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午前のクラス

週2回、午前のクラスがある。

家族ネットワークの活動の一環として

高校中退、引きこもり、不登校、の子供たちのための

お手伝い、そういう時間帯であります。

ひとりのときもあれば、ふたりのときもある。

卒業生のむすめのMちゃん17才、Sちゃん、17才、Yちゃん、18才、

いつもの3人のほかに数人います。

 

Mちゃんは2年前、高校受験の年、入塾した。

「もう、先生のとこしかないような気がして、

叱咤激励の叱咤はできるけど激励ができなくて・・・・・・」

からからと笑うMちゃんのお母さんは教え子でした。

Mちゃんのお母さんはその年に

手術することになり、Mちゃんは母親の健康を願って

受験を家族で乗り切った。そして、合格。

本当によかった。楽しい高校生活を祈りました。

そのうれしい入学から、まもなく、いじめです。

泣きながら、Mちゃんのお母さんが、

むすめをつれてやってきて、

「どうしよう。

先生、・・・・・・もう高校をやめさせようか」と、お母さんは言った。

しかし、15才からまる3年、家にいるのは

そう簡単ではない。

私達も迷った。

「先生、このまま、むすめを高校ぐらいでないとって、我慢させて、

そのうち、今は親に何でも言いますけど

なにも言わなくなって、そうなったら取り返しがつかない。夫もそう言っているの」

Mちゃんは

「中学は結構我慢して、今も、我慢しろって言われたらできるけど、

でも、・・・・・・お母さんがやめるのを決めてる、あたしも・・・・・」

本人も高校をやめたいようだ。

ぼろぼろといくらでも流す涙の母親は

学校で起きているいじめに耐えるむすめが不憫でしようがない。

わかる。

気持ちははやばやと退学を決めているみたいだった。

それもそうですね、って言ってもらいたくて

ここにいるような気がした。その後、又会ったが、

なにより、高校の対応に失望したようだ。

いじめた子にとっても、かわいそうだから、

学校にきてもらわないと困る。

Mちゃんの登校を促すだけのようだった。

「大事なむすめを預けられない」

ゆるぎない決断になったのは学校への不信だったと思います。

いろいろあるだろうけど、

親が

「こっち」

そっちにいっちゃだめ、

あってもいいような気がしました。

進路相談で圧倒的なのは「本人のやる気ですから」

「この子がのぞむんでしたら」「本人の希望が一番」

それもいいと思います。

でも、ときには親の直感で

決めてもいいかもしれません。

子どもの異変にいち早く気がつくのは母親であったりします。

お母さんの退学までの行動はすばやかった。

Mちゃんは暗い毎日のいじめの学校からあっという間に解放されて

一気に明るくなりました。内側では葛藤も迷いもあったと思うけど、

笑顔が戻ってきました。 

通信制に席をおき、

午前中の週2回、夜の高校生クラス、2回、

週4回、塾に通ってきています。

そして、その年の、検定試験の国語が合格。

 驚いたのは塾を休まないことでした。

同級生がいなくとも、先輩や後輩がいなくとも、

あたしたち夫婦だけなのに、夜は高校生にまじって、

気分転換になるだろうけれど、

風邪で熱があるとき以外は休まないのです。

もう2年目になります。

夫が最近、Mちゃんに言っていました。

「すごいよ、中3のときの勉強と全く違う。きちんとしてる。

おまえ、中3のときはこんなことしなかったよな」

「しませんでした」

「すごいよ、自分でもそう思うだろ?」

「はい」

ノートが実に美しい。教科書を隅々まで読もうとする。読み落としがあれば、夫に

これって、どこにかいてありますか?

通信制のレポートの評価はA,かAの花丸。

そのレポートもフアイルに順番にきれいに閉じてある。

「花嫁道具に持っていきなさいね」

宝物に見えました。

 

もうひとりSちゃん、

Mちゃんと同い年で、Mちゃんを追いかけてきたような入塾。

Sちゃんも高校に入ってすぐにいじめにあったのでした。

高校をやめたいが、勉強を個人的に面倒みてくれるところを探していたようで、

「気に入ればどうぞ」

一度、体験をしてみて、入ります、ということになった。

Sちゃんも欠かさず通ってきます。

そして、Sちゃんは入塾してバイトをはじめ、働くことを経験しているようです。

バイトが終わってから、夜、勉強するのだそうだ。

こちらも、レポートはA,かAの花丸。うれしそうに見せてくれる。

 

もうひとり、Yちゃん、小学低学年からの不登校で漢字が苦手。

読めるけれど、書けない。

将来の夢はある。そのためには漢字の書き取りが不安なのでした。

小学1、2年生の漢字は2週間で終わった。3年の漢字は読めるが、書くときに迷う。

姉、のつくりの市は上に点がいるのか。形がぼんやりとしか見えないようです。

書く習慣がなかったから、手が覚えていないのかもしれません。

でも、それも着実に書けるようになっている。

今は4年生の漢字の階段をのぼっています。

算数もやってみた。九九は九の段、七の段、首を傾げたが、

教えれば難なく覚える。

学校で習わないのに、自力で算数の応用問題を解く。

「かしこい!本当にあなたはかしこい」

私が言うと、首を外に向けて、はにかむが、このYちゃんを教えていると

水を吸い込むように理解する一瞬の間合いに

心が震えます。

 「あたし、わかってもすぐ、忘れるから」

Yちゃんは不安そうに言う。

そんなことは構いません。

Yちゃんは少し、顔を上げて

私の返事にかすかにうなずいて、また、漢字に取り組むのです。

 覚えるのではなく学んでいるのがわかります。

 

あと数人、いますが、毎回来れるとは限らない。

いいんです。

 

今日、入塾するという、女の子が来た。Mちゃんのお母さんの紹介で

大分前に面談したが、やっと来た。

数学の問題を思い出しながら、一生懸命にペンを持っていた。

17才のMちゃんとSちゃんが、帰りしなに声をかけてくれました。

「なんねんせい?」

「中学2年」

Sちゃんが、

「わかっ」

「どこから?」

「〇〇」

「とおっ」

省略2文字に、緊張していた中2の女の子が笑った。

むずっ。あつっ。この頃、2文字は大分流通しているようだが、

わかっ、なんだかいいと思いました。

 

学校が急になくなった子どもたちにとって、所属のはしごが取り払われて、

学びをも失ってしまう。

家と私たちの塾、小さな関係に、

午前のクラスのみなさんが、

あとで大人になって今を思い出したとき、

自分は一生懸命暮らしていた、真面目に勉強したよ、

自分はそういうことがきちんとできる、いつだって!

握った手のひらをあけてみれば、十代のかけらがきらっとあったとしたら、

素敵です。ほほえみますよね。

週2回、10時から12時まで、

しんとしながら、時折、年頃のむすめのかわいい笑い声が起きる。

「超、あつっ」

言葉遣いは丁寧に、とても暑い、と言いなさいよ。

「はあい、とても暑いんでございます」

陽気なMちゃんとSちゃんの声が透き通る。

どこにいたって学べると思うんです。

REIKO

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2010年9月 4日 23:04に投稿されたエントリーのページです。

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