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2020年5月 アーカイブ

2020年5月16日

4月から8月

4月

通信添削を始めた。
一人一人の生徒に必要なプリントと切手を貼った返信封筒を
同封する。
夫は午前中から教室に行き、1時に帰宅、昼食をとり、また、教室へ。
夜遅くまで、返送されたプリントを見て、コメントを書き、次のプリントを入れる。
「授業をしているより、忙しいな。でも何もしないよりはいい」
夫の表情は明るくなった。

コロナ禍による営業自粛で
休塾は5月6日までだが、でも、その後、延長になるかもしれない。
通信添削は引き続きやるにしてもなんとか授業をしたい。
夫が、早速
オンラインに詳しい卒業生に電話。

先生、できますよ。

その日のうちに来てくれて、パソコンに向かって
カチャカチャ、、ずっとカチャカチャ。
「先生、この画面に向かってしゃべればいいです」
おお、
おおっ!

説明を受けて、
オンライン授業が始められることになった。

4月30日、18時

初めてのオンライン。
設定をしてくれた卒業生のT君も来てくれた。
うちの息子も調整のアシスタント。

中1

「先生、先生」
画面から呼びかけるいの一番のT君。

「お前の顔、映ってるぞ」
「先生の顔も映ってます」

「先生、先生」
「おお、I君か」
「先生が見えます」
「俺もお前の顔が見える」

(当たり前のことに夫も生徒もちょっと興奮)

Gです。
お前、いい男に映ってるぞ。

Sです。
待ってたぞ。

続々と生徒の顔が分割して
画面に映し出される。

夫が突然、
あれ、いなくなった、と言った。
T君の画面が消えたらしい。
おーい、どうした?

誰かが、
先生、T君、固まったって。
チャットで言ってます。

固まったってなんだ?
チャットってなんだ?

用語がわからない。
卒業生と息子が対応してくれ、
やっと、社会の授業が始まった。

見えるか?

「先生が見えません」
待て。調整する。
それからも
「先生、黒板が切れました」
「黒板の字が先生の顔で隠れてます」
「先生、音声がないです」
「固まりました」
調整、調整、そして調整、調整につぐ調整。

でも、
アハハ、えへへ、
先生、と呼びかけてくる待ちに待った生徒の声はいい。元気が出る。

中1のT君が言った。
「地図帳がありません。
ぼくの部屋に取りに行っていいですか」
取って来い。

これは便利。
家だから忘れても平気だ。

20時、中3

こちらは中1と違い、静かだ。
中3は興奮もせず、大人だ。
しかし、参加しているはずの何人かの顔がない。

夫が呼びかける。
おい、顔出せ。
このままでいいです。
男だろ。顔ぐらい出せ。

画面に映る自分の顔は気恥ずかしいのだろう。

中3の画面は静かを通り越して、皆、無言でしんとしていた。
夫は心配になったらしく、
聞いてるか?
見てるか?
返事ぐらいしろよ。

オンライン授業の加減を私も夫も分からない。
いつもの授業だとそれぞれの顔を見て、
眠そうな生徒には喝を入れ、誰かが飽きてきたようだと思えば、冗談を言ったり、
生徒の質問や反応によって地理や歴史になったり、
自分の中学時代の初恋に脱線したり、
伝わる空気や生徒の表情で判断するが、
分割の静止に近い画像ではそうはいかない。
生徒の反応がつかめない。

難しいな。
夫がつぶやいた。

チョーク1本の授業で40年。
小型カメラに向かって、
生徒の分割画面に向かって話すのは初めてで、
コツがつかめないようだ。

でも途中からいつもの夫らしい授業になり、
無事に終わった。

次の日、中2のオンライン

急に画面に愛犬が出てきたり、
お母さんがひょいと映ったり、
楽しく進んだ。

授業の終わりに
「そろそろ、時間だな。
慣れないことも多くて、すまんな」
夫が謝った。
そしていつもの口調で、
「じゃあな、みんな、気をつけて帰れよ」

ぷっ、
アハハ、
アハハ

家だし、
帰らなくていいし。

失笑の生徒の声があちこちの画面から聞こえてきた。

オンラインは5月3日の連休前まで続けた。
こちらが心配するよりも生徒の感想はよかった。

楽しかった。
またやってほしい。
家だし、楽だし。

好評で本当によかった。

子どもの頃、SF小説や漫画で、
空飛ぶ車、テレビ電話、宇宙旅行、
夢のようだと思っていた。
こんな世界はずっとずっと先のことだと思っていた。

次々に未来の仮想物語が現実になっていく。

5月授業再開

生徒は間隔を取って座る。
教室が閑散とするようだが、いいこともあった。
隣同士が遠いのでおしゃべりがない。
注意しなくていい。

6月

毎日のコロナ感染者の
数字を追い、生徒の間隔、手洗い、机の除菌、
先の見えない気鬱な毎日でも、子供たちに会えるのは嬉しい。

7月

小学生の授業が終わり、塾の階段を降りようとしたら、
女性が玄関を半分開け、さっと傘を1本、抜き取って、
ドアがしまった。

傘泥棒!

子どもたちの傘が盗まれた!
大変!
返してもらわなきゃ。

階段を駆け降りた。玄関を出ようとしたとき、
ドアが開いて中2のK君が入ってきた。
「いらっしゃい。よく来たね」
早口で言って、押しのけるようにして表に飛び出すと走った。

「すみませーん、傘、返してくださーい」
傘を持つ女性に言いたかったが、
なにせ気が小さいから、大声が出せない。
とにかく追いついて、後ろから声をかけることにした。

「塾の傘なんで、返してもらえますか」
事を荒立てず、責めずに、静かに、穏やかに。

玄関で居合わせた中2のK君が教室に入らずに、
走って追いかけてきた。
「先生、どうかしたんですか。なんかあったんですか」
様子がおかしい私を心配してくれたようだ。

傘泥棒です。
言えば、中2の速い足で追いかけてくれそうだが、
巻き込むのはよくない。
私が解決しなければ。

「心配しないで。教室に入っていいよ」
言って、走った。
走りながら、K君が気になり、ちょっと振り向いた。
納得しかねたように彼はまだ立っていた。

足が遅いうえに、久しく走っていないから足がもつれる。
女性は歩いているのに、私は走っているのに
なかなか距離は縮まらない。
がんばれ!もう少し、がんばれ!
自分応援。

やっと、
ツタヤの少し前で、女性の背中に追いついた。
事を荒立てず、責めずに、静かに、穏やかに。
傘を返してもらえばいいのだから。

「あのー、傘」

振り向いた女性が、
「あら、玲子先生!」
あら、Y君のお母さん。

察知したお母さんは、
「すみません。明日は雨らしいので、塾に忘れた息子の傘を、
取ってきたんです」

「傘泥棒かと思ってしまって」
二人で大笑い。

私が悪い。
玄関で傘を抜き取ったところで、
「どなたですか」
言えばよかったのだ。

人を見たら泥棒と思ってはいけないな。
反省。

走ってきてくれた
K君の声を思い出した。

「先生、どうかしたんですか。なんかあったんですか」

教室に入って、早速、K君に報告した。
「さっきは心配してくれてありがと。傘泥棒を追いかけるところだったの」
「捕まえたんですか」
「ご父兄だった」
周りの生徒が笑った。
「言ってくれれば僕が追いかけたのに」
K君が言った。

ありがと。
私のために走ってくれるなんて。

いや、違う。
分け隔てのないやさしさ、思いやり、正義感、
つきあってみれば誰もがすぐにわかる。
きっと、
この人は何かあれば、
母のために走る。
父のために走る。
兄のために、友のためにも走る。
見ず知らずの人のためにだって走るだろう。

先生、どうかしたんですか。
なんかあったんですか。

矢継ぎ早の声とじっと見つめる目に
(言ってください。ぼくが何とかします)
そう聞こえた気がする。

気は優しくて力持ち、
大きな身体で私を見て立っている姿が
立ち去らない姿が、
心強くて、頼もしくて、
うれしかった。あたたかかった。
ありがとう。
忘れないよ。

8月

夫は中3のE君が台風で中止になった年もあって、
今年こそ、中3の思い出にキャンプに連れて行きたかったようだ。

でもコロナ禍である。
知人の意見を聞いたり、
ご父兄の後押しをいただいたりして、デイキャンプに行くことにした。
送迎はできるだけ親御さんにお願いした。

水の森キャンプ場についてみると、
結構な人出だ。
自分たちも来ているのに、人が多いと気になるなんて、
勝手なものです。

会津から来てくれた菅さん。
塾仲間でもあり、陶芸家であり、埴輪、小枝鉛筆(販売もしている)、
多趣味な人で、
おおらかで、自由で、面白い人です。

塾生に菅先生とは呼ばせない。
菅さん、で通している。
呼称で関係が対等になる。
偉ぶらなくていいなと思う。

カレーは3年生が担当。
普段知らない生徒の一面を見る。
手慣れた手つきでジャガイモの皮をむく生徒もいれば、
包丁の持ち方から教えなければならない生徒もいたり、
勉強だけじゃないな、とキャンプに来ると思う。

水と米の割合を比で計算する。
はじめちょろちょろ、中ぱっぱ。
それはしない。
夫の指示で、はじめから火をガンガン、最後までガンガン。
強火ガンガンで毎年おいしく炊ける。
今年もふっくら、ほどよいおこげまでできて、うまくいった。

カレーは参加者25人が充分におかわりができるように、
二つの大鍋で作ったが、意外におかわりする人がいなくて、
まるまる、ひと鍋カレーが残った。

捨てるのは忍びなかったが、中2の男子と捨てた。
「もったいないね、先生」
「ほんとだね」

それぞれの埴輪とそれぞれの小枝鉛筆ができた。

4時。
キャンプ場で解散の時間だ。
遊び足りない男子が走り回っている。

次々とご父兄が迎えに来られる。

保護者の方に
お預かりした大事なお子さんをお返しする感じがして、
ほっとする。
バス利用の子どもたちは主人が引率。
私はキャンプ用品を積んだ車で帰宅。
夫も北仙台に無事到着。
全員が元気。

キャンプ半日だけではない。
大切なお子さんの命を預かると決まった時から続いていた
長い緊張感が
この瞬間にすっと消える。

短い夏休みは終わり、
明日から学校が始まる。
そして、8月末から9月にかけて、定期試験が待っている。

玲子

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