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ひぐらし

塾から帰って台所に立つと、
今年の夏一番
かなかなかな・・・
オオッー!ひぐらし。

子供の頃、・・夕暮れのひぐらしに
私は本を開きたくなって・・

親に言い訳して、嘘ついて、
明日の学校の用意があるとか、
宿題だとか・・
なんのかんのと理由をつけては
夕方の手伝いをさぼって、隠れて本を開いた。

子どものやることはお見通しで、
[夕方は家族のために
一番したいことを我慢して、
熱いものは熱いうちに。
冷たいものは冷たいうちに。
働くもんです・・
小学生だろうが、受験生だろうが、
夕方は働きなさい」

母はずっと変わりなく、
勉強していても5時になると
手伝わないと叱られた。(受験まであと半年になって、
母の好意で入試まで免除になった。)

ヒグラシが鳴く。
いても立ってもいられない。
女が立ち働くという夕刻に本を読みたくなって、
見かねた母は、
苦肉の策で、
手伝いを風呂焚きに変えてくれた。

木を燃す釜口の炎は
読書には不向きなもので、
暗くて読めない。

確かに明るいけれど、
近づくと熱いし、
字をうまく捉えられない。
火に本を近づけて、目を遠ざける。
距離に工夫をすると、読める。

かなかなかな、
母の食事の下働きを免れ、本と夕暮れ、ひぐらし

風呂焚きは怠け者にはお誂えの仕事で
夕暮れは待ち遠しかった。

そのうちだ。
スイッチをひねれば、ガス風呂に事情は変わって、・・・
高度経済成長とやらか。

風呂の焚口にしゃがんで、
木端を入れ、炎を調節する夕暮れ、本を読んだり、
木を足したり、足元に這ってくるありを眺めたり、
油断して消えそうな火をうちわで慌ててあおいだり、
ひぐらしが鳴く夏も、(最高の夏も)
秋風が吹いて、雪がちらついて、もいいもんで、
年中、大好きな仕事は
私を養ったのに、
真新しいガス風呂は夕暮れの楽しみを
突然、封じてしまった。

今も、
風呂焚きをしたくなる。
夕餉に
かなかなかな・・
ひぐらしが
鳴くと、
本を探してしまう。

「夕方は、働きなさい。
のほほんとしてんじゃないの!」
母上の声。
さても、いまだにお叱りとはご厄介かけます。

風呂焚きとひぐらし。
あの組み合わせはない。

かなかな・・・・
今日の夏一番のひぐらし・・時に物悲しく、
きゅっと胸を絞られ、切なくなる。

泣くまい。

台所の窓をあけると向こうから夏の風、
あっ! この風も好き。
人は人にだけ恋するものではなくて、
トンボに近づき、
ちょうちょを追いかけ、
ツバメにすずめ、タンポポを見つめる。
雨音だってうっとりするし、小雨、白い雲、空にも恋。
犬にゴリラに暮らしたい。そして、ひぐらし、
打ち明ける手立てはないもんだろうか・・・

ひぐらしさーん!
たまには拍手しとうございます。
木肌にぺたっと止まり、
羽音をすり合わせ、
夕焼けの夏の声。

あなたは、
しかと
ひぐらしに生まれて、ひぐらしに生きる。

トンボは
トンボに生まれてトンボに生きる。

私も、ひぐらしさんよ・・
私に生まれて、私に生きる。
それ以外何ができようか・・・

でも、
・・・みんな、違っていい。
なんて思わない。
私は
・・・世界にひとつだけの花
なんかじゃない。

小沢牧子さんが話していた。
「みんな、ちょぼちょぼ、みんな同じ。」

みんな、同じ・・・
繰り返しては
気が楽になったことを思い出した。

今北玲子


※小沢牧子氏
臨床心理学論、・子ども・家族論専攻・
「心の専門家はいらない」他、
著書多数・
家族ネットワークで講演を依頼した。
6年前、初めてお目にかかって
一目ぼれ。
先の語録は講演の時のもの。

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2008年7月18日 01:25に投稿されたエントリーのページです。

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