« 演芸大会の前日 | メイン | 中島敦「山月記」 »

演芸大会

演芸大会開始・4時
3時50分
こどもたちは続々教室に来る。
定刻とおりには始まらない。
私と夫のせい・あれがない。これがない、30分も過ぎてやっと始まった。

小3・・二人トランプ手品、ぺたりと座った二人はカードを当てる手品。
卒業生の二世・10歳・あなたたちはいやなら見てるだけでいいよ・
そしたら「僕たちする」・可愛い時間

小4のK君
「玲子先生、僕一人しかきてなーい」
教室の階段で困って座って・・・
「心配しなくていいよ。学校じゃないから、遅れたら遅れたでいいの。プログラムを後にするから」
「そうなの?」
「塾だもの」
あわてたけど、すぐに全員そろって。
「僕たち笛を吹きます。お聞きください」
毎回、教室を走り回っているのに、神妙・
きらきら星・・・清らかな息で吹く笛の音はきれい。
「オオッー」中学生から拍手をもらって
「セイノ!」4人の小学生はそろって一礼。
又も「オオッー」
K君・
「やったぜ・玲子先生」

小5・劇・桃太郎・現代版に改造。
手書きの桃からして・小道具も知恵を出し合って・
ずいぶんと考えたね・

小6・手品。
ひとりひとり、有名な手品師に扮し、披露。
6年生の6人は傍目にあがっているようには全く見えない。

最後に6年生のA君がたった一人
「私は・・・る・る・る星から来たルー大柴といいます。ぶんぶんぶん蜂が飛ぶ(る)を入れて歌います」
さて、(る)を入れると
ぶるんぶるんぶるん・はるちるがるとるぶる・・おるいるけるのるまるわるり・・・・・・一気に歌った。
大喝采。
「すげえ!」
「アンコール!」「アンコール!」

小6のA君はにこにこしてもう一度歌った。
またもや大喝采!

「ありがと・A君・みんなあなたのことすごいって・度胸いいねえ!」
「よくないです」
「全然緊張しないのね?」
「そんなことないです」
「とてもよかったよ!」
「本当?先生!」
A君は全身が浮き立って楽しそうだった。

中1はダンス。流行の曲を踊った。4月にはまだ小学生みたいだったのに身長も伸びて・・・涙が出る。

中2・・2オクターブもでる歌のうまい子がリーダーで静かなハーモニーに魅せられた。
数時間の練習をトイレの前で・音感のいい女子7人・・・
中2の男子は女子に手品の個人技で応戦した。
失敗したり、忘れ物があったりしたが、絶妙な間合い・
「もう1回やって」「そこ、もう1回」アンコール。

ふと黒板を見た。
手書きのチョーク絵!
「演芸大会!の文字・雪だるまの絵」
横にいたアシスタントに・・・
「いいね・、あのチョークの絵!」
「わかります。うまいですよね・先生」芸術大で工芸専攻の彼女が同感した。
中2の温和なRちゃんだ。そして、夫の言うとおりに今回勉強して定期テスト470点を越したまじめなYちゃん、仕事を任せたら完璧・利発なMちゃん・大好き3人娘・デジカメに収めなきゃ。センスいい!

「3年C組、寸劇」中3
学校の授業風景らしい。

「2分間で漢字テストをする。用意はじめ・・・・・」沈黙・走らせる鉛筆の音を大げさに・
早々と「できた」自慢する生徒。
「鉛筆が折れた」「又折れた」「又折れた」できない言い訳をする生徒・
何もせず、いねむりしている生徒。
何も言わない教師・
テストが終わり、教師が強気で言う。
宿題をやってきたか?全員無言・
じゃあ、忘れてきた人は?
一人立ち二人立ち、のろのろ全員立つ。一人だけまだ寝ている生徒。
教師がぼやく。「俺があんなに苦労したのになんでやってこないんだよ」

ちくり・・・

脚本は小学生からの付き合いのS君。
夫が
「この塾では小学生から長くいる奴が一番エライんだ」
S君・
あなたは小学生から来ている自分が演芸大会をまとめなきゃ・そう思ったのね。
「あなたひとりで脚本を?」
「はい」
「そうか・
世の中がいっせいにどこかに流れようとしたらあの生徒のように寝てたっていい。
できた!って自慢はしなくていい・でも、時に自慢みたいだけれど、そうじゃない・自分を主張するのは必要・いやみじゃない・
鉛筆が折れたってぶつぶつ不満のように聞こえるけど、自分のことは体調だって感情だって言わなきゃ・・我慢しなくていい。
せりふは少ないけれど、大切なことがあったと思うの。いやな行動の逆を考えれば、大事なことがあるんだね。
いい脚本だと思った。ありがと」

次の日、授業で中3全員に感じたことを話した。

前から3番目のS君。「ありがとうございます。」上気した顔をノートで隠して頭を下げた。
私だって、あなたの脚本にあった「宿題」考えさせられたもの。
こどもからの皮肉も批判も・本音をありがと!

まもなく、演芸大会のプログラムは終了するのに・
小5の3人組の一人が来ていない。
ずっと気になって教室のドアがあくたび待っていたけど現れない。

小5の3人組のうち二人・心配になって
「先生、H君が来なかったら僕たちどうすればいいですか?」
「3人がそろわなかったら、今日は何もしなくていいよ」
「えっ!先生、何もしなくていいんですか?」
「したかったら、思いついたことをしてもいいよ」
「いえ、しない方がいいです」
二人の顔にほっと笑顔。
3人とも人前で何かするのはいやだったのよね。わかってた・ごめんね・
(もしかして、今日休んだあの子は気が重かったのでは?)

こどもが大人になるのに、いやなことは必要だけれど、
でも、どう考えても・
行きたくないほどいやなこと・眠れないほどいやなこと・食べられないほどいやなこと・
そんなことしなくていい・
しなくていいの・

「逃げるが勝ち」って戦国のお侍さんだって戦術の一手と言っていなさる。
あの徳川家康だって敵に追われ、馬上にて尾篭ゴメン・構うもんか・・・
「どんなことしても生きる」
逃げ遂せた事実が栄誉の歴史に残っている。

たかが、塾の演芸大会・
いやなら休んでいいよ。

昨夜のうちに
「遅れてきていいよ。ビンゴゲームの時に『遅れました』って来るんだよ」
打ち合わせしておけばよかった。
ドーナッツもジュースもご馳走したかった。

私の前に中3の大家さんのお孫さんA君・小学生低学年からの・長いつきあい・・
・・「一番信頼できる大人は正史先生」・・・小学生からよね・
「よくきたね!」部活で忙しくて今日は来れないと思っていたから。
「塾の行事は僕、絶対来ますよ。」
「ありがと!」

「これ、頭に!」
黄色のヘヤーバンドを中3の女子に渡され
「あいよ」
「玲子先生、似合う?」
「うん・かわいい!」
「いいのかな?まあいっか!これも脱ぐんでしょ?」
「そうだよ・脱いで!」

中3の寸劇のあとは全員でダンスらしい。
駆けつけた制服を脱がされ、一人だけTシャツ・・
ダンスの途中、女子に突然押されて前列に・・
振り付けも知らないのに右往左往しながら
困ったように、恥ずかしそうに、皆に合わせて、
汗かきながら、何でもいい、笑われてもいい・
演芸大会を盛り上げる・男気で笑って踊った感じがした。

これがよくて、これが悪かった・
えてして、ものを教える商売の人間は評価するんですね。
人が寄れば、寄った数だけの味・

陽が昇り、陽が落ちて・
その日を暮らして・・ぎょめいぎょじ!
反省は又明日。

あの子を思い、この子を思い、
みんないい子と思う日・
今北玲子

About

2007年12月21日 21:23に投稿されたエントリーのページです。

ひとつ前の投稿は「演芸大会の前日」です。

次の投稿は「中島敦「山月記」」です。

他にも多くのエントリーがあります。メインページアーカイブページも見てください。