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紅葉マーク

1ヶ月前だったろうか。
自宅前の駐車場に変なとめ方の1台の車。
他の車が出られない。
こういうことはしょっちゅうある。
共同の駐車場は美容院、歯科、携帯ショップ、
特定できないが、ご近所を探せばたいてい見つかる。
その日は大家さんも巻き込んで捜索したら、
車の主はお向かいの歯科にきた方。

私は騒ぎは知らなくて帰宅。
玄関で主人に何度も頭を下げている後ろ姿。
どなた?

「旦那さん、本当にすみませんでした」
「いえいえ、一言止めますって声かけてもらえればいいですよ」
そっか。そっとしておこう。勝手口に回ろうと思った。
人の気配を背中で勘付くと察しがいい。
「奥さんですか?あららら、ご迷惑かけてごめんなさいね」

振り向かれて! おっ!
70歳はゆうに、とお見受け、
茶髪を結い上げたアップ、
一度会ったら忘れられないかも。
赤いスカーフにグレーのパンツ、前髪ってクルクルカール。
口元、際立つそこだけ元気な真っ赤なルージュ・
スリムなお姿には声が大きく、
「なんてまあ、皆さんにご迷惑かけてしまって、
今後こんな事私、二度としませんから。
許してください。許してくないねえ」
フアッションは奇抜だが、人の良さそうな感じ。

数分後、ピポピポピポーン・さっきのおばあちゃん。
玄関全開で立っている。
「これ、食べてけさい。まずっしゃ、受け取ってくない」
素早く私の手に葡萄を乗せた。
「いいんですよ。気を使わなくとも」
何度も詫びるので車に乗るまでお送りした。
紅葉マークの車に乗り込むと、これまた窓全開、
「堪忍してくないねえー」
ハンドルを握りながら頭を下げて、
車道に出ると車体を進行方向に整え、左手をあげ、ブイーンと鮮やかに
私の目の前を一気に走り去った。お見事。

次の日、午前中、ピポピポピポーン・玄関全開でおばあちゃんが又、立っていた。
昼時に帰宅した主人に報告。
「あのね、さっきね、
 『奥さあん、昨日はどうも。ごめんなさいねえ』って昨日のおばあちゃんがきたよ。」
「そうか」
「それでね・・
 『お宅の旦那さんは優しいねえ』
感激していたよ。あなたの昨日の玄関での一言」
「いや、きついことも言えないしな」
「そしてね・・
「おばあちゃんがね
  『私ねえ・・・ひとめぼれねっ』・・」
「ええっー」主人がよろめいた。
一拍おいた私も悪かったけど
生徒には人の話は最後まで聞けっ!っていうのに?
意外に、もろくよろめいて私を見るので、
「新米」

いくつになっても「あなたは優しいねえ!」
うれしいものですよね。

ピポピポピポーンのおばあちゃんはあの日から
歯科に来るたびに必ず挨拶がてら世間話をしていく。
チャイムを鳴らすと同時に玄関バーンと全開。
茶髪のアップにパンツ姿・お決まりの真っ赤なルージュ。
「今日ね、ここまで来るのに道、混んでんの。
そしたら、ほら、途中で知り合いの佐藤さんって、
議員のね、その人のほら、隣の家のシメジがあったからっしゃ。
おつゆにでも入れて食べてけさい。
うまいよう、お宅でみんなで食べらいね」
「はい」」
ほら、と言われても佐藤さんも隣の家がどなたかも知らないけれど、
こんな会話もご縁も好きだ。

「今度は1週間後に来っからっしゃ。
奥さあん!旦那さんは優しくていい人だものねえ」
別れしなに必ず私に一言プレゼント。

男も女も年重ねて、
連れ合いほめられるって、いい気分。
このめぐり合いに間違いなかった、なんて方面まで膨らみます。
親切な横恋慕をご存知の紅葉マークの先輩・
私の新しいお友達。
今北玲子

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2007年12月12日 19:56に投稿されたエントリーのページです。

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