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2013年10月 アーカイブ

2013年10月 3日

10月になりました

模擬試験の結果を
夫と二人でひとりひとりに渡した。
点数が上がってつい顔がほころぶ人、
顔には出さぬが、ああ、と内心落ち込んでいる人、
聞こえてきそうなためいき、
「玲子さんに時間をやる。漢字でもいい。なにかしてくれないか」
夫も中3の結果に複雑な心境のようだ。
対策を練るつもりだろう。
あの話をしようと思った。

毎年、中3の冬期講習で休憩がてら好んでする話があるんです。
30年ほど前だろうか、宇野千代の自伝的小説で
テレビで放映された『生きていく私』
「私はこの話がずっと忘れられないの」
そう言って宇野千代役の十朱幸代の話すシーンは
私にとっても忘れられない話で、
んな話です。

(ある時、さそりが海で溺れていました。
そこに亀がやってきました。
「かめさんかめさん、お願いです。私をその背中に乗せて下さい」
亀は
「いやです」ときっぱり断ります。
さそりは頼みます。
「お願いだから、私を助けてください」
「絶対にいやです」
「なぜ、なぜ」
「だってあなたは私の背中に乗ったら刺すでしょ?」
「まさか、命を助けてくれたあなたを刺すわけはありません。お願い助けて下さい」
亀は迷いました。さそりもかわいそうだと思いました。
そうだ、困っている時にそれも今、溺れて
死にそうなときにさそりが刺すわけはない。
「絶対に刺したりしませんね」と亀は言いました。
今にも沈みそうなさそりは
「絶対に、絶対に刺しません。お願い、私を背中に乗せて下さい」
亀は心を決めました。
「どんなことがあっても私を刺さないと約束ですよ」
「わかりました。どんなことがあってもあなたを刺したりしません」
亀は背中に乗せました。
「ありがとう。あなたの親切は一生、忘れません。ありがと、かめさん」
そのときです。
ぶすっ
さそりは刺してしまったのです。
「どうして、どうして、さそりさん、あんなに約束したのに」
さそりは亀に泣きながら言いました。、
「ごめんなさい、ごめんなさい。私は、刺さずにはいられないんです」)

自分で言いながら、
いつも
熱いものがこみ上げたりする。
人は.そう.せずにはいられない、そういうものがあるような気がする。
「歌わずにはいられない」
「走らずにはいられない」
「読まずにはいられない」
「愛さずにはいられない」
無数にある。
止めようにも止められないものが誰にでもあるような気がする。
個性という神様の贈り物か、人間の業の所以か、
避けては通れぬ、踏みつけても踏みつけても
消えないものがあるのではあるまいか。

なぜ勉強をするのか。
この話に
光の粒が
あるような気がするとずっと思ってきました。

人は生まれてきたからには、誰かにわかってもらいたいと思う。
できれば自分を伝えたい。表現したい。
そう思う。
そして自分はこう思いますって言いたい。
知識は表現しようと思った時、助けになる。
漢字も歴史も、関係がないようにみえても数学も
(音楽も体育も、裁縫だって料理だって)
私はこう思う、と言いたいことに見えない力を貸してくれる。
だから勉強するのではないでしょうか。
とても大事なのではないでしょうか。

と、いうようなことを中3に話した。

伝わったかどうかはわからない。
でも自分の好きな話を伝えることは
15歳のみんなに
「私はこう思うんです」
分かってもらいたいと思うことでした。
勉強は苦役ではないのです。
親に叱られたり、褒められたりするものではないんです。
あなたを表現する方法を学ぶものだと私は思っています。
これを言いたかったのかもしれません。

私の祖父は法律を晩年に学び出しました。
ことあるごとに私に、
「勉強に遊べ」と言ってくれました。
夫は、母親から
「人さまのお役に立つように、勉強せよ」と教えられたと言っていました。
十人十色で正解はないのでしょう。
でもそのひとつに
刺さずにはいられない。そうせずにはいられない。
あなたのさそりを大切に、してもらえたらと思います。

さそりでふと思った。
毎年、年が明けた1月2日の事はじめに
全員合格祈願で
大好きな梅干し断ちをしてきた。
日に5個も6個も食べる大好きな梅干し。
今年は二ヶ月早く、今日から梅干し断ちを決行にすることにしました。

さそりの話をした後、
テレビを見ている人? 中3に聞きましたんです。
正直に手を挙げた数にびっくり。半数を超えていました。

テレビはやめなさい。
憧れの高校があるなら、願いを叶えたいなら、
我慢しなきゃね。
受験は永遠に続くことではなくて、いずれ、あっという間に
終わる。
テレビを見ている場合じゃない。そんな暇はない。
どうしても見たいなら、食事のときだけね。
受験生にとって食事は最大の楽しみ、そのときだけ見てもいい。
あとはテレビは見ない。
ねっ。
受験が終わったらゆっくり見なさい。

今の話を聞いて、テレビを我慢しようと思った人はいますか。
はいっ、
小学生からのつきあいのK君が威勢よく手を挙げた。
「はい」「はい」「はい」
声は小さかったが、
のそのそと何人か手を挙げた。

中3に我慢させてばかりでは申し訳ない。気が済まない。
私も、我慢しなきゃと思いまして。
本日、日がかわる深夜11時55分に
三月の入試まで食べない覚悟で
最後の梅を寝しなに口に入れ、
ゆっくりと味わい、
願かけの梅干しを種をサランラップで包みました。
ああ、食べたい、梅干しを思い出したとき、
これを見て我慢できますように。

誰かにつながりたいと思えば、
誰かの幸福を願いたいと思えば、
私もそれくらい、我慢する。
なにかを差し出さないと全員合格の神様は
振り向いてくれない。

いずれあなたが大人になって
愛する人、愛する我が子の
幸福を願う日が来ます。
それまでは
あなたが愛しくて、心配で、
幸せになってほしいと思っているお父さんやお母さんや
あなたを知る誰かに
ひたすら幸福を願われる子どもでいいんです。
自分でできることをして下さい。
テレビはやめなさいよ。ゲームもね
玲子






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