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踏み切りで

犬の散歩は
朝は夫、夕方三男、深夜次男と決まっている。
今日は次男が留守なので11時、私が散歩に出かけた。
私のコースはツタヤ経由、仙山線の踏み切りを越えて、
北仙台駅の駐輪場から梅田川のほとりのいく一直線の小道にきたら
犬の綱をはずす。気まま勝手に行きたい所に犬が走るのを見ながら、
夜空を見、
頃あい見計らって、口笛を吹く。
たいてい、口笛を合図に遠くまで自由な散歩を楽しんだ犬は忠実に
帰ってくる。
梅田川付近は街灯だけが頼りで物騒で怖いのでたまにだが、
深夜の誰もいない運動場になるから
犬は喜んでいるように見える。
今夜は久しぶりにそのコースをとろうと思って踏み切りを渡ろうとしたら、
深夜11時、
カンカンカン、踏み切りの遮断機がおりた。
遮断機の音と共に山形方面から列車が北仙台駅に向かって滑り込んできた。
夜行列車は闇から私の前に躍り出て、窓には明るい光があって
ふと心奪われて踏み切りから確実にホームに入る緩やかでも迫力ある走行に見惚れた。

私の足元で用足しをしていた犬をまるで見ていなかった。見るつもりもなくて
なるべく犬の排泄は目を逸らす癖が私にはある。
踏み切りを列車がガタンゴーッガタンゴーッ通り過ぎて静まったので、つい歩き出したら
「おい、おい、取らないのか」
踏み切り前で背丈の大きい男性が私を大声できつく叱った。
私は糞を置き去りにしていたのだ。
こんな奴がいるからだめなんだ、そう言いたげな男性は
私を見て怒っている。
そういう時って、ものすごく、いろんなこと考える。

私は
はなっから糞など取る気もない列車に見惚れる振りして
確信犯で見つけられたからこそこそ始末する
とんでもない飼い主と見られただろうか。
ポケットに用意はありました、信じてくれるだろうか。

北仙台駅前で塾をしているのがあとでわかったら
あんな不道徳な人間が塾の教師だなんて、
子どもを教育できるのかって
言いふらすだろうか?
あるいは、お前を知っているぞ、塾やってるんだろ?
聞いて呆れる!
非常識を吹聴されるだろうか・
心狭き妄想が・・妄想を誘発して
さかしい了見に見舞われた。

私は声に驚いてポケットから用意していたテッシュを出して犬の糞の始末をしたが
注意された男性には何一つ言えなかった。
「すいませーん。汽車見ててぼーっとしちゃって」
あっけらかーんと言える体質が私にあったらいいが、
ああ、ユーモアも臨機応変もなくて
その方に
頭だけ下げて、なおざりの一礼して、
糞を始末するなんて、自分で自分にがっかりする。
しょげてしまって
「ごめん、怒られちゃった、今夜は帰っていい?帰ろうか」
犬にだけ弁解して
梅田川の自由な走りも即座にやめにして帰り足・・。

いくつになっても怒られるのは怖い。
今もまだ、大きな男性の影が焼きついてどきっとする。
あの方に聞こえるように「ごめんなさい、今拾うところです」
まっさきに非を認めて言えばよかったんだ。

叱ってくれたあの方を追いかけて
「すみませんねえ、聞いていただけますか?
あのですね、私の息子が・・お母さん、犬の用足しは見ないでね。ほんとだよ。
言いますから、私は息子にそんなことはない、飼い主はちゃんと見ないと言い返しましたらね、
動物は見られるのはいやなんだよ。
用を足す時も死ぬ時もね・・・10歳の息子は危篤の難病の犬をただ見つめただけなのに
お宅の息子さんは犬の気持ちがわかるかもしれない、なんて感謝されましてね、
息子が行くとえさも食べるし、そのうち、立ち、歩き、走れるれるようになりましてね、
ランという老犬でしたが、生き返ったんです。
20歳の時には人を寄せ付けず、すぐに噛み付く大型犬とゴルフ場で会いまして
誰も近づけない狂犬に近づいて、水も食事もやってね、一人ぼっちのその犬が
かわいそうと毎日車飛ばして通いましてねえ、
それなら家で飼おう、と私が言ったんですけど、人を信じられなくなっているから
難しい、あいつはそれを望んでいない、
一人がいい、って言っているんだ。そんなことわかる息子で・・
何より犬が大好きで、犬と会話できる不思議な息子でして・・、
犬の用を足す時は見ないでよ。お母さん。終わってから拾って。
息子は
私に
本気で、お母さんが犬の散歩する時は「汽車でもみていればいいんだよ。
ほかを見ていればいいんだ・・」
私に真剣に「ずっと、お願い」なんて言いましたんです・・
それを忘れられない私も馬鹿ですが、
馬鹿な息子でも、息子のさもない大切な遺言でして・・・忘れられませんのです・・・
糞を置き去りにするなんて毛頭なくて、
見ていただけますか、オーバーの右ポケットにテイッシュ10枚持っているんです」
わかってもらえただろうか。

塾の子どもたちには「ごめんなさい」って言いなさいね。
まず、言いなさいね・・

私だってすぐには言えない子どもだったのに、
過ぎてしまえば人には言える説教・・
「ごめんなさいと思っていたのよね。
そう思っていたけど、言えなくて、何か思っていたのよね、そのこと教えて・・」
心がけたいな。

自分が怒られるとよくわかる。
怒られるとはなんと自分が不甲斐ない、入りたい穴にでも・・・
どうしようもない気持ち、

叱責される行動には怠惰、不勉強、非常識、劣等感、言い訳、うそ、
叱られても当然な中に
何かしら生きてきた歴史が
理由が
その人に
その子に
あると思う。

人の行動には理由にも説得にもなりようもない根拠や土壌があって
なかなか説明できない奥がある。
子どもたちの行動を見逃していいはずないが
「そうだったの」
聞いてもらえたら、話せたら
ひざを抱いて顔をうずめることは
ひとつ減るような気もする。

踏み切りで、
オイオイ!取らないのか!待てよ!180センチもあろうか、体格のいい男性は
オレが言わずに誰が言う、正義感の塊で道行く人を振り返らす大声で、
脅かされたようで、そんなこと思っても見ないのに
私は一気に罪人のようで、怖かった。女・子ども・容赦なくて・怖かった。

たとえば、ちょっぴり笑って
「忘れ物ですよ」
時に
怒るも叱るも、相手見て
物も言いようって事
あったらいいです。
Reiko

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2008年2月12日 23:07に投稿されたエントリーのページです。

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