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2014年6月 アーカイブ

2014年6月12日

6月、そして7月。

6月になると、
修学旅行、野活、子どもたちは塾に土産を買ってきてくれる。
たぶん、夫のせいです。
「土産なんかいらないからな」
そう言われて買ってこないわけにはいかない。
ただ、土産をもらっていいことは8時、9時の空腹の、夜の授業に、
友達の土産の、一枚のクッキーやおせんべいに
子どもたちは「アザース」「いただきます」と喜ぶ。
ぺこぺこのおなかにどんなにおいしいことか。
最近は小学生も買ってきてくれる。
修学旅行、野活だけではなく、家族でおばあちゃんの所に行ったとか、
御散財をおかけして、本当に親御さんには申し訳ないよう気がいたします。

その日も、
修学旅行に行って来たという小学生に菓子の土産をもらった。
「悪いね、おこずかいを減らしてしまって」礼を言ったら、
人びた口調で
「玲子先生、本当は、お土産は家族だけなんですよ」
そういうお達しが学校であったなんて知らなかった。
「あらら、家族でもない塾にまでごめんね」申し訳ない
「そんな!塾は家族ですよ
明るい声に、不意を突かれた気分で
「.....わたし、ずっと忘れないよ」

12歳のT君は、私が何を忘れないのか、
ょとんとしていてわからないようだった。
う一度、T君の席に近づいて、
さっきの言葉のこと」小声で言った

そういう気持ちって、何とも言えない。

この間も、中2のYちゃんが
「私の母が、玲子先生にって」
大きな瓶いっぱいの梅干しをいただいた。
入試までの私の梅干し断ちを知っていて、
Yちゃんのおばあちゃんがつけたとおっしゃっる梅干しを、
卒舎式後と
今回と、
二度も頂いた。
口に一粒含んで、なつかしさがこみ上げた。
亡き母の梅干しとそっくりな味。
切なくて、酸っぱくて、母に包まれる味。
もう二度と出会えないと思っていたから、
刹那の味は元気が出た。

そして、同じく中2のMちゃんが、
「玲子先生は酸っぱいものが好きなんですよね」
「そうなの」
「これ」
「なに?」
「ぬか漬けです」
透明な小さなビニール袋にきゅうりのスライスが入っていた。
「食べて下さい」
「ありがと」
「また、漬かったら持ってきます」
その夜、ビールのつまみにいただき、
これまた、酸っぱくて、切なくて、おいしかった。

「あれはお母さんがぬか漬けを切って下さったの」
後で聞いた。
「はい、でも今度はあたしが切ってきます」
「今度はあたしが......」って
そういう気持ちもまたうれしい。

こどもたちの土産やプレゼントは
なんて言えばいいのだろう。


今北先生が土産を催促しているから、
友達が空腹の時、おおっ、と喜んでくれるから、
せんべい、いいかも、クッキーいいかも、
思いついた土産に
これ、買って行こ、
同じ中学同士だから割り勘ね。
今北先生には甘いもの、饅頭、クッキー、
私にはちっちゃなもの、
小さな七福神、小さな青鬼、小さななまはげ、
季節アシスタントのMちゃんの小さなピザのマグネット、
同期の人気アシスタントのYちゃんの小さな黒電話、
帰省のたびに連絡をくれるMちゃんの袋一杯の小さな消しゴム、
もう使わなくなったから、と小学生に買ったという小さなショーケースは
2期生の娘、Aちゃん、
東京の私立中に行ったYちゃんの小さな菓子作りのセット、(元気になったあなたからは嬉しかった)
思いだしたらあるある、ほんとうにありがと。

今年の4月に
夫の親友の遺稿集を編んで、その挨拶に九州に出かけたんです。
日程がどうなるかわからなくて、
九州に住む卒業生のSちゃんには事前の連絡はしなかったんですが、
直前になって
何とか会える時間ができて,
Sちゃんに夫が連絡を取ったら、
是非逢いたい、逢えると言うので
九州の小倉駅のホームで
乗り継ぎの1時間ちょっとを利用して会うことにした。

小倉の駅が近づいて来た。
列車がホームに滑り込み、
Sちゃんはいるかな、と
夫と窓に顔をつけた。
一瞬、それらしき家族がホームに見えた。

降りたら、やはりそうだった。
いたいた、
Sちゃんと、横の子どもたち、
あっという間に、4人の男の子の母親になっていたけれど
すぐにわかった。
すらりとした容姿、長い髪、ちっとも変わらなかった。

中学生の長男は都合がつかず、来れなかったと残念そうだ。
「仙台にいたら長男の中学生は、先生の所に北剏舎に絶対、行かせたのに」
Sちゃんは逢ってすぐ、ホームの待合で
私たちにしみじみと、なんだか怒ったように言い、
ついて来た子どもたちに、
「今北先生だよ。お母さんの先生だよ」

ぺこりぺこりと小学生2人と幼児の1人、
3人が小さな頭を下げて、愛らしかった。

ホームの待合で3人が無心にアイスを食べていたら
末の弟は、幼児です。
母のSちゃんの服にアイスのパピコをこぼしてしまった。
「大丈夫?」
小学生の兄二人がかわるがわるにSちゃんの服を拭いている。
母親の汚れた服を先を争って拭く小学生を私は今まで見たことがない。

そして駅構内でのこと、
末の幼児が見るからに挙動不審だ。
歩きながら振り返る。振り返ってはポケットを探る。
「(弟が)切符なくした」
兄二人が察して母に言った。
「探してくる」
小学生の兄たちが走った。
歩いた売店やその辺りを探しに行ったようだ。
まもなく、なかったと二人は戻ってきた。
母が困ったらなんでもする、
ボデイガードのような、可愛くも素敵な紳士たちに感動。
「ええんよ、悪かったんね、(末の弟に)持たしたお母さんが悪かったんよ」
叱らないSちゃんにも感動。
Sちゃん、いいね。
愛しい、優しい息子に囲まれている。あったかい気持ちになった。

Sちゃん
つらいこと、色々あったけれど、
いいお母さん、になったね。
いい息子にも恵まれたねっと思って、
「幸せね、いい子に恵まれて」

「そうなんよ、あたしが疲れていると上二人が下の子を外に連れだしてくれたり、
今北先生に、玲子先生に、
自慢の子どもたちに会ってもらいたくて」

3人の子どもたちに
夫がポチ袋におこずかいを入れて渡したようだ。

1時間はまたたくまで、別れの列車が入ってきた。
なんとも名残惜しく、
夫も同じだったと思う。
小倉を出る列車のドアの前で
別れを笑いに変えたくて、
夫の18番、
おどけて変な顔をしてみせた。
精一杯の夫の表現だったと思う。
Sちゃんの子どもたちの3人が
アハハ、アハハ。
ホームで手を振る3人の子どもたちに列車は発車した。

短かったが、逢って良かった、
あったかいいいひとときだった。
夫と暗黙の了解で向かいあった。

発車してまもなく、Sちゃんからメールが届いた。
「今日はあっという間だったけど、会えてよかったです。
次男のK君が
『おれ、あの先生たちが好きになっちゃった。もっと時間があれば
よかったね』
って言ってくれました。
子どもたちにいろいろ買ってもらっておこずかいまでありがとうございます。
私もさっき渡したプレゼントの中に
おこずかいを入れておきました。
先生たちには昔からいつもごちそうしてもらいっぱなしで、
私も40歳、いい大人です。
たまには娘から親孝行させて下さい。
道中、その土地のおいしいものがあれば食べて下さいね。
お二人とも変わらぬ姿で安心しました。
また、会える日を楽しみにしています」

あわてて夫とSちゃんからの土産の包みを開いた。
「すべらない夫婦箸」が入っていた。
毎年、入試の合否に夫が胃の痛むことを知っている。
ありがと。
そして、大枚1枚が入っていた。

なんとも言えず、
車窓に流れるSちゃんとの10代の時間を、
追った。
思い出は遠いものではない。

中学の卒舎式、「私は北剏舎が大好きです」と泣いた。
高校は毎日家に寄ってくれた。
玄関のチャイムがピンポン、
「ただいま」
Sちゃんと同期の何人かは学校からまっすぐに
自宅に寄ってくれていた。
カバンを持って上がり、
6ヶ月で逝った我が子に線香をあげて
手を合わせる。
Sちゃんの、10代の少女の優しさを毎日もらった。

仙台を離れてからも卒舎式に九州から来てくれた。
「北剏舎、大好き」
言い続けてくれた。
その言葉に塾を続けていく力を、
もらいました。

Sちゃん、
あなたがくれた、仙台を離れる時の私たちへのプレゼント、
背中のねじを回すと、オルゴールと共に
ピエロが頭を下げるあのオルゴール。
もう、ねじを巻きすぎて頭は下げないけれど、
あなたのオルゴールが階段の途中にあります。

この間、帰るとき、ねじを巻いて降りたら、
後ろから中3の最近入塾したYちゃんが、
「この塾は帰るとき、オルゴールが鳴るの?」
「これはね、卒業生にもらったの」
「へえーっ」

15歳の少女たちが
「これ知ってる」と言って
メロデイを口ずさみながら階段を下りて行きました。

お父さんの転勤で、
仙台を離れることになったたあなたの涙一杯の顔と
時が流れ、
今、あの時来れなかった長男を含めて4人の優しい母になったあなたと
どちらもあなたなのだけれど、
「今北先生ありがと」
あのとき差し出した、
10代の、あなたの、
あの気持ちは階段にあります。
あなたの人柄と
同じ優しい音が
今もあります。

私ね、
Sちゃんにもらったオルゴールの曲名が
どうしてもわからなくて、
階段を下りる生徒に、
「デイズニーだよね、何と言う曲か知ってる?」
いつも尋ねておりまして、
「曲名がわかったら、私に教えてね」
頼んでおりました。

6月のある日、
「この曲知っている人がいたら、教えてね」
毎度のことながら階段を下りる生徒に言ったら、
あっ、
梅干しをくれたYちゃんが、
「たぶん、ううん、きっとそう、あれだよ」
「なに、なに?」

「いつか王子様が」

なんかじんとした。

あなたがオルゴールを選んだ、曲名通り、
4人の子どもたち、
武将にちなんだ名前をつけたあなたたちご夫妻に、
王子が、4人も来たんだなって、思いました。
オルゴールを聞くたびに、
あなたの顔と3人の子どもたちを想いだしています。
逢えなかった長男も想っています。
元気でね。小倉のSちゃん。
いつか大きくなった王子にまた会いたいです。

7月
夏期講習が始まる。
朝から小学生に始まり、夜まで講習は続く。
中3も中1、2も弱点補強をしたいと講習の目標に書いてある。
日頃、苦手な分野、
やればいいのに放っておいた教科を
夏期講習でなんとかしたい。
なんとかしましょ、と私も夫も思う。

夏は力強くて、頼もしくて、
自分を変えてくれそうな、
感じがしますもんね。

子どもたちに言うだけでなく、
なら、私も苦手、弱点強化をしなければと思いましたが、
苦手弱点は両手に余るほどある。
去年も同じような心境で目標を掲げた。
押し入れの整理です。
覚悟して、
押し入れに頭を突っ込んで、部屋いっぱいに出したはいいが、
結局、思い出を整理できなくて
無理だな、出したものをまたしまってしまった。

目標だけだった。
今年は実行しよう。
苦手で見て見ぬふりをしていることをやる。
あれだ。

今日は晴れだからできない、今日は雨上がりだからできるけど
プリントが溜まっているから、次の雨上がりまで延期しよう。
なんのかんのと言い訳して、
春から雑草が伸び放題の家の周りの
草取りをしようと決めた。
決めるほどでもない。気がついたらやらねばならないことだった。
怠惰の罰として、雑草を取りやすい雨上がりではなく、
カンカン照りで大変な日にする。
天気予報で「今日は暑くなります」
その日を選んだ。
私も夏期の目標、苦手分野の克服です。

草取りをしました。

改めて雑草ってすごいな、でした。
根が地に深く張っていて、なかなか抜けない。
日盛りの3時間、
なんとか格闘して家の周りがすっきり、からっとなりました。
爽快。
やはり、いやがらずにやるのはいいものです。

でも、いい気分は束の間で
しばらくすると
緑の芽が点々と生えてきた。

なんだか、あれだな。
人の気持ちと似ている。
刈っても刈っても
抜いても抜いても
やってくる悩みや不安と似ている。

これでいいや、
そういうことにしよう、
けりをつけたつもりが
また別の、気になることが芽生えてくる。
家族のあれやこれやの雑念妄想は
これまた、きりのない雑草と似ている。

雑草のように強くありたいが、
伸び放題の雑草を茫々、そのままにしておけば
案じてもセンないことに本日の足元も見えなくなる。

心匠とは、心中の工夫の意、
万物、これ皆、「心匠の師」かもしれない。

玲子


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