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2008年3月 アーカイブ

2008年3月12日

合格発表

発表が気になって昼食もすすまない。。
3時・・教室の机に電話を置いて両手を合わせて祈る。
全員合格・全員合格・・唱えずにはいられない。
3時きっかりに第一報。
(毎年、卒業生が自分の学校の発表を見てくれる)
合格です、先生・・
切るとまた一本
合格です。
今度は夫の携帯が鳴った。同時に教室の電話が鳴った。
「ありがとう、合格だね・・」
「玲子先生、合格です」
夫が泣いている。私も合格の言葉に涙が答える。
よかった、連絡はすべて合格。

合否が確認できないのはあと二人。卒業生を配置できなかった高校である。
もう1時間以上経つ。
階段を上がってくる音がする。
K君か?
待ちかねてドアを開けると
「先生、合格しました」
お母さんも一緒に入ってこられた。
よかった。入試直前に高熱と下痢に見舞われ、体調が一番案じられた。
試験はまず無事に受けられることだ。
お母さんはどれほど心配されたか。
「先生、ほっとしました」
この日は中3の子どもたちは笑っているが、ご父兄は涙になる。
K君のお母さんと二人で顔を見合わせては泣いた。

あと一人だ、どうしたのだろう?
電話が鳴った。
夫が走って受話器をとって「はい、待ってます」すぐに受話器を置いた。
「玲子さん、これから報告に行きます、だって」
夫が不安そうに
「何も言わないんだよ・合格なら言うはずなのにな」
すぐ、来るというのでいてもたってもいられず
階段を駆け下り、玄関を開け室内履きのまま道路まで出てみた。

あっ来た、数秒が長い。
「玲子先生」
笑っている。大丈夫だ。
「Tちゃん、合格ね」
「はい」
胸につかえていた不安はパチンコ・ベガスべガスの
空に一気に飛んでいった。
「塾の電話番号忘れちゃって・・・」
Tちゃんの家は塾のはす向かい、お兄ちゃんも卒業生だし、
お父さんは夜の会の常連だし、
真っ先に連絡が来るものだと勝手に夫と思っていた。
「お前が一番最後だよ・・バカモン・・でも、ああ、よかった」
合格であれば塾の電話番号を忘れたって構やしません。

「祝・28期生全員合格」夫の手書きの文字が黒板にも玄関にも
張られた。

ふと、28年分の合格発表の日の
卒業生のあの横顔、あの背中、あの握手・・
灯が点るように浮かんでくる。

毎年、夫は志望校の可能性を子どもに伝えるが、
五分五分、四分六、それでも受けたい、という中3の子どもには
「わかった。お前が覚悟して受けるのならそれでいい」
入試前日までとことん面倒を見てきた。

ある年には
志望高を下げろ、家族も学校の教師も大反対、誰だって15歳の涙は見たくない。
「やるんだな」夫が言うと
「どうしても受けたい」決意は固かった。
奇跡は起きなかったが・・
大学は難関をものにした。
何と言われようと挑戦した卒業生の次の展開は力強い歩き方をする。

高校入試は喜びも悔しさも、自分のことも、これからのことも
教科書には書いていない・生きる・ことをぶつけられるのかもしれない。
ある人には普段の努力は報われることだったり、
今に見ておれ、だったり
合否は人間の合否でなく、これからの指標なのだろうと思う。
さっぱりとした笑顔で「落ちました先生・でも大学は見ていてください」
宣言通りの卒業生は沢山いたし、
だめかと思っていたけど今北先生のおかげで
合格しました、合格が励みになって高校に行ってさらに学力を伸ばし続けた
卒業生もいた。

合格発表をさかいに大人のつきあいが毎年始まる。
28年間の卒業生は私と夫の誇りで宝物だなって思う。

でも、よかった。
今年は第1志望高に全員合格だ。

この中には
私立を失敗してどうする?公立は?
五分五分、四分六と夫に言われても
「でも受けたいです」
何としても受けると曲げなかったI君がいた。

父親は「落ちたら父親の私が何とかします」
息子を引き受ける父の覚悟は心打たれた。


 I君はここ1ヶ月、遅くまで残って勉強して合格にたどり着いた。
父親と朗報を持ってきてくれた。嬉しかった。
 I君のお父さんは
「いやあ、よかった。いやあ、先生、本当によかった。おかげさまです、ひと安心です」
父親の横で「アザーッス」
小学生からの付き合いのI君を
私がよかった、よかったと何度たたいてもびくともしない見上げる長身になって
野球少年の彼は逆転ホームランを打ったみたいにたくましく見えた。
 I君のお母さんは・・・
夫が言うには、
「8時半ごろ、階段をものすごい勢いで上がって来る人がいてさ、
誰かと思ったらI君のお母さんで
ドアを開けると今度はオレめがけて走ってきて
先生、ありがとうございますって両手を握りしめられたよ。」
走りたいほど嬉しくて、たぶん、誰にでも
ありがとうと言いたい気分ですよね。

今夜は
中3全員のご家庭は明るく、楽しく、子どもの笑顔に
親御さんは目を細め、
何を言ってもおかしくて、食事はおいしくて、笑い声があふれているはずだ。
夫も私も
中3の一人ずつの今日の笑顔を何度も再生して
なんのつかえもない、すっきりとした幸福のビールは格別だった。
今北玲子

2008年3月 3日

言い訳

3月1日は夫の誕生日。
おめでとう・よかった!
お互いに無事でよくここまで。

夫が寝た後、感謝していたらふと我が家の愛犬が
そばによって来た。
なんと前髪がボーボーすだれのよう、このめでたい日になんという長髪、
主人のお誕生日だもの
美容院に連れて行けばよかったな。
ごめんね。

それなら私がさっぱりとしてあげよう。
今日は夫の誕生日!

はさみで、ここもそこも、前髪さっぱりしましょか・
日本酒をしこたま飲んだその目でどう切ったのか!
一時キャイーン、悲鳴があがった。
どうした?
何が起きたかわからなくて・・・・

きれいになったね・さて・終わりにするね。
いいことしたような気になって私はぐっすり。

次の日の朝、
「なにこれ?だれ?」
末っ子が騒いでいる。
「どうした?」

あらら!
ミニチュアシュナウザーの愛犬は羊のような愛らしいむくむく顔だったのに
顔だけ狐かハイエナ、身体は羊!
自慢の5センチもあった黒まつげはちょんちょん
豊かな顔の毛はジグザグ、ザンギリ頭でどう見てもどんな犬種というべき
コヨーテか?羊の坊主頭?コリーの短髪?たぬきの虎刈り?
ひどい格好に唖然・

なにもかも昨日とは別人・・別犬
なんともあまりの痛々しさだ。
昨夜の私でしょうか?
こんなことをしたのは?

だれ?言われて
「わたし・・・」

額に血がにじんでるよ・ひどいよ・傷つけたよね・お母さん!
はい・・・
責任取んなよ・お母さん
ごもっともで・・・・・

午前の予約を取り、犬の美容院にすごすご向かった。
すれ違う人が驚いて見ていくように感じる。

美容院でなんて言おう・
これは私が主人の誕生日に酔っ払って切ってしまって・

言えるかな?恥ずかしいな・そんなこと・

北仙台の踏切を越えて調理師学校を過ぎれば美容院だ。
ドアをあけると早速
「まあ、どうしました?」
美容院のお姉さんはしげしげと見て言った。
「すみません。
あのー、夕べ、犬好きの酔っ払いの客がこんな風に切ってしまって!
子どもたちが怒ってしまってですね、なんとか可愛くしてください」
「酔っ払いのお客さんに?」
「はい、犬が大好きないい人なんですけどね・ひどい人だったんです・」
「かわいそうに。おかしな人がいるんですね」
「本当にねえ・・」
「ここまで切るなんて・・かわいそう・・血も出てますよ・・」
「はい・・そうなんです。なにしろ酔っ払った方でしたから」
美容師のお姉さんは同情モード・・・だったが・・
あまりの犬のがちゃがちゃの頭を見て
笑いはじめた。
「こんなの初めて見ました・・すいません・・ごめんなさい・・・
すごいですね・こんな切り方・よくここまでひどく切りましたよねえ・・・」
「ひどいですよねえ・・」

大笑いのお姉さんに私も便乗したりして、
とにかく可愛くしてもらうことで引き受けてもらった。

うそはよくないです。
夕方、私は一部始終、それぞれ3人に帰宅すると告白することにした。

中学生の三男に最初の告白。
「よく言うよ。自分でしたのに・」
末っ子には非難ごうごう
「ごめんね。私、美容院でうそついたの・
私が切ったって格好悪かったから。・・ごめんね・」

次に帰宅した次男は
「あっ、そう・」
ほっとした。

長女は
「ところどころ、本当だね。
酔っ払いの客じゃなくてお母さん、犬好きの客じゃなくて
犬好きのお母さん、
すべてがうそじゃないよ・黙っていればいいのに・・・」
笑ってくれて救われた。

ばれない嘘はない!必ずばれる!正直に!
子育て中、いつも言っていたのに面目ない。

三男のお小言は続いた。
「どんなうそついてんだよ。自分でしたんでしょ?」
「うん・でも、ひどい飼い主って思われたくなかったの」
「ひどいのはお母さんだよ」
「ごめんなさい・自分で切りましたって本当のこと言えなかったの・」

そんな言い訳が続いて謝って・・ついに末の子は折れて笑ってくれた。
ありがと・・

美容院の仕上がりは
愛らしいむくむくの子羊のようだったのに
顔に合わせて身体もバランスよくそろえたら
地肌つるつるになったしまった。

言い訳は誰のためだったか?

その夜、皆が寝静まってから愛犬と話した。
ごめんね。
でも
おもしろかったね・・。
チョキチョキ、何かを切るって
私は楽しかった。
あなたもつるつるになって実は気分いい?
美容院の言い訳も少し、楽しかった。
犬を抱いて笑って・・傷つけたのはすみません。
みかんひとつあげた。
これじゃ、納得いかない、つぶらな犬の瞳見て
三個、ごちそうして、チーズも振舞って、つるつる全身をブラッシングした。
いいかな?許してくれる?
言い訳は当の被害者の犬のあなたにするべきだったね。
今北玲子

2008年3月 2日

親心

推薦で合格が決まった生徒でも公立入試まで全員、授業は受ける。
合格が決まったらのんびりとしたいと思うが、
教室が一人欠け、二人欠け、自分の合格が決まればそれでいい、というのは
さびしい。
何かのご縁で出会ったのだ。
最後まで一緒に勉強するのは心が通う気がする。
今年も塾の方針をわかってくれて
連日、中3が教室にいる。

作文書きましょ・
公立高校入試は200字程度の作文がある。
「好きな言葉」過去に出題された題だが、
練習・です・書いてみましょ・

小学生からの入塾のS君の作文の一節。

「自分では不安な仕事を任されて母に相談したら
  『すべてはうまくいっている』
この言葉のおかげで僕は一生懸命にやろうと思った」

いい言葉!
「すべてはうまくいっている」

母に言われた言葉に気持ちは
上向きになっただろう。

S君に
「この作文を読んでもいい?」

「はい」

中3のみんなに紹介した。

「すべてはうまくいっている・S君のお母さんの言葉はなんていいんでしょ?
きっとあなたたちもS君のお母さんの言葉とおりにうまくいきます」

S君は私をまっすぐに見ていた。
母の言葉を紹介されて、
晴れ晴れと笑っていた。
私もS君と同じようにまっすぐに皆を見た。
すべてはうまくいっている。きっと、全員合格です。願った。

もうひとり、この中のI君の父君の言葉が思い出された。
最後の公立高を決める面談の時・
「息子が志望校を受けて不合格だったら、俺に任せろ・・・
親だからなんとかする・・あとのことは心配するな!今北先生、息子に言いました
ですから、息子の受けたい高校を受けさせてください。後のことは私がなんとでもします」
まっすぐに言い切った。

もう、子どもじゃないから
よしよし・・
抱いてやれないが、
15歳の不安な心は抱かれる。

親心は子どもの数だけある。
わが子が
愛しくて愛しくて・・・
でも、幸福はただひとつ、
愛するわが子が笑っていれば
何もいらない。
今北玲子

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