高校生クラス
5月、6月
「玲子先生、お久しぶりです。〇〇です。覚えていますか」
「Y君でしょ」勿論です。声でわかります。
「高3になりました。また塾で勉強したいんですけど、
いいでしょうか」
なんとなんとうれしいこと。
どうぞ、どうぞ、待っています。
大学受験勉強を塾でしたいなんて、
うれしい限り。
数日して、高3のAちゃんからも、
高校生クラスに入りたい、と
夫がうれしそうに伝えてくれた。
しばらくして、
「高校生クラスにいきたいんです」
今度は高ⅠのK君、T君。
部活で疲れて勉強がなかなかできないらしい。
どうぞ、どうぞ。
高校生クラスに授業はない。
「高校生になったら塾はないんですか」
中3の頃、塾で毎日勉強したのに、高校生になったら
塾はない。もう塾は終わりですか。
それなら、わからないことを聞きにきていいよ。
1回が2時間、週2であれば4時間、
高校に合格して安心して、部活にいそしんで、疲れて帰宅、
なにもしない毎日が続き、
気がつくと定期試験、わからないところが山のようになって、
にっちもさっちもいかなくなる。
ここで勉強したいなら、いいですよ。
20年くらい前に高校生クラスを作った。
当初は卒業生だけだったが、
最近はチラシを見て、
卒業生以外にも申し込んでくる高校生も多くなった。
卒業生のアシスタントがその時間の面倒を見てくれる。
予習、復習に使う人もあれば、
授業で分からなかったところを質問する人もある。
自分で予定を立てて利用する、それが高校生クラスです。
私たちにとって、
大半が卒業生の高校生で、
会えばうれしく、
「勉強してる?」
「やばいです」
「がんばってよ、試験は?」
「あと2週間」
「もう毎日きたら?」
「ですよね」
試験前になれば、毎日、やってくる。
中学生の時のように、階段で教科書を読んだり、
疲れて寝ていれば起こす。
中3にとっては、
高校受験を乗りきった憧れの高校生であり、
高校生にとっては
かつての自分がそこ、ここにいるような、懐かしくも、
15歳を思いだすところかもしれない。
ご父兄から申込書と共にお手紙をいただいた。
「早いもので大学受験の年になりました。
再び、お世話になります。
きっと戻りたくなる環境なのでしょうね。
どうかよろしくお願い致します」
「また、お世話になります。
受験生として、勉強する場所は
やはり、先生のところだったようです。どうかよろしくお願いいたします」
「このたび、息子が、
『また、塾に戻ろうかな。』とポツリ。
高Ⅰの中間考査で改めて何か感じたと思うのですが、
やはり頼るべきは今北夫婦だと言いだしました。
何かありましたら、ビシビシ!!言っていただいて、
息子の成長に力をお貸しいただけましたらと思います。」
そしてもう1通、
これは小学中学、高校生クラス、と8年間、塾に通ってきた
Rちゃんが東京の大学に合格して、
挨拶に来た時の3月の手紙。
抜粋です。
「入塾してから8年の歳月が流れたのだと思うと
早かったという感想と同時に、
早い流れの中ででも、濃いおつきあいをさせていただいたなあという
実感が湧きあがって来ます。
ー略―
中学時代は我ながらよく勉強したと思います。新ワーク、4回、
英語の暗唱、暗写、今、中学時代の勉強量を見ると、
少し信じられないものがあります。
最後に
私ははこの塾を忘れることはありません。
仙台に帰る時は寄らせてもらいたいですし、その時は歓迎してほしいです。
ー略ー
お二人とも大好きです。
北剏舎が大好きです。」
教室の空間が誰かの役に立つのはうれしいことです。
居場所、そんなたいそうなものではありません。
いい環境とも言えないです。
プリント、本、ごちゃごちゃ、雑然としています。
ですが、
時々思うに、塾を開いて30数年、子どもたちがここで勉強し、
笑い、泣き、
そういうたくさんの子どもたちの想いが
流れているのではなかろうか、と。
白球を追いかけたグランド、体育館の匂い、
遅くまで楽譜と格闘した音楽室、
そこに無心に、時を駆けた自分を見る。
そこに行けばもう一度、がんばってみるかと思う。
その場所に行ってみたい。
願わくは北剏舎がそうであったら素敵です。
1期生の医者になったS君が
「まだ、この机あるんですね」
懐かしそう言ってくれたことがある。
教室に、自分の座った席がある、のはいい。
私たちができるのはあなたの使った机やいすを
大事に残して、使うことかな。
そして、
一生懸命勉強した机は
どうも誰かをやる気にさせる力があるのではと思う。
教室の机は一つ残らず、誰かが懸命に向かった机たちばかりです。
当たり外れはありません。
「家では勉強できないけれど、塾ではできる」
毎年誰かが言う、この不思議な感覚は私たちだけでは作れない気がする。
ここに通って来てくれた卒業生の皆さんの
気迫が残っていて、
机たちにしみて、覚えていて、
誰かをやる気にさせる、
卒業生の贈物のような気がします。
高校生クラスを利用してくれる高校生のみなさん、
どうか、第一志望に向かって頑張って下さい。
あなたのお役に立てますように。
机や椅子に成り代りまして。
5月某日
小学生の授業、
机の上に透明な3センチほどのカップが置いてあった。
「これは誰のですか」
「ぼくのです」
高ⅠのNちゃんの弟、H君。
「ぼくのです」というカップには
2ミリほどの小さな蜘蛛が2匹、少し大きい5ミリのが1匹、
「かわいい!」つい言ってしまった。
「先生、くも、好きなの?」
「嫌いじゃないです」
「じゃあ、あげるよ」
聞けば、友達にもらった大事な蜘蛛らしいので、
断った。
「くもが好きなら、先生にあげるよ」
譲らない。
卒業生のお父さんから教わったあの言葉を思いだした。
(なんぼほしくて
けろって言うな。やるっつものはもらわい)
ということで、小さな蜘蛛を3匹、もらった。
早速、ふた坪ばかりの庭に放した。
次の朝、
(蜘蛛はどうしているかな)
庭に立って眺めていたら、
透明な糸が葉から葉へぴんと1本、張られてあった。
見れば、いた、いた。
5ミリの方がさっそく蜘蛛の巣を作り始めていて、
ひと仕事終えたように、葉の上にじっとしていた。
顔見知りというのも変だが、
連れてきた、蜘蛛のというのは親しみを覚える。
蜘蛛の糸を邪険に払うことはできない。
5ミリの背丈が愛しくなる。
「ほかの小さい2ミリの蜘蛛たちはどこですか」
いた、いた。
こちらの2ミリの方は
葉の裏に逆さになって糸を張っている真っ最中だった。
なんだか感動してしまった。
文句も言わずに、連れてこられた場所で
蜘蛛らしく、当たり前ですが、
ちゃんと生きている。
私はどうか?
私らしく生きているのだろうか。
私らしく?
「私」の正体がわからない。
塾生にも卒業生も
自分らしく、あなたらしく、言ってみたりするが、
待てよ、らしくってなんだ?
もしかして本人だって
わからないのではないか。
わからなくていいか。
朝日を浴びた蜘蛛の糸がきらきらしていた。
8月、夏のキャンプ
2泊3日、水の森キャンプ場にて。
無事に終えました。
感心したこと。
夕食のメニューは「カレー」「シチュー」
定番です。
今年は今までだれも作ったことがない、
「マーボー丼」「親子丼」がメニューに登場。
竈で煮炊きするから、
灰が入らないように
蓋を取ったら、手早くしないといけない。
だから材料を入れたら
かき混ぜるだけで出来上がりを待つカレーやシチューが楽。
でも作りたいと言うので、
任せた。
夫にインスタントを入れるのはだめだぞ、と言われて、
中3の当番の申請通りに
鶏ガラスープや豆板醤も、揃えた。
食事の当番の班には包丁の扱いは教えるが、
他はできるだけ、手も口もださないように決めている。
さてマーボーはどうなるのか。
見に行った。
あらかた出来上がったようで、最後の味付けのようだった。
男子が「豆板醤、どのくらい?」
女子に聞いていた。
「いいよ、適当で」と女子、
「がばっと入れな」ともう一人の女子。
指示通りに、がばっと入れた。
「もっといれる?」と男子。
「入れちゃえ、入れちゃえ」
女子たちは気が大きい。
かつ豪快。
見れば鍋の中は
赤くて豆腐がサイの目に浮いていて、マーボー豆腐らしくなっている。
味見した女子が
「うまい!」
食べてみて、と渡されたお玉をもらった男子も、
「うまい!」
どれどれ、
私も味見させてもらった。
「うまい!」
本当においしかった。
笑い声が起きた。
おいしいと笑ってしまうもんなんですね。
「もう二度とこの味には作れないよね」
「もうⅠ回作ってって言われても無理、無理」
女子たちはうまくできたことを自慢するでもなく
アハハと笑った。
もし、失敗したら、と思ってマーボー豆腐の素を忍ばせていったが、
その必要はなかった。
ピリ辛の本格的なマーボー豆腐は、好評で完売。
潔い女子二人、Aちゃん、Kちゃんには感心した。
二度と作れない、二度と味わえない、逸品でした。
親子丼、はテントを見回っていて、
作るところは見ませんでしたが、
これまた、卵がふわふわのやさしい親子丼ができた。こちらもすごい!
作ってみたい、やってみたい、
そういうことが、
楽しいんですね。
アシスタントもいっぱい来てくれた。
東京のMちゃんが、「キャンプに行こう」と
ラインで流してくれたおかげで
教師になったT君、
大学生のM君、
Mちゃん自身も東京から来てくれた。
ベテランアシスタントのYちゃん。
加えて、高校生も日替わりで来てくれた。
来年はキャンプのアシスタントをします、と去年確約してくれた高1のH君、
高2のSちゃん、Sちゃん、高3なのに来てくれたA君、T君。
高3のT君は部活をして、夜に戻ってきてくれた。
悪かったのは、楽しみにしていたマーボー丼が売り切れて
食べさせたやれなかったこと。
はじめから取っておけばよかった。
ごめんね。T君。
キャンプのアシスタントは実は楽ではない。
ついてすぐの、荷物の荷ほどき、
鍋、釜を出したり、食材を仕分けしたり、
最後にまたしまうのも一苦労。
食事の後には中学生では気がつかない、生ごみを片づけたり、
見えないところを助けてくれる。
女子のアシスタントは話し相手になったり、
調理の最中の裏方をしてくれる。
男子のアシスタントは薪を割ったり、竈のそばにいて、
子どもたちが火傷しないようにして気を配ったり、
私たちの目になってくれる。
あの子が具合悪そうだとか、
寝たかどうかの夜の巡回では、
あのテントはまだ寝ていない、とか。
無事に終えたのもアシスタントの皆さんのお蔭です。
本当に助かりました。
ありがとうございました。
自然のなかで過ごすと、俄然体調がよくなる。
普段、体調が悪い訳ではないが、
身体の中にいろいろなものが入って来る。
見えてくる。聞こえてくる。
木々の匂い、草いきれ、
おひさまのまばゆい光り、夕暮れのからす、
こってりした夜空、
台風接近のなまぬるい風、
雨の冷たさ、心地よさ、
相変わらず急用でもないのに全力疾走の子どもたちの背中、
何がおかしいのか、止まらぬ女子の笑い声、
読書の時間、気がつけばのうたたね、
2泊3日、たっぷり自然に抱かれました。
そして、大事なお子さんを預かって
無事にただいま、ってお返しできてよかった。
(体調が心配で、お迎えに来ていただいたご家族の皆さまには
申し訳なくて、すみませんでした)
9月
そろそろ漢字検定の勉強を始めた。
漢字が嫌いな人も好きな人も、
全員で受けます。
国語辞典は借りるものではない。
夫に言われ、みんなが持ってくるようになった。
自分の辞書はいいもんです。
自分が引いた言葉に赤線を引いたりしていると、
あの時、こんな言葉を引いたな。
いくつになっても思いだす。
自分の辞書が愛しくなり、ほかの辞書は使いたくなくなる。
そうなってくれたらいいです。
10月
気がつけば夏はさよなら、秋風が吹いてきた。
家で勉強できなかったら塾に来なさい。
毎年、夫と私の口癖の時期になった。
9月下旬から、学校帰りに塾に来るようになったYちゃん。
制服のままでやって来て勉強をしています。
「今年はあなたが、いの一番ね」
「はい」
「がんばろうね」
「はい」
いい笑顔です。
中2の授業も中3が増えてきて、
夫に
「中1、中2がわかっていないからだ。
もっと謙虚に勉強しろ」
そう言われて、中2の数学も英語も中3で教室はいっぱいです。
入試はあっという間に終わる。
家だと寝てしまう。ゲームをしてしまう。
テレビから離れられないなら、
来て下さい。待っています。
塾に毎日行ってよく勉強したな。
時が経ち、誰に言う訳でもなく、
つぶやいた時、
未来の自分自身への
唯一無二の贈り物になると思うんです。
玲子