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おめもじ

教室に入るといた!
いた!

 Iちゃんの連絡通り、
「先生に子どもを見せに行くから」
もう、来ていた。
いいもんです。

すやすや母の腕に抱かれてその子は眠っていた。
抱きたい私の手がうずうずしたが、大切な赤ちゃん
見るだけでいいか、
迷っていたら、

「玲子先生、抱いてくれる?」

願ってもない。
抱かせてもらえる?

ふわふわの
 Iちゃんの愛息
「男です。玲子先生」

「なんて、めんこいの。」

小さな命は誰の手に移っても眠っていた。

人が生まれて、愛する人と出会って、
その赤ちゃんが生まれて
縁で
私が見せてもらうって、抱かせてもらうって

その命に、
私、つまらない者ですが
はじめまして。

あなたにおめもじ叶いました。・・・

寝ているうちにつれて帰らないと・・
Iちゃんは頃合見計らって
「帰るね、玲子先生」
「うん、疲れないように。忙しいから来なくていいからね」
「大丈夫。又、来ます。今北先生。これ飲んでね、ガンにならないから」
豆乳飲料の差し入れを指差して、笑った。

「今北先生が元気でいるのを祈ってるから」
教室を出る時も笑った。Iちゃんは幸せで笑う。昔から笑う。いい性格だ。
ばあちゃん・元気?

塾の玄関に出て親子を見送った。
私に手を振り、
赤ちゃんを片手で米俵担ぐみたいに横断していった。

たくましいお母さんになったね。
父も母もいないけど、
ばあちゃんに大事に育ててもらって
いい人とめぐり合って
お母さんになったもんね。よかった。

Iちゃんはまだ、見送る私に気づいて
赤ちゃんを
俵抱きしたまま、空いた左手を挙げ
「先生!」
大きく振ってくれる。

私も大きく手を振る。
「またーね。」

ふと
数年前の卒業生を思い出した。

その頃、いろいろあってどうしようもなくて
二人の子を手でひいて、一人をおんぶして
玄関に親子4人で立っていた。

「玲子先生、どこにいけばいいのか。わからなくて・・」
我が家に上がってもおんぶの子を下ろさない。
「おろしていいよ」
「いいんですか」
「背中の子を下ろして休んで」
「いいですか」

おんぶの子にしつらえた座布団・・
「ここに・・」
「寝せてもいいですか」

汗だくで、
遠慮して私に抱かせることも
思いつかない。
ずっと、おぶいつづけるつもりだったのだ。
背中の子はおんぶをはずされてもすやすや、座布団に寝た。

しばらく、話をして帰っていった。

それから、もう一度来て、連絡が途絶えた。

子どもを抱いた卒業生が来ると
思い出す。

泣いてない?Sちゃん・・

便りのないのは無事の便り。

あなたは母なれば子を守り
強く暮らしているね、きっと。
私のところに来たのは、気の迷いだったかもしれないね。

女は夫がいれば、子を持てば、いろいろある。
でも、
あの時、
いっぺんに三人のあなたの子どもたちに
おめもじしたのに・・

あなたの暗い顔ばかり気になって
どうしたのか、とばかり思って
あなたのことばかり、気になって

玄関にどんな事情で立っていたとしても
「生まれたのね、3人も。よかったね。おめでとう!
会わせてもらうね。」

真っ先にあなたに言えばよかった。
座布団の三人目の子を抱かせて!
言えばよかった。
ごめんね。Sちゃん、

会いに来てくれたのよね。ありがと。

卒業生が母になる。父になる。
教え子ではなくて、同志になった気分になる。
がんばれーって思う。
 
今北玲子

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2008年9月27日 20:34に投稿されたエントリーのページです。

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