« 試験前 | メイン | ゲスト »

いの一番

7月の恒例の面談のいの一番は卒業生・2世の親。

「先生、ありがとうございます。
娘は今まで取ったことない点数で先生たちを崇拝ですよ」

昨年の成績をバッグから出し、手にし、両手で差出し、見せてくれた。
「先生、ほら、
どんなに娘の自信になったか。今北先生、見て、
去年の点数の2倍、ですよね。」

本当に塾冥利につきるような100点アップ!

「お母さんの塾に初めからどうして入れてくれなかったの?
娘がそう言うの。先生」

でも、それはちがうかもね・
夫も言った。
「中1からいたら成績が上がらないなって言われたかもナ・・」
すかさず
「それはそうですよね。
先生の所だって合わなくてやめる子もいるよね。
相性とか、本人のやる気が合うってことだよね」

そうです。
「本人の力が点数を上げたのよ」
間違いありません。

「そういえば・・今北先生・・・」
そこから
夫との思い出話に花が・・・

Mちゃんの親の世代の卒業生を夫はゼロ期生と呼ぶ。
結婚前に花婿が無職ではどうも格好がつかないので、
塾の求人広告に応募して、
面接するとたちまち塾長に気に入られて
塾講師になった夫は
がむしゃらに教えた。
その当時の開塾前のアルバイトをしていた塾での
教え子をゼロ期生と呼んでいる。
ゼロ期生はもう一人、小学生の父親にもいる。

「今北先生は私のバス時間までやっていけ!
ぎりぎりまで教えてくれて、
一所懸命に本当に教えてくれたよね・・
今北先生、知ってる?」
「・・・なに?」
「私、高校に入って
数学ができるからって
トップクラスに入れられて大変だったんだから・・
今北先生はホントに一所懸命に教えてくれたね」

夫が
「記憶がないんだけど、なんで、お前の家に行ったんだっけ?」
「今北先生は私の成人式にプレゼントくれたじゃん。
口紅を入れる、鏡がついているの・・・

私、今北先生のこと結構知ってるよ。
先生は酒屋さんの前で塾を始めて、
次はここの教室の隣でやっていて、
そして、今のこの教室に移ったんだよね・・
私、車で通るたびに
先生のこと見ていて、
大体知っているよ」

娘の入塾で久しぶりの再会だったが、
私たちの30年を
通りすがりに遠くから見ていてくれたのですね。
私たちの歴史をダイジェストで順番通りに畳んでいた。

面談を
いの一番にしたのは・・理由がある。

「手術があるから、今北先生、入院前に面談してくれる?」
母になっても、いくつになっても
今も教え子で
「いいよ、おいで」

これから待つ手術を考慮した面談だったが、
中学生の面談というより、
自分の思い出と
娘を託す願いと
これから挑む
母ともなれば弱音の吐けない
手術前のやるべき
面談でもあった。

「今北先生、
うち娘の成績をチラシのサンプリングしていいよ。
やればできる、教える人がよければできる、
ほくそうしゃの宣伝に使ってよ」
手術前で
心細いだろうに私たちを激励した。

「今北先生。
娘が言っていたよ。
試験前に途中で帰る人は怒られるから、私は帰らない。

私、娘に言ったの。
今北先生は受験生と同志だから・・・
当たり前でしょ・

同志なんだから、

だから、塾に迎えに来るけど、
いくら遅くなっても気にしないでって娘に言ったの。

親がこの辺を走って待ってるんじゃないから。
車の中で待っているんだから。気にすんじゃない!
遊んでいる子を待つ気は全然ないけど、
んじゃなくて
真剣に勉強しているのに
お前は気を使うなって!
今北先生はそういう人だから。
親に気を使うなって言ったの。
先生、わかるまで、残していいよ。

自分はバカじゃないって思えたことがすごく
嬉しいの。
私も娘も。」

私もあなたも母親同士、
手術も病気も乗り切りなさいよ。

中学生のMちゃんは話してくれた。
「玲子先生、母のことを話しておきたいので・・・」

大抵、家庭の事情は親から連絡がある。
夫の突然の単身赴任、妻の病気、
夫の入院、突発の家庭の事情は予想外である。
子どもからでは不憫で親がするけど、
Mちゃんは、
母親は大事ない病気だが、自分で報告した。
塾の行事やら懇談会に親欠席では申し訳ないと思ったのだろうか。
母の塾にお世話になっている義理もあったのだろうか。
今北先生に話して・・分かってくれるから・・
母に言われただろうか。
母の不調を話してくれた。
この子はすごいなって思った。
「だから・・先生・
塾のことは退院するまで
お母さんは何もできないので・・すみません」
頭を下げた。それを言いたかったのだ。

「あなたのお母さんは大丈夫。子どものためならお母さんは頑張るんだから」
「はい」
「いい子だね。あなたは。強いね。きっと大丈夫」

打ち明けてくれたMちゃん・
心配のない入院だが、
母を思う頬に伝う涙は止まらなかった。
本当は心配で不安でたまらなかったのだと思う。
「お母さんはあなたのためになんとしてもがんばる。母親はそういうものだから」
「はい」

その中で100点も点数を伸ばしたあなたの娘はすごいね。

子どもの幸福は
親が
当たり前のように元気でいること。
でも、子どもは親が不調でも病気でも
どんなことでも我慢する。受け入れるものなのだ。

「今北先生、うちの娘は強いの」
私もそう思う。
「強い娘だね」

元気になって。
この娘のためにも
専念して。

卒業生の
母になったあなたが
元気になるまで、
気性のさっぱりしたあなたによく似た
可愛い娘を預かるからね。

今北玲子

About

2008年7月 6日 20:02に投稿されたエントリーのページです。

ひとつ前の投稿は「試験前」です。

次の投稿は「ゲスト」です。

他にも多くのエントリーがあります。メインページアーカイブページも見てください。