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2019年4月 アーカイブ

2019年4月15日

雑感


3月某日
階段を上りきったところで、訪ねてきたご父兄と話していたら、
玄開のドアが開いた。
駆け上がって来たのは高2のR君、後ろからMちゃん、S君、
あらあら、高2の皆さん、次々に階段を小走りに上がってくる。
「なになに?」
聞いても、階段を上がるのに夢中。
「どうしたの?」
ひとり、引きとめて聞いた。
「加藤先輩が最後なんで」
後ろのもう一人に聞いた。
「それで?」
「みんなで塾に行こうということになって」
そうですか。そうですか。

なんだか、いい話。
カトちゃんこと、加藤君。アシスタントを4年間してくれました。

塾のアシスタントというのは、
夫と一緒に授業を作ってくれる卒業生です。
遅れてきた生徒、うっかり夫の指示を聞き逃し、なにをしていいかわからない生徒、
プリント演習で立ち止まる生徒、
よろず相談に応えてくれる人たち、全員が塾の卒業生で、
夫の気性も含めて、中学生の頃、授業を受けてそのやり方を知っている、
人たちです。

(現在も、元太君、高校生クラスの皆に頼りにされている。
麟太郎君、私の間違いを発見してくれ、頼りになる。
隆昭君、生徒に気さくに話しかけて和ませる。
有人君、武夫君、今年からのアシスタントで、緊張していますが、
子どもたちに親切で優しい。いいアシスタントばかりです)

カトちゃんは、卒業生の2世であり、父もアシスタントしていて、2代目。
2世は数多くいるが、アシスタント2代目は初めて。
彼の父は、心に残る、いいアシスタントだった。
教え込まない、自分の判断をしない、わかっていても少しでも自信の持てないことは
夫に聞く。どんな易しい問題でも教え方、解き方を聞く。
(これが意外に難しい)
大学生ともなると、プライドもあるから、
夫に聞かないで教えてしまう。
カトちゃんのお父さんは当時、それをしなかった。
息子のカトちゃんもしなかった。

そして2代目のカトちゃんはいつなんどきの無理(急な土日の補講の呼び出しなど)を
言っても駆けつけてくれた。、
就職も決まり、今年の3月で終わり。
私たちにとって、カトちゃん不在の授業は
寂しい限り。手痛いことでもあります。

さて、高2の皆さん、教室に入るや、
「かとう先輩」「かとう先輩」
名前を呼んで、近寄り、
「ありがとうございました」「ありがとうございました」
「就職、がんばってください」
連呼。

高校生クラスに籍を置く、Mちゃんの情報に、
挨拶に行こう、お礼に行こう、ということになったらしい。

兄を慕うように、別れを惜しんで、
大勢、駆け寄る姿はいい光景でした。

「カトちゃん、うれしいね」
「はい。うれしいです」照れていた。
「今まで、こんな光景は私、見たことないもの」
毎年、こういうことはあると思っていたようで、
「そうなんですか」驚いていた。
「カトちゃんは、今日のみんなのこと、忘れられないね」
「はい、一生、忘れません」......瞳を少しうるませて、力強く言った。

22歳の若者が、どれほど、うれしかったか。
学生の自分を慕ってくれる生徒のあたたかさと愛しさは
格別だったろうと思う。

もう一人のアシスタント、雅也君。
この人も3月で終わり。
「仕事は自分で捜せ」
アシスタントの心得の一つにあるんですが、
雅也君は授業中、あちこち動き回り、出しっぱなしのワーク類を
本棚にしまったり、いっときも休まず、それを実行した。
無論、よく気がついた。

今年の中3の「先輩、ありがとう」の色紙に
「先輩がいて、教えてくれて、助かりました」
全員が同じ文面を書いていた。
助かりました、いい言葉だなって思います。
中3の助けになったことに間違いはない。
私たちこそ、助かりました。

雅也君の兄も6年間、アシスタントをしてくれ、兄弟でお世話になったのです。
雅也君の最後の日を、残念ながら生徒は誰も知らなかったから、
やって来なかったけれど、ご両親がいらっしゃった。

「息子たちがお世話になりました」
いえいえ、お世話になったのは私たちです。
「お蔭さまで、成長させてもらいました」
アシスタント最後の日に、ご両親が挨拶に見えられるとは恐縮至極。

子どもは親以外のいろいろな人たちにお世話になり、
育ててもらう。
そうだなって思っても、
24歳にもなっているのだから、
そうか、塾は今日で終わりか、で済むところを
ご夫婦で挨拶に来られた。
お世話になった人に礼を尽くす、親の想いに包まれました。

親の想いに触れたことがもう一つ、
或るお母さんからお手紙をいただきました。

抜粋です。

≪........卒舎式を前にして息子は言いました。
「先生に手紙は書けない」

(私たちから中3一人一人に感謝状と称する文章を渡す、そして、中3から
塾の思い出をつづった文章をもらう、というのが卒舎式でもあります)

私は「思ったことを、今の気持でもいいし、正史先生や玲子先生とお話ししたことを
助けてもらったこともあるでしょう? そういう思い出を少しでいいから、
書いたらいいよ」
「思っていることは頭の中にあるけれど、それを文章にして書くなんて
できないんだ。俺にはできないことなんだ」
こんな返答がきました。
中学生になって初めての中間テストの時、
息子から「計算の仕方、やり方は解っているのに、ペンを持ってテストになると、
解けなくなる。真っ白になるんだ」
そう言われたことを思い出しました。
あの時も今も、私の頭は「???」のままで、成長しない自分が嫌になります。

卒舎式に行けないと言うので、
「私じゃなくて先生に伝えなさい」
そう言うと息子は本当にその場で先生に電話をかけてしまいました。
正史先生が、
「来てくれればそれだけでいいんだよ」
そう言って下さって、そのおかげで私たちは卒舎式に参加することができました。
・・・略・・・

先生、あたたかい卒舎式をありがとうございました。
読んで下さったお手紙に涙があふれてきました。
卒舎する皆さんに宛てたお手紙を聞きながら、この子たちは
これからたくさんの出会いがあるだろうけれど、
自分のことをこんなにも思って考えて理解してくれる相手に
どのくらい会えるだろう。
おそらく正史先生と玲子先生のような方とはもう、
巡り会うことはできないのではないかと思いました。
私にとっても正史先生と玲子先生との出会いは
これからの人生に大きくいつまでも影響していくと思います。

頭が固くて、枠から出たくない私は、学校を嫌う息子に寄り添うこともできず、
無理にでも行かせたい、できなくてもやらせたいし、やるべきだ、
なぜやらないのだ? と怒りながら、
また、なぜ普通のことができないの? と悲しみながら、
ずっと自分の考えを押しつけてきました。
「〇〇君は悪くないんだよ。何も悪くないの」
そう言っていただいた時、この子の心は本当に救われたと思います。
私の固すぎる頭にやわらかい玲子先生の言葉が響いてきて、
一瞬で氷が解けたような感覚を覚えました。
・・・・・・略・・・・・・

この子がこの先、つらくなったら今度は寄り添えると思います。
この子ができない、やれない、そう思いこんでいることを
一つでもほんのわずかでもできるようにするため、これから私も
一緒に考え、努力してできるようになるきっかけを
探しながら共に乗り越えていこうと思います。
・・・略・・・

私たちと出会っていただき、関わっていただき、
見守っていただき、導いていただき、
できない私たちを許していただき、
認めていただき、本当にありがとうございました。

たくさんの感謝をこめて。≫

読み終えて、切なくあたたかく、手紙を胸を抱きました。
そして私も同じだったなって振り返りました。

我が子のことを何もわかっていなかった、
そういうことの連続で、
次に来るのは自分がいたらぬばかりという、
責め苦であり、
申し訳なさであり、
もがいたり、諦めたり、
でもでも、元気でいればそれでよし、だったり、
このお母さんの気持は、私も含めて親にとって、
想いは重なる。

この母君は、学校に行かない、勉強しない、
困って教室に来て何度か話していかれました。
胸中、いかばかりか。
でも話しながら目には涙があふれ、流れる時でも、
帰られる頃は、にこにこ、笑顔で、
おおらかな方だなと思っておりました。
月謝袋には必ず、小さなメッセージが入っていました。
大きな美しい文字で、時候の挨拶のあと、
きまって、最後に、
今月も、どうか息子をよろしくお願い致します。

この気持ちが息子に伝わらないはずはない。

「玲子先生、いっつもお母さんには......わがまま聞いてもらって......迷惑かけて」
学校はできる人たちにはいいけど、自分にはつらいし、勉強をしようと思っても
長くは続かないし、できない。
そんな話の中で、彼は母に詫びた。

「いいお母さんだね」
「......はい」
明るい顔になった。
自分を大切に想っていてくれる、案じていてくれる、
母のあたたかさが深い場所で彼を支え、感謝しているのがわかった。

「あなたもいい息子だね」
心からそう思った。

私も、改めて教えてもらいました。
親はこうありたいと思いました。
誰しも、自分を想ってくれるあたたかさは忘れない。
忘れられないからこそ、誰かを想う。
そんな気が......します。

REIKO










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