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距離

夏ズボンがない。
中3の息子が言うから
広瀬通りまで地下鉄に乗って買いに行った。
地下道を二人で歩いて
「寄ってこないで、お母さんはオレに寄ってるよ」
「そう」
「お母さんは歩くとオレを押してくるよ。
まっすぐ歩いてよ」
「うん」

「あのさ、私、高校時代にも・・・」思い出を話そうと思ったら

「どっちでもいいけど・・こっちに寄ってこないで」
「うん」

10代・友達によく言われた。
「何で寄るの。押してくるよ。まっすぐに歩いて、玲子」
「うん」
今でも親友と歩くと「変わらないね」にっこりされる。

息子は15歳、母に寄られたら気色悪いのね。
ごめんね・・
まっすぐに歩くから。

そうか、私は連れに寄る癖がある。
だから・・
左の連れなら、右に・・
右に連れがいるなら左に・・

反対・・反対に・・歩けば問題ない・

意識すれば歩ける。
子供に寄らぬよう
意識すればいける。

ふと
気を抜くと
15歳の息子に寄る。

私は直線を歩くのが難しい。
自分はまっすぐに歩いていると思っていても
曲がっていく。

誰かに寄っていく。
足はなんだか好きな方に傾いて
しまいに怒られる。

「そんなに離れなくていいよ。お母さん」
まっすぐ! は難しいから
地下鉄の壁伝いに黙々と歩いていたら
これまた、注意された。

距離感とやら難しい。
好き・好き・好き・・

闇雲に来られたら
子供は困るんでしょうね。
かといって
離れられても・・
あれっ、と
言いますんでしょうね・・

お母さん、俺から離れて・・・

でも、なんかそれって、
かつんと気持ちにあたって
少なくとも・・ちょっと・・
あなたの親ですよ・・寄るな、来るな・・
つまらないこと、言いはしませんが、
15歳でしょうが・・

いっそ、子供の前を歩くことにした。
母であれば、良くも悪くも
あなたの前を行きましょ。
そうすりゃ、寄ってこないで・・
言われない。

黙々前を歩いてみると
意地張っているみたいで・・
やめた。

むしろ、息子の後がいいかも・・
歩幅をゆるくして
後ろにいく。

肩の線、手の長さ、足の長さがよくわかる。
そして、黙々と歩いている。
なんだか15歳は一生懸命に歩いている。

息子が
何を察したか・・

「ごめんなさい。お母さん・・」
「・・・」
改めて、私に言う。
「お願い、お母さん、
オレに寄ってこないで・・・」

そういう
礼を尽くすなら
よろしゅうございます。

希望する距離は
心の距離にも聞こえる。
離れて・お母さん
離れすぎだよ・お母さん

きっとそばにいるのはいいのですね。

いずれ、
私が案じられて・・子供に・・お母さん・大丈夫?
・・私のそばに心配そうに寄って来られて
言われるより
「お母さん、離れて」
その方が
母は大丈夫と思われているのだから
良しとしましょ。

距離は心の距離でもあれば、
成長の跡でもあろうか。
10代は少し、離れてみましょうかね。

夫婦も少し、離れていた方がいいですね。
ひとりをジャマされない距離・・・

さりげない知恵と、
流行り廃れのない、
愛しい人との距離の極意がありました。

つかず離れず。

今北玲子

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2008年6月 8日 22:35に投稿されたエントリーのページです。

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