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卒舎式

震災後、電気が復旧して

明るい居間にテレビから被災地の映像が流れた。

瓦礫の中から

息子の遺体を見つけた父親、

直視できず、目をつぶった。

菅首相の「国力を挙げても!」

沈痛なあの宣言も、

お立場上、言わざるをえないのだろうが、

(誰のせいでもないのだけれど)

大事なわが子を失って、愛する家族を失って

国力を挙げて、と力強く宣言されても、うつろに通り過ぎていく。

 

3月19日(土) 

朝日新聞の天声人語、もうご存知かもしれませんが、

エミリーデイキソンという米国の女性詩人の詩が載っていた。

(失意の胸へは/

だれも踏み入ってならない/

自身が悩み苦しんだという/

よほどの特権をを持たずしてはーー)

 

深い目をもつ詩人がいるものです。

しんとした静かな共感でした。

急に、

3月12日に予定していて、中止のままになっていた卒舎式をやろうと夫と決めた。

 電話で中3の皆に、21日に卒舎式はやります、来てね。

ひとりひとり、伝えた。

「やるんですか?」

「やるよ」

「来れる?」

「絶対!行く」

「待ってるね」

ものを見通す深い目はないが、

塾の子どもたちの気持ちに沿うことはできるであろうと思った。

 

3月21日(月)

卒舎式。

毎年お願いしている卒業生のお店が営業していて、

おにぎりを握ってくれるという。

アシスタント、連日の高2のMちゃん、卒業生が掃除やら手伝ってくれて、

スタンバイ。OK

毎年、欠かさずいらしていただいている小袁治師匠の落語がないのは

残念至極。

ぽっかり穴があいたような、

卒舎式には師匠の存在はなくてはならないのに、

それが叶わぬとは、がつんと殴られたような気がして、

夫も最後まで、なんとか師匠に来てもらう方法はないものか、

諦めきれず、模索したが、

なんともならず。

 

被災地のことを考えたら

そんな贅沢は言ってられない。受け止めるしかない。

 

卒舎式がはじまった。

夫の手書きの筆の巻紙には、

小学生の思い出やら、ついこの間のキャンプのこと、学業のことが綴られている。

あなたは気がつかないだろうけど、

「お前は何ていい奴なんだ」

 夫の、私の、その気持ちが届いたらいい。

そして、

中3の皆から、思い思いのものに綴られた文章をもらう。

出会ってつきあえば誰もが愛しく、中3の文章は涙でうるむ。

毎年ながら、自信はないが、BGMでピアノを弾く。

時々、楽譜がぼやけて音がとんちんかんになる。

中3のせっかくの文章を台無しにはしたくない、ひたすら、譜面を見る。

31期生の、第1号入塾の、最後、A君が読む番になった。

だめだ、小学生からの長いつきあいで、小6まではA君と二人だけの授業だったから、

二人だけのかるた、二人だけの漢字練習、何が好き? 僕は梅干、あら、私も。

A君のあどけない顔が次々と浮かんでくる。きっと夫もそうだろう。

止めようにも涙で楽譜がなにも見えなくなった。

そしたら、

「書いたものを忘れてきてしまって」

どっと笑いが起きて、つたった涙も落ち着いた。

忘れてきたから、あとで読んでください、

もしやそれで終わるのかと思ったら、

手ぶらのA君はなにも見ずに、話しはじめた。私もBGMのピアノを弾き続けた。

小学生の頃から今までのこと、その中には

(母親にあそこの塾は宿題がないらしいよ。そう言われていたのに、

塾に入ってまもなく、宿題を渡されました。今北先生に、「宿題はないんじゃないですか?」

と聞いたら、宿題じゃないよ、お土産だよ)

塾の思い出のひとつひとつをゆっくりと笑いながら、優しく語ってくれた。

堂々としてすごいもんでした。感動でした。

終わって、席に戻るのかと思ったら

「ちょっと待ってください」

A君は皆を手で制して、教室を出て行った。

まもなくギターを持ってあらわれ、

「こんなときなんで、上を向いて歩こう、歌いたいんですけど」

(A君の中学校は卒業式が中止になった。でもそれだけではない。A君の気持ちなのだろう)

「歌いましょう」

A君のギターで

歌のうまい同窓会会長のN君にリード歌手になってもらって

ぶっつけでそろわないけれど、

♪♪♪

上ををむーいてあーるこーおおう ♪♪

そろったり、そろわなかったり、

声が追いつき、はぐれたり、それでも、

皆で歌った。

卒舎式で合唱したのははじめてです。

歌うことで、

さまざまな、思いが

A君のギターにすがった。

 

3月23日合格発表

午後3時。ネットが4時、全員の合否がわかったのは

4時半すぎ。

全員合格は叶わなかった。

思い通りにはいかない。

もしかして、と願った保健室受験も、そう簡単ではなかった。

次々とやってくる中3は悲喜こもごも、

「後ろ足で砂かけてきたか?」

落胆を夫の言葉で笑って帰っていく人、親に連絡するより先に塾に来た人、

15日が23日に延期され、長い長い合格発表でありました。

 でも、全員4月から高校生です。

うまくいった人も、いかなかった人も、15才から18才、

まだまだ、これからです。

勉強するんですよ。 

 

3月30日(水)

チラシの解禁日。24日に入るはずの塾のチラシが今日入るはず。

どっと折込チラシがあふれるのかと思ったら、

一枚、北剏舎の赤いチラシだけ。

「自粛しなくていいのですか?私だけですが・・・・・・」

赤いチラシがおどおどと、下を向いているように見えた。

いいのです、悪いことしたわけじゃないもの、

チラシ解禁、いの一番、

この界隈に

「たった一軒、夫婦で教える塾」

お目に留まれば。

 

集英社のK君が幻のジャンプ16号を送ってくれた。

地震で手に取れなかった16号。夫は「レア、16号が入りました!」

お知らせと共に、

K君の手紙を告知板に貼った。

(今北先生

1冊ですみませんが、やはりネットで見るよりちゃんと手にとってもらえる雑誌があるほうが読む喜びも伝わるかなと・・・。ほんとなんのお役にもたてず申し訳ないのですが、

ささやかすぎるOBからの支援物資ということで、みんなで回し読みしたり、顔を寄せてのぞき見たり、そんな光景が広がれば幸いです。一日でも早く落ち着いた日常が戻り、美味しいお酒を御一緒できますように。)

 

おおーっ、

少年ジャンプ・フアンの子供達は何人か、群がって頭を寄せた。

子供達には、いろいろなものが必要なのですね。

先週のジャンプから、今週のジャンプ、

1冊抜けても支障はなさそうだが、

たとえ1冊といえど、先週の自分とつながっているのだろうと思います。

K君のいうように、ネットで見られるとはいっても、

手に持って読む喜びは、子どもたちを夢中にさせていました。

貴重な1冊、K君、どうもありがとう。

幻の16号が、少年の思い出・16号になったら嬉しいですよね。

今北玲子

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今北玲子

 

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2011年3月18日 21:45に投稿されたエントリーのページです。

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