« 場所 | メイン | お願いします »

今はそれしか・・・

ニュースではケヤキが伐採されると報じている。
「青葉通りはすごい人だったよ。あの音がかわいそうだった」
娘が仕事帰りに見てきたらしい。

塾の前のケヤキも数年前に伐採された。
市は北仙台周辺の町内会で説明会も行ったとしていたが、
そんなお知らせ見たことも聞いたこともない。
一度決まったことは手順よく、業者に委託され、
その日は朝からチェーンソーを持った人たちが塾の前にやってきた。
切ろうとしているところに夫がたまらずに降りていった。
「ちょっと待て、俺は聞いていない」
「もう、決まったことですし、腐っている木もありますから・・」
委託された業者に文句を言っても始まらないが
言わずにはいられない夫の気持ちは通りがかりの人にも
伝わって、駅構内から見つめるタクシーの運転手さんにも、
乗降客にも伝わって、夫の剣幕に足を止める人、
夫と共有する人は多くいた。
「切るな!切るなって言ってんだろ!」
「そう言われても切らないわけにはいかないんで」
「切るな!腐っている木があるって、もし、腐っていなかったらどうするんだよ」

午前中にやってきた数人の伐採人はしばらく木を前にして
夫の怒りの矛先がおさまるのを待っていたが、
午後になって塾の授業が始まり、夫がいないのを確かめると
切り始めた。
小学生の授業の最中、チェーソーの音はつんざく高音で空気を裂いた。
「ああ、この音・玲子先生、木がかわいそう」
「すごい音」
人情を待ったなしで切り刻む音は
子供の心まで傷つける音だった。

何もできない私は子供たちに原稿用紙を渡した。
「書こう。なんか書こう。
みんなが大人になってもこのこと忘れないように
なんか、ケヤキに書こう」
「うん」
「書くよ、俺」「俺も」
原稿用紙の使い方も無視していい。
子供たちはケヤキが倒れるまでの音を耳を覆いながら
覆っても飛び込んでくる音を聞きながら書いた。
「がんばれ、木!チェーンソーに負けるな」
「切られても負けるな」「ずっと負けるな」
子供たちの言葉は、かわいそうは一言もなかった。
がんばれ、負けるな!
ほとんどの子供たちは倒れる木を
応援した。

音が止み、倒れた木は持ち去られた。
おずおずと塾の前に降りてケヤキの切り株をみた。
ケヤキの切られた後は何一つ腐っていなかった。
木の香・美しい年輪が青々と無言で
ただ、輪切りにされていた。

増田弁護士夫婦は仙台出身ではないのにケヤキ伐採に奔走したのに、
小野寺弁護士はケヤキ伐採反対のために市長選に出馬したのに、
多くの仙台市民が反対署名をしたのに
塾の卒業生、保護者・私たちも署名を集めたけれど
届かなかったのはなぜ?

冷たい仙台市民は「ありがとう・ケヤキ」
だなんて
イベントだそうだ。
怒り心頭の・・
ごめんね・・

「切られても負けるな」
今それしか浮かばない。
今北玲子

About

2008年1月28日 20:16に投稿されたエントリーのページです。

ひとつ前の投稿は「場所」です。

次の投稿は「お願いします」です。

他にも多くのエントリーがあります。メインページアーカイブページも見てください。