3月1日は夫の誕生日。
おめでとう・よかった!
お互いに無事でよくここまで。
夫が寝た後、感謝していたらふと我が家の愛犬が
そばによって来た。
なんと前髪がボーボーすだれのよう、このめでたい日になんという長髪、
主人のお誕生日だもの
美容院に連れて行けばよかったな。
ごめんね。
それなら私がさっぱりとしてあげよう。
今日は夫の誕生日!
はさみで、ここもそこも、前髪さっぱりしましょか・
日本酒をしこたま飲んだその目でどう切ったのか!
一時キャイーン、悲鳴があがった。
どうした?
何が起きたかわからなくて・・・・
きれいになったね・さて・終わりにするね。
いいことしたような気になって私はぐっすり。
次の日の朝、
「なにこれ?だれ?」
末っ子が騒いでいる。
「どうした?」
あらら!
ミニチュアシュナウザーの愛犬は羊のような愛らしいむくむく顔だったのに
顔だけ狐かハイエナ、身体は羊!
自慢の5センチもあった黒まつげはちょんちょん
豊かな顔の毛はジグザグ、ザンギリ頭でどう見てもどんな犬種というべき
コヨーテか?羊の坊主頭?コリーの短髪?たぬきの虎刈り?
ひどい格好に唖然・
なにもかも昨日とは別人・・別犬
なんともあまりの痛々しさだ。
昨夜の私でしょうか?
こんなことをしたのは?
だれ?言われて
「わたし・・・」
額に血がにじんでるよ・ひどいよ・傷つけたよね・お母さん!
はい・・・
責任取んなよ・お母さん
ごもっともで・・・・・
午前の予約を取り、犬の美容院にすごすご向かった。
すれ違う人が驚いて見ていくように感じる。
美容院でなんて言おう・
これは私が主人の誕生日に酔っ払って切ってしまって・
言えるかな?恥ずかしいな・そんなこと・
北仙台の踏切を越えて調理師学校を過ぎれば美容院だ。
ドアをあけると早速
「まあ、どうしました?」
美容院のお姉さんはしげしげと見て言った。
「すみません。
あのー、夕べ、犬好きの酔っ払いの客がこんな風に切ってしまって!
子どもたちが怒ってしまってですね、なんとか可愛くしてください」
「酔っ払いのお客さんに?」
「はい、犬が大好きないい人なんですけどね・ひどい人だったんです・」
「かわいそうに。おかしな人がいるんですね」
「本当にねえ・・」
「ここまで切るなんて・・かわいそう・・血も出てますよ・・」
「はい・・そうなんです。なにしろ酔っ払った方でしたから」
美容師のお姉さんは同情モード・・・だったが・・
あまりの犬のがちゃがちゃの頭を見て
笑いはじめた。
「こんなの初めて見ました・・すいません・・ごめんなさい・・・
すごいですね・こんな切り方・よくここまでひどく切りましたよねえ・・・」
「ひどいですよねえ・・」
大笑いのお姉さんに私も便乗したりして、
とにかく可愛くしてもらうことで引き受けてもらった。
うそはよくないです。
夕方、私は一部始終、それぞれ3人に帰宅すると告白することにした。
中学生の三男に最初の告白。
「よく言うよ。自分でしたのに・」
末っ子には非難ごうごう
「ごめんね。私、美容院でうそついたの・
私が切ったって格好悪かったから。・・ごめんね・」
次に帰宅した次男は
「あっ、そう・」
ほっとした。
長女は
「ところどころ、本当だね。
酔っ払いの客じゃなくてお母さん、犬好きの客じゃなくて
犬好きのお母さん、
すべてがうそじゃないよ・黙っていればいいのに・・・」
笑ってくれて救われた。
ばれない嘘はない!必ずばれる!正直に!
子育て中、いつも言っていたのに面目ない。
三男のお小言は続いた。
「どんなうそついてんだよ。自分でしたんでしょ?」
「うん・でも、ひどい飼い主って思われたくなかったの」
「ひどいのはお母さんだよ」
「ごめんなさい・自分で切りましたって本当のこと言えなかったの・」
そんな言い訳が続いて謝って・・ついに末の子は折れて笑ってくれた。
ありがと・・
美容院の仕上がりは
愛らしいむくむくの子羊のようだったのに
顔に合わせて身体もバランスよくそろえたら
地肌つるつるになったしまった。
言い訳は誰のためだったか?
その夜、皆が寝静まってから愛犬と話した。
ごめんね。
でも
おもしろかったね・・。
チョキチョキ、何かを切るって
私は楽しかった。
あなたもつるつるになって実は気分いい?
美容院の言い訳も少し、楽しかった。
犬を抱いて笑って・・傷つけたのはすみません。
みかんひとつあげた。
これじゃ、納得いかない、つぶらな犬の瞳見て
三個、ごちそうして、チーズも振舞って、つるつる全身をブラッシングした。
いいかな?許してくれる?
言い訳は当の被害者の犬のあなたにするべきだったね。
今北玲子