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2013年11月 アーカイブ

2013年11月29日

雑感

12月
ご父兄との面談が始まった。
朝10時から昼をはさんで午後3時から4時半の小学生の授業が始まるまで、
親御さんと日に5組、6組と会う。
中3ともなれば
志望校と今の実力は気になる。
どうなんでしょうか。
「親の覚悟は聞いておきたいんですが」
夫がおずおずと尋ねる。
「私立に行かせてもいいから、公立は思い切って受けさせるか、
あるいは私立には行かせたくないから
志望校を下げるか、勿論、今ではないんですが、
親の覚悟というか」
「公立は下げます」という親御さんもあれば
「私立でもいいんで、好きな公立を受けさせます」
という親御さんもいる。
「もちろん、志望校に合格できるように私たちもがんばります」
夫と共に私も頭を下げる。

今日も何組かの面談がある。
朝、10時少し前、
自宅から庄子八百屋さんの道を渡り、
北仙台駅に
「おはようございます」
挨拶をして
教室に向かった。

ピユー、
北風が吹いた。
ミスドの前にたまっていた枯れ葉が
風に押されて駅に向かってひとかたまりになって走り出した。
ケヤキの葉っぱ、柿の葉っぱ、駅前の木々いろいろの葉っぱたちだ。

からから、ころころ、からころ、ころころ
北仙台の駅に向かって走り出した。
ミスドの前で足が止まった。
なんだかかわいらしくて。

そのうち葉っぱの集団は帯になった。さらに北風がひと吹き、
風の勢いは葉っぱたちをさらに走らせた。
からからころころ、
あらら、
まるで運動会のようだ。
北仙台駅をゴールと目指した葉っぱたちに
また北風が吹いた。

葉っぱさんたちはコーナーを曲がるように、
通りに孤を描いた。
行き先が変わった。
ゴールは郵便局ですか?
勝手に決めたりして。

おお、ただ今、柿の大きな葉っぱがトップです。
負けてはいません。ケヤキが一枚、追ってます。
小さなケヤキの葉っぱ、頑張っています。
接戦です。
柿の葉っぱ。
いや、ケヤキの葉っぱ。
郵便局の赤いポストをゴールに、力走です。
どちらが、一番か、
ケヤキか、柿の葉か。
おっと、小さなケヤキが追いあげました。
なんと、倍もある柿の葉を抜きました。
赤いポストの前にケヤキが
ゴール!
一等はケヤキの葉っぱ!

風がやんだ。
トップのケヤキの葉っぱが止まった。
振り向いた。
別れてしまった駅の横の、
母のケヤキを見上げている気がして。
私も戦後60年の大木、ケヤキを見上げた。
「ケヤキのお母さん、お子さんトップですよ」
幾千、幾万もの葉っぱたちを落としたケヤキのお母さんも
通りに躍り出た、忘れもしない我が子の運動会を
目を細めて見ていた気がして。

振り返れば母がいる......か。
いいな。

子どもにとってうれしい時、困った時、
「お母さん」と振り返る。
呼んだら、母がそこにいる。
いいですよね。
枯れ葉一枚になったって、
「ほらね、一番だよ。お母さん」
大好きな母を振り返った気がして。

私もすでに母は天に召されたが、
時々、
「お母さん」って呼んでしまう。
たとえ星になっても風になっても
天空どこからでも
振り返る母が脳裏に浮かぶ。

「お母さん」
「どうしたの?}
「元気です」
「それはよかった」

今日もお母さん方に会う。
塾の様子、最近、よくできたこと、
見えないことを伝えたい。
「そうですか。家ではさっぱり勉強しないけれど
塾ではまじめにやっているんですね」

いつだって振り返る子どもたちの
お母さんたちには
我が子の良さを知ってほしい。
母親は子どもが頑張っている姿に、力が出る。
だから、塾生の、あなたたちの良さを伝えます。

面談・最終日
子どもたち3人も塾に預けてもらっている、Tさんのお母さんで面談は終わる。
最後の面談のお母さんです。
ひとしきり、3人の塾の様子を伝え終えて、
夫が思い出したように
「この間、末っ子のK君が算数の問題をいっぱいしてきたんですけれど、なにか
ありましたか」

普段のK君は、
「あっ、忘れた」
よくあることで、
私は知らなかったが、夫の記憶では
普段のK君とは思えない量をある日、して来たのだそうで、
「ああ、あれですか」
お母さんも思い当たるようで、
夫が
「何か理由があったんですかね」
K君のお母さんが口に手を当てて笑った。
私も興味津々で、
なんかあったんですか?

「あの日は今北先生が、退院してくる日だったから、
先生ががっかりしないように、
いっぱい勉強して
先生に喜んでもらいなさいって言ったんです」

(1週間程入院しましたが、夫はすこぶる元気です)

夫も私もすぐには返事ができなかった。
そうですか。
そんな優しさがこのご家庭でつぶやかれていたとは思ってもみなかった。

勉強をしていくことが今北先生を元気にするんだからね。
お母さんに言われて
「そっか」と思った小学4年生はたくさん勉強してきた。
ちょっと困るほど涙が出た。
「ご家庭で主人をそんな風に思っていただけたなんて」

定期試験ともなれば、
1点でも多く、1番でも順位が上がれば
私たちも親御さんも双方うれしい。

でも点数や順位が上がったのではなくて、
別方向からやってきた贈りもの。
今北先生が喜ぶんだから
勉強をたくさんしていきなさい。
うん。
学校の点数も順位も
反映されない、今北先生が今日喜ぶこと。
夫も「そうだったんですか」
無言で下を向いた。


11月
心の残ることがありまして。
高校進路説明会です。

去年、
中3だったA君が目の前に座るまぶしい高1を前にして
何気なく私に言った。
「来年、僕はあそこに座っているんでしょうか」
「大丈夫よ」

高Ⅰに通信を添えて
「是非来て下さい」と郵送した。
ほぼ全員、
11月の「中3のために本音の高校進路説明会」に出席してくれる連絡が来た。

昨年は全員合格ではない。
志望校に入学できなかった生徒にとって、
悔しさとそんな場所に行きたくないというのは正直なところで、
全員に出したはいいが、その出欠さえ、
申し訳なく、
涙を飲んだ生徒には出さない方がいいのではないか。
でも連絡が来なかったら、ああ、落ちたから連絡も来ないんだ、
そう思われるのもどうかと思って、
全員に連絡したのでした。
落ちた子も受かった子も、
11月の土曜日、午後3時、集まってきました。

「玲子先生、説明会には、みんな来ますか」とA君が聞いた。
「だいたいね」
「M子は?」
「来てくれるって電話もらったよ」
「まじっすか!」

出欠の返事は電話だった。
M子ちゃんは「いきますいきます」
その即答の電話の声はうれしかった。

M子ちゃんは
中学校3年間、意中の高校に合格するために定期試験は完璧の
内申点を手中におさめた。
中3になってからは学校から直行で重いかばんを肩にかけ、いの一番で
教室にやってきた。
その姿に、牽引されるように、ひとりふたり、
ほぼ全員が夕方には揃った。
そのM子ちゃんが
誰もが合格を疑わなかったのに、不運を味わった。

実力は充分でも受験は非情なことがある。
M子ちゃんは入学後、しばらくしてやってきた。
「挨拶が遅れてすみません」
高校入学後、塾に来なかった自分の非礼を詫びた。
心配だったから会えてうれしかった。
「だいじょうぶ?」
「なんとか」
「来てくれてありがと」
「すみません。先生。すぐに塾に来ようと思ったのに、遅くなって」
抱きしめたくなった。
何も気にしなくていいの。
あなたが元気でやっていれば。

そのM子ちゃんが来る。
遅れてもいいですか?とM子ちゃんは電話口で言った。
どんなに遅れてもいいよ。待ってる。

高校説明会が始まった。
A君に
「去年、あそこに座れるんでしょうか、言ってたね。座ってるね」
「はい」
続々と高1が照れくさそうにやって来て、中3の前に座った。
恥ずかしそうに、でも誇らしい高校生の顔になっていた。
少し遅れてきた二人、S君とK君が、階段を駆け上がってきた。、
「行事があるから来れません」
と言っていたのに、
息せき切って、二人で顔を見合わせた。
「間もあった!」
「俺たち、どんだけ、走ったの」
「だよな、間にあった!」
ありがと。無理させたね。高校の行事をさぼったの?
「いえいえ、だいじょうぶです」
ほぼ全員そろった。

ひとりひとりに夫が質問をする。
「去年、この時期に、どんなことをやってよかったと思いますか?」

「今北先生に何度も質問すること」
「年表を何度も見ること」
「とにかく塾に来ること」

なにか言いたいことは?
「入試のとき、三角定規が机に出ていなくて焦った。かばんに入っていたのに、
上がっているからなので、
本番では三角定規は机に出しておくこと。確認すること」
「勉強しなさいって、親は子どもに言わないようにしてください」

ふと見たら、
高1の諸君の中央が1席空いている。
誰もそこに座ろうとはしない。詰めようともしない。

まだ来ないM子ちゃんのために1席空けて待っている。
真ん中は、M子ちゃんの席なのだ。

塾直行のM子ちゃんは
教室に入り、席に着くと、教科書を広げ、鉛筆を持ち、
寸暇を惜しんで、迫力ある勉強をした。
みんなより早く来て、帰るのは最後だった。
その姿が、けなげに美しく私の中に浮かんだ。

階段を昇る音がした。
M子ちゃんだ。
ドアを開けると、笑って立っていた。

来たよ、
私の声に高1の全員が少しずつすれて、中央はさらに大きな一つの席になった。

M子ちゃんは淡々と今の高校生活を話した。
やりつくした受験のことは言わなった。
夫も質問しなかった。

同級生が
「M子!」
「M子!」
座ったM子ちゃんに呼びかけていた。
私も
「M子ちゃん、今日来てくれてありがと」

受験勉強は一人でするものだけれど、
孤独なものだけれど、
隣の人に触発される事がある。

そういう塾で知り合ったご縁で受験勉強を乗り切ることは
毎年ある。

私が頼んだわけでもない。
みんなも打ち合わせたわけでもない。
高校説明会に来て、座って見れば、
中央の席は
だれでもなく
ここはM子の席だって、
思ったのかもしれない。

M子ちゃんの悔しさや
それなのに、高校説明会に来るなんて、すごい。
俺だったら
私だったら、
来ないかもしれない。

みんなはいろんなことを想いながら、座ったのだろう。
そのうち、真ん中の席には座れなくなったのかもしれない。

中3の時に親とけんかして家出した話や、
親の一言にプライドが傷ついて泣いたしまった話や、
でも、中3のみなさん、どうか頑張って下さい、
高1が全員そう言った。

説明会も終わりに近づいたころ、遅れてきた高2がいまして。
昨年は部活で来れなかったので、
今年はお願いしますと言ったら来てくれたG君。
「親はいろいろ言うかもしれないけれど、
それは親が心配してくれるということだから、感謝して
頑張って下さい」

さすが、G君。
あなたも塾に来れば、誰も寄せつけない迫力で勉強したっけ。
それに高2ともなれば言うことが違う。
ご父兄の誰かが、
「G君は立派ですね。G君みたいにうちの子はなれないですね」
「なれます。なります。大丈夫です」
「ほんとですか?」
「はい」

子どもは一年一年と育つ。
大人になることを間近で見たよう高校説明会でした。

そして、
今日もこのブログを読んで下さった皆様へ、
この一年、
気まぐれな、隔月ブログにおつきあいいただき、有難うございました。
来年もよろしくお願い申し上げます。
今北玲子

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