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2020・2月、3月

2月
私立全員合格。
皆、高校生になれる。よかった。

次は公立高校の志望校決定が待っている。

生徒と面談をする。
塾だから、
模試の点数、内申点、志望校は安全圏だとか、
危ないとか、5分5分、4分6だとか伝える。

しかし、危ないからと言って、
志望校を変えなさい、とは言えない。
どうしても受けたい。
強い覚悟の生徒と
わが子の想いを遂げさせたい、と
家族が判断すれば、志望校を阻止することはしない。
ただ、
現実を見つめることも大事である。
正直に本人にも家族にも話す。
無論、あくまで経験値と推測。
絶対ではない。

今まで、記憶に残っているのは
家族の志望で公立に行かなければならなかった生徒、T君。
でも公立第一志望には届かない。
変更を余儀なくされて、T君が言った。
「今、勝負するときじゃないんで。志望校を変えます」

勝負するなら大学進学らしかった。
意中の大学があった。
去年、T君は念願の志望大学に合格した。

そういうこともある。
高校入試が人生のすべてを決めるわけではない。
でも15歳の子供たちにはやはり、目の前の志望校なのだ。

2月中旬
生徒との最終面談が始まった。

Kちゃん。
想い続けた志望校を目指して3年間、頑張った。
頑張るということがぴったりの、頭が下がるほど
努力したのを見てきた。
毎日、いの一番に塾に来た。
21時半、授業が終わって生徒が帰ってもまだいた。
がらんとした教室で、黙々と鉛筆を走らせた。
夫が「帰るか」と言うまで一心不乱に勉強した。

夫も私も言うのも、つらいが、
可能性は伝えなければならない。
「模試のデータから見ると5分5分」
夫が、いくつかの高校名を出した。
今、言った高校のイメージは悪いか?
尋ねた。

Kちゃんの大きな目から涙がぽろぽろとこぼれた。
止まらない。
いくらでも流れた。

「受けるなって言ってるんじゃないんだ。
あくまで、現実を話しているだけだぞ。
君の頑張りを見ていればわかる。
より合格に近い公立高校を考えてもいいんじゃないかと
思っただけなんだ。
僕の仕事でもあるからな」

Kちゃんにしたら、5分5分ということは志望校を変えろって
言っているようなものだったのかもしれない。

夫と二人で話した。
「あんなに泣くほど受けたいのなら、
Kちゃんは受けた方がいいね」
夫も、そうだな。

その日、Kちゃんは面談の後、腹痛と言って
塾を早退した。
3年間、風邪以外の欠席などなく、
毎日、10時過ぎまで残って勉強していたのに。

心配になって自宅に電話した。

声は落ち着きを取り戻したようだが、いつものKちゃんではない。
今晩、考えて明日、また話そうか。
はい。

次の日、Kちゃんと、向かい合った。
私は、
「後悔には二つあって、した後悔と、しない後悔。
受けなかった後悔。受けてしまった後悔があるけど」
切り出した。
よく耳にする話だ。でもそういう話しか出てこなかった。

Kちゃんも知っているかもしれない。
「聞いたことある?」
「ないです」

Kちゃんがじっと私を見ていた。

私の次の言葉を待っているようだ。

私もKちゃんをじっと見た。

「あの高校に入りたくて頑張ってきたんだもんね」
「うん」
「受けましょうか?」

Kちゃんの表情がぱっと明るくなった。
光が差した、そういう顔になった。
もう泣かなかった。
「まだ時間はある。
私たち、一生懸命、Kちゃんの力になるから、がんばろう!」

「はい」
いつものしっかりとした声になった。


これほど恋焦がれた高校に挑戦もせずに見送らせるわけにはいかない。

そのあと、お母さんに電話した。
「志望校は変えずに、そのままということにしました」
「私もそれしかないと思っていました。
やめさせたら、もう勉強しなくなるんじゃないかと」
Kちゃんのお母さんが言った。
娘のことをよく見ている。さすが、お母さんだなって思った。

それから、Kちゃんにますます拍車がかかった。

もう一人、
Yちゃん。
こちらは志望校がなかなか決まらない。
充分な模試の結果と内申点なのに、
決まらない。
まず、私がYちゃんと話した。

偏差値の高い二つの高校で揺れていた。
「何を悩んでいるの?」
「どっちに行きたいかわからなくて」

二つの高校を比較するとどう?
聞くと、
(部活を考えるとA高だけど、
どうしても行きたいとは思わないし、

偏差値の高い方ならB高だけど、
落ちるのが怖い。
そこまでして受けたいとは思わない)

そっか。

Yちゃんは欲がない。高得点でも自慢もしない。
ただひたすら3年間、勉強した。
定期試験前は教科書の隅々まで読んだ。
夫にやれと言われたことは漏らさず、勉強して理解した。
高得点にならないわけがなかった。
ただ、どうしても行きたい高校がない。
入塾してからずっとそれがYちゃんの悩みであった。

ふと、Yちゃんが、
「誰かに決めてもらいたい」

幼子のように手で顔を押さえて泣いた。
それほど苦しいのなら、
私が背中を押してあげようか。
高校名が出かかった。

手出し、口出し無用。
Yちゃんは自分で決めた方がいい。
そう思った。

次の日、
「決めました」

メニューを決めたように、意外にあっさりとYちゃんは言った。
志望したのは偏差値の高い方だった。

夫に大声で言った。
「Yちゃん、決めたって!」
高校名を聞いた夫が、
「自信持て!」
はい。
Yちゃんが笑った。

誰かに決めてもらいたい、と言っていたのが嘘のようだ。
後で、聞いたらご両親にも「あなたが決めなさい」
委ねられたらしい。

Yちゃんは友達に相談したり、
悶々とした結果、
より難しい高校を選んだ。
夫も私も背中を押したかった高校だった。

「気持ちはどう?」
「もう決めたんで」
すっきりとしているように見えた。

今までなら、親が、大人が、こっちにしたら?
決めてもらう事ができただろう。
今回はそうはいかない。
親御さんも娘に任せたのは全幅の信頼だったのだろう。

不安と戦って、自分と向き合って、
自分で決めた。

次の日
5教科をまんべんなく、点数を取っていたYちゃんは唯一、国語が苦手。
特に作文が思うようにいかなかった。
「先生、昨日書いた作文を見てください」
志望校を決めたら、一段とやる気がでたようだ。
今までも、全国の入試問題から10年分くらい、たくさん作文は書いてきたが、
もっと、書いてくるようになった。

「一文を短く、自分の意見ははっきり」
アドバイスはそんなものだったが、
文章がすっきりと分かりやすくなり、
見違えるようになった。

あと2週間。中3の連続授業が毎日続く。


3月2日 
新型コロナウイルスの市内小中高休校に伴い、
小学生、中1,2休塾。
うがい、手洗い励行。机をまめに除菌。
中3はいつも通りに勉強。

3月3日
夫が名前を彫った鉛筆と消しゴムを渡し、
一人一人に、
いってらっしゃい!
夫婦で送り出した。

3月4日
無事、全員入試を終えた。体調がよく、何事もなく終わってよかった。

3月7日
いつもなら全塾生参加の卒舎式だが、
今日はコロナ感染抑止のため、
中3と保護者の卒舎式。

開塾40年、とあって小袁治師匠ご夫妻がわざわざいらしてくれた。
長い付き合いの師匠ご夫妻の来仙はうれしい限り。
落語の「転失記(てんしき)」
みんなで大きな声で何度も笑いました。
笑うっていいもんですね。

夫がハモニカ演奏。

同窓会会長の野邑君が「蛍の光」独唱。
すごくいい声で、聞きほれました。

3月16日
合格発表
例年なら、各高校の在校生に頼んでいたが、
今年は市内高校が休校で在校生は立入禁止。
頼めない。
夫の友人とアシスタントで手分けして発表を見てもらうことにした。

朝からドキドキ。
恋焦がれた高校を受験のKちゃん、
難しい高校を選択したYちゃん、
考え始めると不安は全員に及ぶ。
誰一人、受けたくない高校は受験していないけれど、
納得して15歳の挑戦をしたと思うけれど、

でもそれだけに全員合格は難しいかもしれない。
大丈夫だと思っている生徒でも
その日の出来が左右することもある。
入試だけはわからない。

15時00分
電話が鳴った。
早い。
夫の友人から。
オオッツー
恋焦がれの、Kちゃん合格。
やったー。
すごいです。
すごいです。

R君から電話。
合格しました!!
おおーっ。

そして
偏差値の高い方を選んだYちゃんも、合格!
おおーっ!
二人とも難関高合格。

幸先がいい。
アシスタントから次々、報告。
合格です。
ありました。
あります。
合格しました。

なんと全員合格。
夫が筆で速報!と書いて
高校名を並べ、
全員合格と、玄関に貼った。

16時過ぎ

夫が皆が来たら乾杯しよう。
私はジュースとお菓子を買いに出た。
それならNちゃんも呼ぼうと夫が言うので、電話をした。

Nちゃんは、
早々と高専に合格したけれど、最後まで皆と一緒に
勉強してくれた。
合格したら終わりじゃなくて、仲間と思って勉強してくれ。
夫の考えに、
勿論です、とNちゃん。
公立入試前日まで一日も休まなかった。

「みんな合格したから、来てくれる?」
「はい!」
自分が合格したような元気な声だった。

いの一番にRちゃんが来た。
志望校が決定するまで悩みに悩んだ。
おめでとう!
ワー!ありがとうございます。
何度も握手した。
 
恋焦がれのYちゃんが来た。
「おめでとう!」
私が言うと、
「もうよくわからないです」
「あなたの力です」
そんな、そんな......
言いながら興奮状態。
頬が真っ赤で、目が潤んでいた。
一緒に来たお母さんも泣いていた。


難関を選んだYちゃんが来た。
「おめでとう」
「もうだめかと思ってました」
志望校を決めたものの、
実は発表まで不安で苦しかったことを知った。

呼び出したNちゃんが来た。
公立入試前だったから、大声で言えなかったから今、言うね。

せいの!
Nちゃん、合格おめでとう!
皆で声を張り上げた。

「こんなに勉強した中3は見たことがない。これで誰かが落ちたら
塾をやめようかと思ったぞ」
夫が言ったら、
アハハ、アハハ
中3が口を開けて大笑い。

全員の晴れ晴れとした一人一人の顔を心に刻んだ。

仙台二高、仙台一高、泉館山高、宮城野高、仙台高、宮城農業高
早々と明成高校、東北高校を決めた二人も最後まで勉強してくれました。

全員合格。
40期生全員合格。


玲子







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2020年3月18日 11:16に投稿されたエントリーのページです。

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