Iちゃんの連絡通り、
「先生に子どもを見せに行くから」
もう、来ていた。
いいもんです。

すやすや母の腕に抱かれてその子は眠っていた。
抱きたい私の手がうずうずしたが、大切な赤ちゃん
見るだけでいいか、
迷っていたら、

「玲子先生、抱いてくれる?」

願ってもない。
抱かせてもらえる?

ふわふわの
 Iちゃんの愛息
「男です。玲子先生」

「なんて、めんこいの。」

小さな命は誰の手に移っても眠っていた。

人が生まれて、愛する人と出会って、
その赤ちゃんが生まれて
縁で
私が見せてもらうって、抱かせてもらうって

その命に、
私、つまらない者ですが
はじめまして。

あなたにおめもじ叶いました。・・・

寝ているうちにつれて帰らないと・・
Iちゃんは頃合見計らって
「帰るね、玲子先生」
「うん、疲れないように。忙しいから来なくていいからね」
「大丈夫。又、来ます。今北先生。これ飲んでね、ガンにならないから」
豆乳飲料の差し入れを指差して、笑った。

「今北先生が元気でいるのを祈ってるから」
教室を出る時も笑った。Iちゃんは幸せで笑う。昔から笑う。いい性格だ。
ばあちゃん・元気?

塾の玄関に出て親子を見送った。
私に手を振り、
赤ちゃんを片手で米俵担ぐみたいに横断していった。

たくましいお母さんになったね。
父も母もいないけど、
ばあちゃんに大事に育ててもらって
いい人とめぐり合って
お母さんになったもんね。よかった。

Iちゃんはまだ、見送る私に気づいて
赤ちゃんを
俵抱きしたまま、空いた左手を挙げ
「先生!」
大きく振ってくれる。

私も大きく手を振る。
「またーね。」

ふと
数年前の卒業生を思い出した。

その頃、いろいろあってどうしようもなくて
二人の子を手でひいて、一人をおんぶして
玄関に親子4人で立っていた。

「玲子先生、どこにいけばいいのか。わからなくて・・」
我が家に上がってもおんぶの子を下ろさない。
「おろしていいよ」
「いいんですか」
「背中の子を下ろして休んで」
「いいですか」

おんぶの子にしつらえた座布団・・
「ここに・・」
「寝せてもいいですか」

汗だくで、
遠慮して私に抱かせることも
思いつかない。
ずっと、おぶいつづけるつもりだったのだ。
背中の子はおんぶをはずされてもすやすや、座布団に寝た。

しばらく、話をして帰っていった。

それから、もう一度来て、連絡が途絶えた。

子どもを抱いた卒業生が来ると
思い出す。

泣いてない?Sちゃん・・

便りのないのは無事の便り。

あなたは母なれば子を守り
強く暮らしているね、きっと。
私のところに来たのは、気の迷いだったかもしれないね。

女は夫がいれば、子を持てば、いろいろある。
でも、
あの時、
いっぺんに三人のあなたの子どもたちに
おめもじしたのに・・

あなたの暗い顔ばかり気になって
どうしたのか、とばかり思って
あなたのことばかり、気になって

玄関にどんな事情で立っていたとしても
「生まれたのね、3人も。よかったね。おめでとう!
会わせてもらうね。」

真っ先にあなたに言えばよかった。
座布団の三人目の子を抱かせて!
言えばよかった。
ごめんね。Sちゃん、

会いに来てくれたのよね。ありがと。

卒業生が母になる。父になる。
教え子ではなくて、同志になった気分になる。
がんばれーって思う。
 
今北玲子

2008年09月19日

キャンデイ

「こんばんわ」
あらら、高1の卒業生3人。K君、Yちゃん、Aちゃん
「どうした?」

「中3の激励に来たの」
ガッツポーズをした。

「待って、主人に言うから」
「いいすっよ。授業中だし」
3人は夫の教室を覗き込んで、いい、いい、手で押しとどめる。

そんな・・
「卒業生です。」
隣の部屋の夫に伝える。
「おおーっ、入れ。」
気後れして、
「いいすっか」
「ちゃんと入れよ」

招かれて3人は照れた。
「皆さんの激励だそうです。」
私が言うと
一斉に中3が振り向いて、
3人は尚、照れた。

高校生は中3にとって羨望だろう。
聞いてみた。
「去年の今頃はどうでしたか」
「勉強しなかった」
(おっと、中3を変に安心させちゃだめよ・・)

「やめて、それは」
慌てた私を
察知して、K君が言い直した。
「いえ、先生、できなかったんです」
3人はよく勉強したのに
謙遜したか、中3を焦らせたくなかったか・・
まあ、詳しいことは11月の塾の行事高校進路説明会で聞くね。
(進路説明会とは
毎年、11月に
「本音で語る」進路説明会と題して
受験までどんな勉強をしたか、入った学校は自分にとってどうか、
パンフレットでは語られない本音を高1をゲストに中3と保護者に聞いてもらっている)

高校進路説明会、来てくれる?

「はい、来ます。」
「今度はあなたたちが後輩に話してくれる番だから、お願いね」

階段を降りる3人は
「あっざーす」

卒業しても塾に行かなきゃ、
そう、思った3人の差し入れは
ふた袋のキャンデイ・・

毎年、
夏の終わりに、秋口に、私立の直前に、公立の直前に、
卒業生が来る。(春はない。「希望とやる気の春」です)

ある年は
「初給料で中3に差し入れをしようと決めていたから」のルーズリーフだったり、
「暑いから」お茶だったり、
中3の時、誰かにもらった記憶を誰かが覚えていて、
誰かがやってくる。

心細いけど、やる気が起きなくて、焦ったあの時を思い出すのだろうか。
十五の自分の季節のかけらを拾うのであろうか。
卒業生の激励の笑顔を思い出し、
私もそんな者になりたいと
階段を上ってくるのだろうか。

卒業して一度離れた塾のドアを開け、
階段を上ってくる人情に

「ありがとう、・・」
帰る背中を追いかけて
手を振る。

とんとんと降りた玄関で
3人はさっと
靴をはき、笑いながら
あけた玄関のドアから秋風の吹く。
塾の階段を駆け上がる秋風のある。

「どう暮らしてもお前の一生のうちの一日なのだ。
俺はうるさく文句言うつもりはない」
幸田露伴がごろ寝の息子にきっぱりと言うほどの、
覚悟は私にはない。

でも
「どう暮らしてもあなたの一生だが、
まだ、十五才、
自分の力を自分で踏みつぶさないで。やれるだけやってみて」

・・思う。

15才の皆にも私にも
どちらさんも
秋が来ました。

せめて、しゃんと
行きますか。

今北玲子

2008年09月03日

お茶でも。

秋の匂いがする。
塾では定期試験の勉強で連日、中学生が授業の日を問わず、
満杯になっている。

夏の疲れ・・
中3の
「よーし、やるぞ・・」
春からの満々の気迫も緊張も
夏過ぎて、少し緩んで力が出ない頃でもある。
ぐずぐずとやる気の起きない気持ちをもてあまし、
半端な残暑にいる。

私も、同じ、
夏にまだ、追いかけられている気がする。

いや、
大人は朝から晩まで追いかけられて、追いかけて・・逃げて・・・・
時間を友達にはできないですね。

その点、小学生はのんびりと体感している気がする。
「つまらない」
よく言いますね。
時間がゆっくり流れているからでしょうか。
何をしても
大人より一日はたっぷりあるから、
休日ともなると
時間と遊べるから、
時間が恐ろしくないから
友達だから、「つまんなーい」って言える。

私も
ここらで、夏にさよならするにも
秋にお目もじするにも
季節の変わり目の挨拶代わりに
今日は
夏の延長みたいに追われて
あれして、これして、
やめることにした。

追いかけて、追いかけられての節目のない毎日は
生活のためといえ、
用事をこなすためとはいえ、
やめようか・・
夏に最敬礼、秋に敬礼。

今日は、
歯科医の診療、そのあと、銀行に行って、昼食とって
小学生の授業の準備をして、6時に授業を終えて、夕食をこさえて
また、塾に行って9時半に家に戻り、又、夕食を準備してお酒を飲む。
一通りの予定が見えるが、
今は午前9時半。
歯科の診療予約まで1時間。
ちょっとだけ「私の時間」と向き合うことにする。
気持ちばかりの季節の屑々の儀式といいますか。

せかされれば、家事をして一時間はすぐに使い切る。

テーブルに座って
使い道を考える。

何もしないでいましょうか。

時間は
そうと向き合えば、
素直に
「ご自由にお過ごしなさいまし」
止まる。

たまには
あなたの背中を追いかけない。

たまには
あなたに背中を見せない。

「私の時間」のあなたは
トイレ、風呂場の掃除はどうしました?夕食まで30分しかありませんよ。
トントン、肩をたたいても私は振り向く気配もなくて、
年がら年中、私に「忠告、注進」
さぞやお疲れでしょう。
それは私の子供の頃からですよね。
今日の宿題したの・・夏休みの宿題は・・・受験は大丈夫・・何もしていないのに寝ちゃだめ・・
あなたは私のためにせっせと話しかけ、

私はこれといったお礼も言われずにねえ・・
たまには、
私の一時間、あなたもごゆっくり、どうぞ。
私は何もしませんから、あなたも何も言わなくていいです。

「願ったりで・・
あなた様は、そうそう、私の言うことを聞きませんで・・
こうした方がいい、ああした方がいいかと、思いまして・・
あなた様の時間をお供するには、こちらの勝手でございまいますが、
あなた様は私を引っ張るのではなくて、私が見かねて口を出す連続で
できれば、ついて来い、リードしていただきとうございました。
おわかりいただければご自由でいいと思います。
そうして、お暮らしなさいまし。今、自由にしてほしいとおっしゃるなら、
あなた様ももう大人ですから
納得でございましょうから、
私も気が楽でございます」

目には見えない時間とは
大切な相談役で、
指南役で、
なのに、
今まで、お目にかかりたいと引き止めたこともなくて、
お礼の一言も申し上げずに、心配をかけ通しで
相すみません。

「さあさ、どうそ」
お茶をすすめたこともございませんでした。
忙しいあなたを
ただただ、追いかけ回しておりました。
あなたの
よかれと思うアドバイスも聞きませんでしたね。

たまには私とお茶でも。

私は何もしないのだから、
どうぞ、休んでくださいまし。

さて、と・・・
何もしないと決めた
一時間というあなたは
何もしなければ、
本当にゆっくりと長いもんです。

過ごしてみると
つまらない・・と思いますね・・
テレビもない、本も読まない、
何もしない・・・・何もない・・
子どもの頃が戻ってきました。
「つまーんなーい」

なにもしない休憩は
何をしたいか、よくわかるものでございます。
うずうずとわかるものですね。
「時間」は黙っていても心ん中を照らすんですね。
恐れ入りました。


秋の匂いがするから
虫の音も聞きます。
長年、共にしてきたあなたの言うことも聞きますね。

「無理はしないで」
「はい」
私は初めて言うことを聞くのではないでしょうか。

15歳の塾の子どもたちとの
「それぞれの時間」の皆さんへ・・
肩先に止まって、肩を抱いて、
「さあ、ペンを持って」
「テレビを消して」
「3月に合格で笑うんですよ」
「あなたはまだ、これっきりというほど勉強はしていませんよね。やってみなさい」
「まだ、半年もありますよ。行きたい高校まで走んなさい。よーい・ドン」

教師の言うことも親の言うことも聞かないけれど
「時」の
あなたのいうことは胸にしんと通ります。
気がつくように、こうしちゃいられない、と思うような、
大きめの声で話しかけてくださいまし。

言うこと聞かずじまいの私がお願いするのもなんですが、
毎年、秋風吹く、この時期になると
心配になりまして、
よろしくお願いいたします。
(18歳以降の卒業生の受験生にもお願いいたします。)
今北玲子