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そして卒舎式

私のブログは隔月か、忘れた頃にやって来るような
ことでして
すみません。懲りずにおつき合いくださいまし。

3月6日
公立高校入試が無事に終わりました、報告にみんなが帰ってきた。
ごくろうさん。
気になる作文の題。
「玲子先生が出した題と同じものが出ました」
ほんと?ヤッホッ!
書けた?
楽勝、5分で書きました。T君。
なにより。

夕方から全員がそろった。3月8日の卒舎式の打ち合わせ。
打ち合わせといったって、卒舎式が初めての生徒にこんなことをやります、
そういう説明だけです。
張り詰めていた空気は教室のどこもかしこも緩んでいた。
中には思わぬ失敗、不覚、のような表情も見えた。
でもとにかく終わりました。
悔いるなかれ。
結果は野となれ、山となれ。

3月7日
明日の卒舎式に向けて中1と中2が飾り付け。
私は練習不足のピアノと格闘です。
卒業生に贈る感謝状、卒業生からもらう文章にBGMでピアノを弾く。
前もって練習すればいいものを、入試が終わるまで、
鍵盤に向かう気にはなれず、
よくて、一週間前、3日前、なんと前日に慌てて練習したりする。
今年は23名、一人一人に2曲を弾くと46曲。
まだ選曲もしていない。
鍵盤に手を乗せた。全く駄目、手が動かない。
去年はやり過ぎて、左手を痛めて、
卒業生の整形外科医のS君にお世話になった。
無理はすまい、でも明日、弾けなかったら申し訳ない。
私ができる、唯一のことです。がんばろっ。

夕方6時から弾き続けて夜の10時、
高校生クラスの皆が帰り支度です。
今春高3になるRちゃんが、
「卒舎式は明後日って雰囲気ですよね、でも明日なんですよね」
散乱した机、椅子、飾りの花も途中、
受験でてんやわんやのプリントの山、
明日が卒舎式とは思えない教室です。
考えれば毎年そうなんです。
「明後日の雰囲気ですよね」
おっしゃる通り、
「でも、明日4時、卒舎式をするよ、なんとか卒舎式に行くの」

明日の準備を高校生にもアシスタントにも頼んでみた。
中2や中1が
準備に来るのは午後3時、卒舎式が始まる1時間前です。
どうしよう。ほんとに明後日ならいいけれど。
ああ、去年はMちゃんやYちゃん、大学を決めたM君や、
手伝い人は多くて、てきぱきとやってくれくれたのに、
今年は夫と二人でやるしかないか。
「大丈夫ですか」
高校生クラスの何人か心配してくれて、
「なるべく早く来ます」「おれも」「私も」
言ってくれまして。
最後にさよならの挨拶に来た18歳、浪人中のJ君が
「よかったら、午前中に来ますけど」
「助かる、ほんと」
「ええ、暇ですから」
「じゃあ、10時頃、お願いします」
すがりつきました。

J君は3月から塾に戻ってきた。
中1で学校に行けなくなり、塾もやめてしまった。
あれから5年、18歳になった。
高校生クラスに一度来たが、それっきりだった。
最近、お母さんから連絡がありまして。
「北剏舎に行きたい。居場所は今北先生の塾だって言うもんですから、
あの子の言うことはもっともだと、あまりに正しい気がしまして。
よろしいでしょうか」
勿論です。
早速、J君は朝から夜まで勉強をしに塾に来始めた。
J君に
卒舎式って覚えてる?
「ああ、小6の時、見ました」
退屈だったでしょ?
「はい、長くて、小学生にとってはつまんなくて」
その小学生にはつまんない卒舎式が明日です。

10時。
J君が約束通り、やってきた。
教室には誰もいない。
高校生もアシスタントも中学生も午後にしかやって来ない。

夫は感謝状を巻紙に筆で書いている。
私は練習をしている。
昼過ぎまで
J君はひとりで、掃除機をかけ、ゴミ袋にせっせと散らかったゴミを入れ、
椅子を運び、机を運び、
中3の雛段をひとりで作った。

階段もピカピカにし、玄関のマットもあげて
隅々まできれいにしてくれた。
救世主とはあなたのことです。
昼に三人で西友のお弁当を買って広げた。

13歳から今まで何もできない塾でした。
それがよもや、卒舎式の前日に、こうして3人で昼食を食べるなんて
想像もできなかったし、
今のこの時間が嬉しくなって、
どこでどうして、どうやったら会いたい人に会えるのか、
J君が感動だったりして、
練習もしなければいけない、夫は感謝状を書きあげなければいけない、
切羽詰まった中に
3人に流れている時間に、うるっとする。

お弁当を食べ終えて、
お願いしますと出された入塾申込書をもう一度読むことにした。
なぜ、この塾をえらばれましたか。
そこを読んでいない気がした。
J君の字で
「人間くささ」

最近、見た映画で心に残る言葉がありました。
(神様がいるとしたら、人の心の中じゃない。
人と人のわずかなすきまにいる。)

隣に座るJ君の小さな距離がとてもあったかかった。

卒舎式
午後に高校生も来て、中1、2も来て、なんとか間にあった。
午後4時、卒舎式が始まりました。
「ももくろZ」の曲にひとりひとりが入ってきた。
三男の息子がよく聞いていて、歌詞が気に入ったもんですから。

感謝状です。
短いつきあいもあれば、小1から中3まで、
義務教育の9年間の同窓会会長の息子まで、
23名。
あなたの思い出を、長所を、この数カ月、どれだけ頑張ったか、
15歳のあなたの受験は見事でした、と
全員に綴った。

小袁治師匠の今年の演目はちりとてちん。
(旦那の所に男が訪ねてくる。この男、出されたものには初めて、と
何を出しても感動する。旦那は、ふと、知ったかぶりをする男を呼び、ひと泡吹かせようと一計を案じる。
やってきた男に、
水屋にあった腐った豆腐を「ちりとてちん」という珍品と偽る。
「ちりとてちん」を知っているかと旦那は男に聞く。
勿論、知っていると男は蘊蓄を傾けた。それではどうぞ、旦那が食わせてみると、
あまりの臭さに、知ったかぶりの男は目を白黒。
味はどんなだと旦那が尋ねると、豆腐の腐ったようだ。)
前列の小学生が爆笑、中学生もご父兄も、小袁治師匠の
腐った豆腐を食べるくだりに、大爆笑でした。
私、
先生と呼ばれてしまうこの仕事に、皆が笑い転げる
落とし穴があるなって思って、
笑いながら戒めました。
正直に知らないことは知らないということ。
大切なことと思っておりましたが、
「この本、知っていますか」
知っている作家だと、
「この作家はねえ」
知っているかどうかを聞かれただけなのに、
余計な、説明をしてしまったりする。
私たちに、ここぞとばかりに教え込む癖は往々にある。
小袁治師匠、ありがとうございました。
先生と呼ばれる、職業の、知ったかぶりの「ちりとてちん男」が見えました。
人に笑われないと見えないことってありますね。

みんなからの文章をもらった。
ピアノを弾きながら、文章を聞きながら、思い出も浮かぶ。


Kちゃん、
声が聞こえてきた。
「塾を探していたけれど、高校中退の私を引きうけてくれる塾は
ありませんでした。引き受けてくれてありがとうございます」
浪人を余儀なくされたKちゃん、つらくて涙ボロボロ、泣いたこともあったね。
ほんとによくがんばった。Kちゃん。

S君、
背の高さと同じで性格はのびのびと、穏やかで、ずっと塾生であったような、
懐かしい気がしたのは、初対面の時だった。人の出会いって、
そういうことってあるね、やさしいあなたを何年も知っていたような気がして、S君。

Y君、
最後の月謝袋の中に、Y君のお母さんから手紙があった。
『入塾の月謝袋に、玲子先生が『とても良いお子さんですね。見れば分かります』
と、メモを書いて下さったときは嬉しくて。......これからはこの言葉を思い出して、見守っていきます』
私、本当にそう思いました。今もそう思っています。Y君のお母さん、Y君。

Sちゃん、
英語の美しい発音、それに文才があります。将来は編集者になりたいと作文で書いていた。
あなたの夢が続いていたら、集英社の卒業生を紹介しますね。Sちゃん。

H君、
あなたの笑顔は人を楽しくする。
こうやって生きていけばいいんだといつも思ってた。
期待通りの夫の相方、楽しいキャッチボール、ありがとう。
あなたでしかできなかった。

K君、
丁寧で真面目で、親切で、母を想い、父を尊敬する、
授業が終わると、「玲子先生にお聞きしたいことがありまして」
日頃の思っていることをなんでも話してくれて、
あなたの心が見えました。

S君、
野球一筋、その芯はあなたを大きくする。
甲子園も夢じゃない。がんばれ。うんとがんばれ。

Nちゃん、
卒業生の娘、家が遠かったから、学校からまっすぐに塾の、2年間は
えらかった。あなたが教室にいると母娘の二代に感謝と同時に、
卒業生のSちゃんへ、
あなたも強いけれど、あなたの娘は違う強さを持っている。頼もしい娘です。

H君、
素顔は面白い。でもキャンプや授業中、
その年できりっとした常識をわきまえていた。すごいですっ。
入塾以来、定期テストの成績が毎回伸びたよね。
それはあなたの努力なんですが、塾とすれば、
のすく快挙と嬉しさを存分にもらいました。ありがと。

Y君、
家は近いのに、遅刻する。模擬試験も遅刻、それはあなたの良さかもしれない。
そうよね、真似のできないその大らかさは、人柄の良さとして、あり、です。
自分の字を愛せよ、夫の言葉を肝に命じたあなたの字は
味があって、美しくなった。Y君。

Aちゃん、
自宅のマンションを素通りして塾に来たもんね。無口だけれど、
誰にも曲げないへそを持っている。私もそうありたい。

R君、
もっともっと自信を持っていいんですよ。
俺って、いい人間だぞって言ってやんなさい。
言わなくとも、心の中でつぶやいていいんです。あなたに旗を振っていますから。

Sちゃん、
後輩を紹介してくれてありがと。さばっとした気性は
男前です。女が惚れる女、っている。無論、あなたはどちらにも。

Iちゃん、
体調が悪いのね。欠席のあなたの椅子は詰めてもらったけど、感謝状も、お揃いの、北剏舎Tシャツも、あなたのイニシャルを入れて用意してあるからね。
困った事や、学校の悩みを相談してくれたのに、思うようなアドバイスができなかった気がする。ごめんね。
でも、これからも、あなたが笑顔でいることを一生懸命に考える、Iちゃん。

K君、
ぬいぐるみの羊のショーンを買ってきたのは、
約束だったし、あなたが和むことが勉強の力になれたらと思ったんです。
「ありがとございます」丁寧に頭を下げられ、恐縮でした。
その後、ショーンを見たら、
自分の中学校のネームがつけてありました。返礼痛み入ります。
私と趣味が一緒だったもんね。私の好きな、あなたも好きな、あの小さな犬を
退場の時、プレゼントするって決めています。

Sちゃん、
「みんな合格してほしい、だから、最後まで私ができることは一緒に勉強すること。それって当たり前のことじゃないですか」
前期で合格した日記に書いてあった。
こういう文章は、私、好きです。
人の幸せを願える、なんて、大人でも出来ない。
ありがとう。その気持ちが嬉しかったのなんのって。

S君、
あなたの力からすれば、義務教育は物足りなかったでしょ。
進学する高校は手強い。
多少の挫折はあると思うけれど、かすり傷と思ってがんばんなさいよ。
塾日誌はからりとさわやかで、S君そのものだった。

T君、
いろいろあったね、と思った途端、
よく通る、いい声のあなたの声が聞こえてきた。
「玲子先生を泣かせてしまいました」
耳に飛び込んで、涙で楽譜が見えなくなりました。
ピアノを弾きながら、いえいえ、と首を振るのがやっと。
ありがと。
でも、あれがあなたを成長させたんです。あなたもわかっていたと思う。
そして、志望校。塾だからその高校は難しいって、言ったけれど、
最後の最後まで志望校をがんとして譲らなかった、あなたの意志の強さは
生涯忘れない。

(今年は、志望校を譲らない気骨ある生徒が何人もいました。
 心配だったけれど、塾の合格率はどうでもいい。
本気の挑戦は誰も止められない)

Hちゃん、
名は体を表すと言うけれど、
そういう名前を両親からもらったのね。
人と同じことはしたくない、それでいいと思う。

A君、
この場を借りて
「母上様、毎日おにぎり、ありがとうございました。」
向こうに座る母親に深々と頭を下げるA君が視野に入った。
学校から塾に来て、延々と6時間もいるあなたにとって、
束の間の6時過ぎの休憩に、頬張ったおにぎりは
格別だったろうと思う。
普段言えない事を面前で言えるということは表現力の素晴らしさ、最高です。
お母さんは、あなたの言葉に泣いていらしたと思う。
あの高校に入りたい、入れるだろうか。
焦りをねじ伏せるように、ひたすら勉強する姿は目に焼きついています。
あなたの作文は毎回楽しみでした。どれもこれも面白かった。

K君、
中3だから、テレビは我慢しなさいよ。
即座に、「はい」と高々とひとり、手を挙げたのはK君。
小学生の頃から、何を言っても憎めなくて。
ご両親から、神様から、誰からも愛される、贈り物をもらったんですね。
大切にね、K君。

Mちゃん、
入試前の日記に、受験は不安でしようがない。眠らなくとも大丈夫な身体がほしい、と連発のあなたに、入試前日に、
不安は消してはあげられないけれど、
明日(入試)の不安を置いて行きなさい。
はい、
私の胸に
本気になって、笑いながら、見えない不安を空気に見立てると
手に持って、玲子先生に置いて行きます。
そう言った素直なMちゃん。
あの一瞬の場面はあなたと私と二人だけものだね。
卒業生のお母さんは
去年の夫の入院に、忙しいのにわざわざ見舞いに来てくれて、明るく励ましてくれて、その後、面談で弱音を吐いた夫に、
「男は弱いから、先生、落ち込まないでよ」
あなたの肝っ玉母さんに、救われ、
夫の強力なカウンセラーになってもらいました。
Mちゃんも、あなたのお姉ちゃんも
あなたのお母さんのような、男を励ます、そういう妻に、母になります。
早々と、高校生クラスに来ます。すっごく、うれしかった。
あと3年、一緒にいられる。

N君、
15年前の12月3日、あなたが誕生した日、数日して初めて会った。
あの日の甘い匂いのあなたから始まって、
途中、あなたの親友が塾を辞めてしまって、
あなたも辞めるかと毎日が怖かった。
辞めなかったのは、あなたを慕う仲間と、1期生のお父さんの素晴らしさ、お母さんの理解だったと思う。
小1から中3まで、
今まで塾生に9年の在籍はありません。
高校生クラスも来ますって。言ってくれて、その夜、夫に報告。
しみじみと「嬉しいなあ」「うれしいよね」とビールで乾杯しました。
在籍、12年はN君、あなたただひとりだもんね。
なにもかも楽しかった。これからもよろしく、とっても嬉しいです。N君。

ピアノを弾きながら、ひとりひとり、の時間が脳裏に浮かぶ。

この時間はいつか流れて通り過ぎるのだろう。
みんなにとって、卒業生にとっては、
あのとき通っていた北剏舎の夫婦は、
ちらっと思い出すほどの、思い出の大人になってしまうのかもしれない。
でも私たちの心にひとりひとりは残る。
何年経っても、通り過ぎることはない。
15歳のあなたは一生懸命だった、
毎日をどうでもいいなんて、ひとつも思ってもいなかった。
忘れません。

3月12日合格発表

全員合格とはいかなかった。
しかし、全員が果敢に挑戦した。それに間違いはない。
「もし、だめでも、あの高校を受けておけばよかった。
そう思いたくない。後悔したくない」
挑戦した何人かの、共通した言葉でした。
自分で、
自分を引きうけるとは、こういうことかもしれない。

ああ、青春の、高校が待っています。
行ってらっしゃい。
元気に楽しく過ごしなさいまし。
あとで慌てないように、勉強だけはしなさいよ。
玲子


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2014年3月 4日 22:33に投稿されたエントリーのページです。

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