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ご対面

先月の4月23日夫の経皮的冠動脈形成術なる、難しい
名前の手術に立ち会った。
厚生病院1階、患者と看護師と往来が激しい長いすに
二人で腰掛ける。「今北さん」
すぐに名を呼ばれて、廊下を曲がっていった。
ほどなくして、「今北さん」
さっき夫が曲がった廊下に私も呼ばれた。「ここでどうぞ」
「向こうにご主人がいますから。もう始まっています」
ガラス一枚隔てた数メートル先に夫がいた。廊下にはモニターが何台も設置してあり、
廊下は手術室の一部。ひっきりなしに医師も看護師も行きかう。
手術室のイメージは全くない。この騒がしい場所でもう行われていると
言うのだから驚いてしまう。
「これが今北さんの心臓です」廊下に設置のモニターを指差す。
執刀医はM先生、胸のネームプレートに書いてあった。この方がしてくださるのだ。
「見てください。今、どんどん線のようなものがご主人の左手首から
冠動脈の問題の箇所を目指して入っています。ご主人の狭窄は放置したら
心配なので、今回の手術はご主人にとってラッキーでしたね」
「そうですか」私はモニターに釘付けになっていた。
規則正しく、ドッ、ドッ、けなげな心臓が映し出されていた。
今まで、長いこと夫と暮してきたが、胸の奥でこうして休まず、夫を
支えていた心臓!あなたでしたか。はじめてお目にかかった。
なんて、愛しい、なんて立派、モニターの心臓に礼!
涙があふれては伝って、あふれてきて、
「先生、すごい感動です。涙が止まりません、私」
「そういう方もいれば、家族の方の前で絶命することもありますから」
「エーっ!」そうか、祈ります。
手術室というより、テレビ局の技術室のようだ。全員がモニターを
見ながら、事を進めている。「よし、撮影」M先生はデイレクターの
よう。モニターの心臓を泣きながら見つめ続けた。
「終わりました。ステントを血管内に留置しましたから、
ほら、細くなった血管は太くなりました。こうなれば、安心です」
よかった。
無事に終わった。夫を見る目が急に変わった。
あなたの胸のうちを見せてもらいました。
黙々と働く、美しい心臓。
夫の顔を見ていても、モニターの心臓が透けて
見える感じがする。つい、胸元に頭を下げたくなる。再度、礼!
私にもいる。不埒な私のためにあんな風に働き続ける方。
みんなにもいる!一生懸命、愚痴も言わず、尽くし続ける臓器の
かたがた。帰宅して子どもたちに感動を話す。話しているうちに
また、涙があふれる。「そんなに感動するんだったら、
私も立会いすればよかった」そうだった。父親の立派な心臓を
見せればよかった。その夜のビールは格別においしかった。
夫の心臓に御礼!乾杯!
今北玲子

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2007年5月17日 19:08に投稿されたエントリーのページです。

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