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塾日誌

塾日誌を始めたのはいつだったか、
たぶん夫が始めたのだと思う。
私も作文の上手下手ではなく、
書くということは思わぬ自分と会うことがあると思っていたから
夫の提案に賛成したのだろうと思う。
でもいつから始めたのか、記憶がない。
気がついたら、随分と長いこと続けてきた。
生徒が書いたら、私たちが返事を書く。
いわば交換日記のようなものでもある。

日誌は不定期で、
私たちの気が向いたときと言っていい。
定期試験が終わったとき、中総体が終わったとき、
初雪が降ったとき、汗だくで真夏の暑かったとき、
理由はなくて、
日誌を書く日はこの日と決めていない。

前期試験の全員合格が決まった日、
なんとなく、日誌を書いてもらおうかな、と思った。

その日はノートを渡したら中3全員が無心に
堰を切ったように鉛筆を走らせていた。

抜粋です。
K君、
(学校では前期で受かった人は
「やったー。もう塾にはお金を払った今月しか行かないでいい!」
という人もいたのに、ここでは当たり前のように合格した人が
来るような雰囲気で、
もし私が前期で受かっていたら塾に行かず、
友達と遊んでしまうと思います。
でも合格者がいると、みんなと一緒に頑張ってくれているんだと
思いながら、やる気が出てきます。
感謝しています)

Mちゃん、
(前期を無事合格させてもらって良かったと心から思います。
今の自分はほっとしています。
受験勉強という張りつめた気持ちから解放されたからかもしれません。
でも気持ちを緩めないように頑張りたいです。
合格できたのは間違いなく、この塾のお蔭です。
そしてこれからもよろしくお願いします)

Rちゃん
(今日は塾の大先輩が来てくれた。≪帰仙した卒業生が中3に差し入れを持って来まして》
その方はとても優秀な方だと知った。
今北先生の記憶に強く残るほど、たくさん勉強していたと聞いて思った。
私は前期で合格したけれどやりきれていない感じが残っている。
苦手教科がなくなるくらい、今まで以上に勉強したい。
これからもよろしくお願いします)

Hちゃん、
(前期で受かった人が全員来てくれた。
受けた人が全員受かるなんて本当にすごいと思う。
だから後期もみんなそろって合格したい。
後期の私たちとって良いプレッシャーになる。
その活力を4人はくれた。
だから絶対に受かる)

Mちゃん、
(まさか合格できるとは思ってもいなかったので、
自分の番号を見つけられた時は、信じられなかったです。
今まで毎日塾で頑張ってよかったと心から思います。
いつも受け入れていただきありがとうございました。
これから本番の仲間と一緒に最後まで勉強して
3月の卒舎を迎えたいと思います。
前期で合格して、塾をやめる学校の同級生もいるけれど、
私は仲間と離れてしまうのは寂しいと思っていました。
後期までみんなに負けないくらい勉強して、頑張ります)

S君、
(前に玲子先生が言っていた「あっという間に受験は終わる」
というのが分かったような気がした。
あの時はすごい長い道のりだと思っていた。
来年の、高1が語る高校説明会の日、
あっち側の席に座りたいと書いたが、
今日、前期合格して目標を果たすことができた。
来年は野球の練習や用事があっても
是非行きたい)

後日、
Rちゃん、
(お母さんが玲子先生のピンクの{前期試験」の文章を
読んで泣いていました。
お母さんは、前期合格した日も笑顔で、泣くことはありませんでした。
私は正直驚きました。
その日、初めて「塾に入れてくれてありがとう」と言いました。
紛れもなく本心です。照れますね)

15歳の想いは透き通った水のようで
心が洗われます。

前期合格のあった日から数日して
卒業生のお母さんにばったり会った。

この辺りを歩いていると、ご近所にご父兄が多いので、
会えば、就職しました、結婚しました、
孫が生まれました、近況を知る。

この時期に会ったご父兄は大抵、私たちを労ってくれる。
「2月、3月は大変ですね、先生」
私の答えも大抵同じで、
「今の時期はみんなのことは心配ですけど、一番いいんです。
15歳っていいんです。大人の会話ができますしね」

この日もご近所の卒業生のお母さんに会って、労ってもらった。
「先生、大変ですよね。この間、前期発表でしたね。どうでした?」
「みんな合格できました。すごくうれしいです」
「ああ、よかったこと!」
自分のことのように大声で笑顔で喜んでくれた。

「合格した生徒さんは来てます?」
このお母さんの娘も前期で合格して、最後まで一緒に勉強してくれた。

「みんな来てます。それがうれしいですね」
お母さんがあの当時を思い出すように、
「あのとき、娘が受かって、塾に行くというから、
他の人はまだなんだし、
邪魔にならないように行かなくていいんじゃない、と
言ったら、今北先生はそんなこと言ってないって叱られましてね」

お気持ちは分かる。
合格者を見て、羨ましい、いいなと思うだろう。
自分の娘が受験生のやる気を削ぐことを懸念されたのだ。

「玲子先生、
私、......
自分の娘が受かってうれしくて、
他の子どもさんのことを考えているようで
実は考えていなかったんですね。
今北先生に大事なこと、教えられたと感謝してます。
当たり前だけど、人はひとりでは生きられないもの。
年を重ねれば重ねるほどそう思います。
合格した人が来なかったら、それこそやる気がなくなりますよね。
あの子が最後までみんなと一緒に勉強して良かった。
あの子にとっても良かった」
「ありがとうございます。元気出ます」
頭を下げた。

その母さんは歩きだした。
振り向いて、
「これからも子どもたちに大事なことを教えてやって下さい。
今北先生、頑張って!
伝えて下さい」

人は一人では生きられないもの。
さっきの言葉を繰り返した。

玲子








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2018年2月22日 11:07に投稿されたエントリーのページです。

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