« バレンタイン | メイン | 親心 »

ごんぎつね

小4が学校で習っているごんぎつね。
プリントも一通り終わって新美南吉のほかの作品を読んであげようかなって思った。
黒板に作品名を書いた。リクエストの多いものを読んであげるね。
ヤッター・読んでくれる?いいよ・

のら犬
和太郎さんと牛
花のき村と盗人たち
ごんごろ鐘
牛をつないだ椿の木

さあ、どれがいい?
言いながら・・・・・

もしや
学校の授業で
「ごんぎつねのほかに新美南吉の本を読んだことがある人?」
なんて先生の質問に
塾の小4の5人は手を挙げる。
「のら犬知ってます」「和太郎さんと牛、知ってます」
学校の先生が
「へえ、よく知っているわねえ。いつ読んだの?」
「ええまあ」
なんてごまかしたりして
この子達が学校の先生にほめられたらうれしいな。
隣の子に
「本当はね、塾の先生に読んでもらったんだ」
きっと隣の子がひそひそと聞く。「塾ってどこに行ってるの?」
「ほくそうしゃ」

いつそんな質問が学校でされるか、わかりもしないのに
どれか早く子どもたちに読んで聞かせたくなった。
「塾に行ってよかった。学校でほめられた」
それはいい・
月謝もらっているもの・喜ばれたらいいな・
リクエストの多い、
牛をつないだ椿の木
読み始めた。

牛を椿の木につないで、清水にのどを潤し、休んでいる間に
牛は椿の葉を食べてしまう。のどを潤すためには清水まで歩かなければならない。
しかし、牛が葉を食べつくすほど清水は遠い。ああ、皆がのどを潤す井戸が道すがらにほしい。
明治時代の南吉の郷里を舞台にした作品で
井戸を掘る車夫の海蔵さんのまごころがついに地主を動かし、皆の井戸を掘った後、
海蔵さんは戦争へ・・ついに帰ってこなかった。
海蔵さんは「いさましく日露戦争で花と散ったのです。しかし、海蔵さんのしたことはいまでも生きています。椿の木かげに清水はいまもこんこんとわき、道に疲れた人びとは、のどをうるおしげんきをとりもどし、また道をすすんでいくのであります」(牛をつないだ椿の木)から

いい話!
10分経過、まだ途中なのに子どもたちはねむそうでつまらなそう。
「おもしろくない?」聞くと、
「うん。つまんない」
「やめようか?」
「かるたの方がいい」
かるたはことわざ、四字熟語、八百屋さん魚屋さん、教科書には
出てこない大人の漢字かるた。
学校でほめられるはずの予定の授業はあっさりとやめにしなければならなかった。

玲子先生・
この話は言葉もわからないし、,
筋も面倒くさくてわからない・・
人力車、まんじゅう笠、遍路さん、油菓子(広辞苑にものっていない、どんな菓子?)
木魚、念仏講、、羅宇屋(らうや)の富さん・・・(どんな商売?)」
小4では時代についていけなかった。わかんなあい・

新美南吉1913年生まれ、16才、もう童話を書き始めたんだね。
でも、30才で病気で亡くなったのよね。
30才は若いよ。
(スマップの中居くんもキムタクも
ほとんど30すぎだもの。)
これはわかる?
うん・
かわいそう、そんな若いのにね?
しんと新美南吉の人生を思っていた。

私は小学生のとき、新美南吉も宮沢賢治も読まなかった。
一等好きな読み物は母の「主婦の友」の
ドクトルチエコの人生相談、だった。
児童書といわれるものは読まなかった。
子ども扱いしないでください、と反発していた。
主婦の友は取り上げられ、母のいない時に盗み読みした。
大人になってからだ。読む時期が逆さで、今は人生相談は
読まないが、童話は好きだ。
宮沢賢治のよだかの星、20才、雨に負けす風にも負けず、最後まで読んだのは
22才、注文の多い料理店の細部までよく読んだのは30才
ごんぎつねは?
そうだ、八杉先生が仙台にきた年、21年前、34才。
(八杉晴実・
東京・練馬・私塾・東進会主宰
子どもたちと関わり、著書も多い。その実績は地域の信頼も厚く、
マスコミは八杉先生に何かあればコメントをほしがった。
不登校、学力遅れを支援する民間の団体「家族ネットワーク」を全国に呼びかけ
影響力も強く感覚も鋭い呼びかけに、全国の学校の教師、塾経営者、新聞記者、出版社
八杉先生に賛同した。
先生は何より、子どもの声が聞こえる人であった。
戦争を見つめ、戦後、世の中にはこれぞひとつの思想も教育もないほど
ころころ変わることを体感し、
その雑とした子ども時代を忘れなかったのだと思う。あなた任せはいやだって
いってらした。
澄んだ感覚で選んだ・その職は私塾だが、やり続けた教育は
教材も指導も天才的で、まれに見る絶大な子どもの支持をえた教育者であったが、
私は芸術家であったと思う。作家でもあったと思う。先生が亡くなった今も日々の師である。)

あれは・・・
仙台近隣の小学校教師勉強会に先生ご指名でゲストに呼ばれた日、
「ごんぎつね」がその日の研究作品。
私はそれであわてて読んだ。
夕方6時から勉強会で、それが終われば学校の先生と飲み会があって、
深夜になると夫から聞いていたのに
8時には先生と夫は高額のタクシー料金なんのその、
仙台まで飛ばして戻ってきた。

「玲子さん、ボクは耐えられなくなったんだよ。
帰ってきちゃった。
ごめんね。迷惑かけて
ボクはああいうの、いやなんだ。
勉強会が終わってもね、
誰もビール取りにも行かないしさ、
学校の先生って誰かがしてくれると思っているんだよね、
気がきかないんだよ・・
そんなことで人の気持ちなんかわからないよー・・・

八杉先生は飲むと歌った。プロの歌手のようにすごくうまくて、
笑うと子どものようで、会話が洒落ていて
可愛くて、憎めなくて、傷つきやすくて、
「人はさ、文章じゃわかんないよ、
顔だよ!」
感覚は刃物に近かった。

あの夜、
我が家に着くなり、アルコールはほとんど入っていないのに
先生は泣いていらした。
いたたまれないよ・

八杉先生、
ビールがすぐ出てこないだけじゃなくて
なんでお暇したのか、今はわかりませんが、
教師がああでもない、こうでもない、
教育って、教師ってなんだろう?と思われましたか?
「玲子さん、ビール飲もう」
あの時のこと、
思い出しています。
ごんぎつねの筋・・・
「きつねのごんは兵十が母親に食べさせたい,
うなぎにいたずらした。
ごんは兵十の母親の葬式にでくわす。ごんは兵十は母のためにうなぎを取ろうとしていたのに
なんて悪いことをしたと思い、いろいろ贈り物をする。
兵十は不思議な出来事に神様のおかげと思う。ごんはせっかくの自分の心が
報われないと知り、その日も兵十の家へ・・・
兵十はごんの気持ちも知らず、撃ち殺してしまう。」

先生・
教師の集団は八杉先生の見解を聞こうと全員、顔を先生に向けたのでしょうね。
参考になるなら何でも聞こうと、学校の体質の臭さでしたか?
ほんのひとかけらでも、授業の足しにしたい、
胡散臭い匂いでしたか?

先生
読むだけでいいとはいえない、
素通りできないのが教科書!
どんな作品でも教科書に載ると、先生も子どもも親もやっきとなって・
うちの子はわかっていなんです。教科書が!
読解力とやら?
さっぱし!という子は国語力のない子になってしまいます。

八杉先生、またひとつ思い出します。
初めて仙台の講演をお願いした時、
「学校が本妻で、塾は愛人じゃないんですよね。
学校だけが一番じゃない。
子どもたちは教育を受ける窓口がいっぱいあっていい。
塾は愛人ではないんですね。でも教育費の二重払いが申し訳ないと思いますね」
おっしゃった。

先生、
私、本妻の学校の先生にほめられるようになんて、
今日、考えていました。

私は子どもたちに
針美南吉の物語は難しいね。
今わからなくともいいの。
眠くなっても仕方がない。
思うことを言って
少しでも何かを感じる子がいたら
「えらいね」
ほめてあげればよかった。
塾だから月謝もらっているから、学校の先生にほめられたら
いいな!ってそればかり思っていました。

本当は私・・、
新美南吉も宮沢賢治も好きではありません。
宮沢賢治「注文の多い料理店」「よだかの星」「永訣の朝」
これ以外はつっかかって先に進みません。

いっそ、
「私ね、ごんぎつねも好きじゃない。
学校でほめられなくともいいよ・いい点とらなくていいよ・
つらいね・この話・
いたたまれないね・
10歳じゃ、この話は読んでもいいけど
つまらなかったらそのままでいいよ」

「先生、ごんぎつねは嫌いなの?」聞かれたら
「うん・あんな最後はいや・・もし自分がごんを鉄砲で撃った
兵十だだったらいたたまれない。
そこにいることすら無理な物語・
好きじゃない。

人間は傲慢である・
そろそろ対面すべき15才にこそ紹介したい。

10才から12才には
子ども扱いしたくはないが、
(大人の話でもいいが)
楽しくて、うきうき、わくわく
これから生きるのが興味津々っていう話がいい。

石山桃子(児童文学者・くまのプーさん・ブルーナ・ピーターラビット訳者)
「私は何度も何度も心の中に繰り返され、
なかなか消えないものを書いた。
おもしろくて何度も何度も読んで人にも聞かせて
一緒に喜んだものを翻訳した」
「5才の人間には5才なりの、10才の人間には10才なりの
重大な問題があります。それをとらえて
人生のドラマをくみたてること。
それが児童文学の問題です。
・・・・私はこの言葉が好きです。

八杉先生、いたたまれなかったのは
ごんぎつね、でしたか?
学校の教師の匂いでしたか?

書き散らかしてしまいました。
今北玲子

About

2008年2月19日 00:28に投稿されたエントリーのページです。

ひとつ前の投稿は「バレンタイン」です。

次の投稿は「親心」です。

他にも多くのエントリーがあります。メインページアーカイブページも見てください。