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2008年10月 アーカイブ

2008年10月 1日

時にはラップ。

サランラップの端がどこかにいった。
透明なラップの端が分からなければ、使えない。

筒に
まとわるおびただしいラップを捨てるには惜しいものだから、
くるくる
どこが
始まりか、終わりか、
探る。
見つけたと思うと
ラップのちりちりと端は縦に割れていって
切れ目を見失う。

しょっちゅうある。

どこが始まりでどこが終わりか、

こういうとき、
そっちがその気で隠すのなら、丹念に探そうじゃないの?
筒をまわし、ラップの端をつまみ、探す。

もともと、私がしでかしたことだから
文句も言えず、
今日も
ラップの端を探す羽目になった。

慌てないように。
短気を起こさないように。

透明なラップの筒は私が顔を近づけると
お気楽に私を見ている気がする。
「ありますよ、きっと」

おおーっ
見つけたっ!

ラップの端はひらっと光に揺れて
切れ目をさらして、
丁寧に引っ張ったら
横に横になびいて
遂には一反棒のラップになった。・・・

ほーらねっ
ラップの「ピリッ」といい音がした。

探せば糸口は
どこかにある。


今北玲子

2008年10月15日

ちょっとしたこと・・

小学生のMちゃんが近づいて言った。
「黒板消し掃除してもいい?玲子先生」
「いいよ」

いい回しによって
がらりと変わる。
・・・・
・・・「黒板消し掃除してあげる?先生」
・・・「ありがとう」

しかし、
「先生、してもいい?」
「いいよ」
「ありがとう」は発生しない。

恩に着せない言い方になるほど。
夫は
「ありがとなー」

Mちゃんは聞こえてはいるが
黙々と掃除に余念がない。

してもいい?
自分で断ってしているのだから、礼を言われる筋合いではない、
とでも、思っていたのか。

ちょっとしたこと
見習おう。

「教えてもいい?」

今北玲子

2008年10月10日

成績表

「前期の成績を渡します・・・」

入塾まもない子は少し驚いている。
成績表!といってもテストの素点や
5段階評価などではない。

日ごろ、感じたこと、思ったこと、努力したこと、
頑張ってほしいこと
小学生は夫婦で
中1から中3までは夫が綴る。

今日は中2に渡す日、
親御さんに郵送ではなく、
まず、本人に読んでもらう。一人ずつ名前を呼んで
「座って、これを読んでください」

はいと座って読む成績表は夫の手書きの文。

気がついた。
国語が大嫌いで文章を読むのも大嫌いな生徒だって
自分について書かれた文章は
ゆっくり、丁寧に、真剣に読むのだ。
褒められているところは
ほほがゆるんで嬉しそう・・・

自分宛の手紙は嬉しいものだ。

「学年で君は一番がんばった。」
「こつこつとよくやったよ」
自分の評価が5段階でも素点でもないことにほっとして文字を追う。

成績表は夫の発案で手紙である。

「親御さんに見せてね」
「はい」

「ありがと、ございました」

強要したことはないけど、
起立・直立して挨拶していく。

中3の息子が折しも学校の成績表を持ってきた。
神棚に供えて
「拝見」

数字ばかりが並んでいる。
所見にやっと文字を見つけて読む。

係りをよくやったこと、書いてあった。よかったです。
数字メインの
成績はそれは仕方がないが、文字が恋しくなる。
でも、いっぺんに大勢の子どもたちとの毎日は先生も大変だろう。

ふと、22歳の教育実習のことを思い出した。
運動会の総練習で正面の校長先生に向かって
ザックザックと一列になって行進してきた。
職員の末席にいたが、私に向かって大人に向かって
一心に
行進ではなく、やってくるように思えた。
名さえ顔さえ分からない子どもたちに
一体、
私はどうなってしまったのだろう。
ぽろぽろ、涙が止まらない。
この子どもたちは生きているんだ。

皆さんにも・・

わが子の運動会で子どもたちが走るのを見て・・。
笑うのを見て・・

ほおばって食べる顔見て
ああ・・
可愛くて、可愛くて、
いい子だなって思うこと・ありますよね。

笑っている。
食べている。・・・・
理由などない、じわっと涙が・・する・・

教室でも思う。
なんて、いい子なんだろう!あなたがそこにいる。
どこにもいかない感動はそこ・・

「喋ってだめよ」
「ちゃんとおやんなさい」
「丁寧に字を書きなさい」
「なんで、やってこないの?」
言ったりするけど
子どもはなんていいのだろう。
火種は消えない。

塾に来て無口で帰る子がいる。
なんて、いい子だろうと思う。
喋り通しで帰る子もいる。
なんていい子だろうと思う。

私の前で
渡された成績表を
瞬きもせず書かれてある「自分」を読んでいる。
「自分」を見ている。
どの子も懸命に生きている・・・
なんていい子なんだろうと思う。

あなたはここにいるのですね。
「あなたの役にたちたいです」
手でも握りたくなる。

今北玲子

2008年10月28日

こんな時

授業中、夫の携帯が鳴った。
「出て」言われて出たけど、
切れた。
主を見て、
「Y君だ。すぐにかけてやってくれ」
留守電・・・だったから
「授業中ですが、遠慮なくかけてね」
言い置くと
すぐに電話が鳴った。

「どうしたの・」
「仙台に向かっていて、先生たちに会いたいんですけど」
「いいよ、10時まで教室にいるから」
「仙台に着くのは9時過ぎです」

言った通り9時過ぎ、
中2の数学の授業中にY君は入ってきた。

「ひさしぶり」

折りしも
夫は中2の生徒に激怒の真っ最中
「7割やって諦めるなよ。書けと言われたこと書けよ。
詰めが甘いんだよ。ちゃんとやれよ・・」

卒業生のY君は
「玲子先生、中学生と一緒に座っていいですか」
「どうぞ」

鉛筆もノートもないけど、ひたすら夫を見つめて
授業を聞いていた。
「なにかあったの?」

聞かずにはいられなかったが、
中学生のあの時のように夫を黒板を見つめてじっと聞いている。

授業が終わった。
中2の子どもたちが帰るのを
「気をつけてなっ!がんばれよーっ」
Y君は一人ひとりにアシスタントみたいに子どもたちに声をかけた。

やっと、夫の身体が空いて
「よーっ」
しばし、Y君と世間話が終わると
Y君が
「先生、俺、
仕事やめたくて・・すごいんですから。
この年になって
ストレスで盲腸ですよ・・」

激務を話した。
思わず、私、
「いやならやめなさい。我慢することないからね」
「玲子先生、そう言うけど、すぐにやめるのはできないですよ」

誰に言うでもない、自分に言うために来たのかもしれない。

仙台駅に降りて、実家に行かずに
真っ先に塾に行こうって思ったのね。
廊下にトランク二つ、置いてあった。

がんばらなくともいい、やめなさい。
私にそう言われたかったのだろうか。
「そんなことはできないです、がんばります」
自分に宣言してみたかったのだろうか。
「お前は詰めが甘い。7割しか頑張っていなんじゃないのか。」
夫に怒鳴られたかったのだろうか。

どちらでも、いい。
会えたからいい。
どうしているのか、
食堂をたたんで、あなたが仙台を離れて、半年、
心配だった。

「元気そうね、あなたは若いね」
「またまたー本当?玲子先生。友達には痩せてどうしたの?って言われるんですよ」


あなたが十五の時、
「だめだった、先生」
結果を報告に来て、塾の階段を
うつむいて降りる背中に思った。
乗り切んなさいね。

あなたはその後、いろいろ頑張ったと思う。
ふと階段に
「知っているよね、Y君」
「もちろんです」

大好きな義母の口癖
「祈りは一人より二人、二人より三人」
こんな時
私と一緒にお願いします。
「もちろんです。」
塾の階段と一緒に祈る。

乗り切って下さい・・

今北玲子

2008年10月26日

この時期

9月、10月、この時期、
18歳が来ることが多い。
OA入試、指定校推薦、伴う小論、教えて下さい。
お久しぶり!の高校生が来る。

最近、嬉しかったのは小学生まで塾にいたけれど
やめたS君。

「大学入試には先生しかいないと思ったので・・」
あれから
3年ぶり。
「お願いします」
柔道で養われた礼は
教室に
私に・・頭を下げた。

「どうぞ、役に立ちたいです」

塾をやめると言われると何がいけなかったのか、傷が残る。
あの時の失恋・・から3年たって
振られた相手が
「君に会いたくなってね・・」なんて言われた気分になって
「私もずっとあなたに会いたくて」言いたくなったりして・・
八杉先生はやめた子どもたちが戻ってきた時、
「出戻り」と笑って仰っていた。
私は別れた恋人と再会した気分になる。
復縁は長いこと心の下にあった古傷がすっと消える。


又一人、やってきた。
復縁ではないが、夫に進学相談。

「玲子先生にお借りした漢字練習張お返しします」
カバンから出して
「長々とお借りしました」
貸したことさえ、忘れてしまっていたが、
人様から借りたものは律儀に返す、
いい心がけだなって思った。
「あなたに差し上げます。お使いなさい」
[いいんですか?」
「いいんですよ」

夕方に又一人、卒業生。
理科と国語の受験の問題集の相談。

「担任に薄い漢字の本でも買って勉強しろって・・言われたんですけど。
薄い漢字のテキストってどんなものかわからなくて・・

特殊な専門学校受験だ。過去問題を見せてもらったら
高校入試のレベルの高いものでもいいような気がした。
入試は迫っているという。本屋に行くより4年分くらいなら、今、コピーするから、それをやったらいいよ。
いいんですか?
いいんですよ・・
「やっぱり、先生のところに来てよかった。」

塾に行こうかなって
その気持ちになにか応えられたらと思う。


15歳に一旦、さよならしても、
18歳、22歳、24歳、30歳、40歳
なんやかやとここを訪ねてくれるなんて、
ヤッホーです。

私なんか、恩師に賀状を失礼したり、
ご無沙汰ばかり、
皆さん、偉いなって思います。

今北玲子

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