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司会

昨日と今日、卒業生のNちゃんと会った。

[この絵を見て下さい。
玲子先生、今北先生」
去年、興奮して教室にやってきた。
仙台で初めて、
Nちゃんの大好きな画家の個展の成功に奔走していた。

Nちゃんが多くの人に見せたい、
個展は成功した。

今年は2回目、
昨日は講演会、
今日は個展と、二日続けて会いにいった。

淡色のシンプルな構図の絵は
たとえば卵の形で・・・
中心に白い・・・光・・が、
見る人には
星にも、月にも太陽にも魂にも見える。
その絵を前にすると
ゆらゆら動いて、たとえば踊って、走って、笑って、ゆらゆら、
動いて、迫って、
距離感があるようでない、一体感か、包まれているのか、
動物にも花にも雨にも雪にも一時に見舞われる悲しみにも笑いにも
希望にもなって・・
「元気出して」
「乗り越えて」
聞きたい言葉が聞こえてくる。
近くなり、遠くなりして、
会話できる。

今や、医療でも
癒しに効果的らしい。

絵の前に立つと
向き合うものを感じる。

私がNちゃんと会ったのは
20年前、
八杉先生が
仙台で、初めて
不登校、学力遅れに支援する・・講演を
開いて、間もなくだったと思う。

15歳、
ストレートな肩まで下がる髪の可憐な少女と私は会った。

不登校は
怠け、
いじめられる方に問題がある、
世間には横行していて、
学校に行けない子はただ、家にいて
先の見えない、生き方を余儀なくされた。

会った瞬間、
この子は何もしていない・・・
思った。

八杉先生の時代を読む並外れた求心力に
全国から一匹狼で塾をしている人達が大勢集まった。

岩手の優しくてキップのいいT子さんも、
会津坂下の会えば元気になる大好きSさんも
大阪の親分のKさんも
東京の兄と慕ったAさん、素敵なIさん、バツグンに文章がお上手なHさんも、
他にももっと、
仙台市内でも
穏やかで生涯の友になりたいTさんご夫婦、
夫の飲み友達Oさんも、論客Oさんと優しい奥さんYさんも、
もっともっと
全国で400を越す、
行政が何もしなかった時から、
子どもたちと会い、話を聞き、勉強の面倒も見、
小さな塾が
挙げた手を
下ろさぬ手の
私塾があった。今もある。
八杉先生をはじめ、
子どもたちの小さくなった気持ちの・・・
痛みを聞いた人達が全国にいたのである。

その当時のNちゃんは、
自宅に突然来たこともあるし、
電話で
「こんなこと、もうたえられない・・」
訴えたこともある。


その後、Nちゃんは賢くて高校から大学に進学した。
海外にも出かけ、
手作りのクッキーの仕事もした。
Nちゃんの歩いた道は多くの不登校の家族の
大きな支援となっている。

昨日の講演会で
Nちゃんは
大好きな女性画家のために
(Nちゃんのお母さんはアナウンサーで、
Nちゃんも通る声で)
おじけず、
笑顔で
マイクを握っていた。

大好きな画家のために進行を仕切り、
すっきりと立ち、
自分の言葉で大好きな画家の紹介、感動・・・
あまつさえ、
自分との絵との出会いにまで及んで、
マイクをにこやかに握っていた。
この日の司会である。

可憐で
なぜ、学校に行けないのか・・
いやというほど、
突きつけられ、
言い返せもせず・・・

昔のことは
私、覚えているけど、
あなたの本当ではあったが、
本当の本当ではない気がしていた。

大勢の前であなたは大好きな画家のために
笑顔でマイクを持っている。
これがあなたの少なくとも
自分に添う、
本当ではないだろうか。

次の日、
一番丁の個展を見て、会場を後にした。
見送ってくれたNちゃんを
なぜか、今日は振り返らなかった。

見送るあなたがいることは容易に想像できた。
私が振り返ったら、手を振るつもりであなたは
立っているのだろうけど、

私の背中が遠くになるまで、律儀なあなたは
たたずんでいるような気がしたけど、
もう、あなたを案じて振り返らなくといいように思えた。

今までは
さよならの
さよなら、二度三度と手を振った。

美しい女性になって、
もう、さよならは一度でいいかもしれない。

そうよね。Nちゃん。

もし、私に御用の節は
いつでも・・

傷つきやすい、聡明な少女は
私の前で何度も泣いたけど・・

もう、違うね・・・・
司会のマイクは
あなた次第でどうにでもなるってことです。
あなたが決めるってことです。
1本のマイク・・
あなたの声・・
141の6階の大きな会場はあなた次第。

自分の声で
誰に遠慮もせず、
モノを言える。

そういえば、あなたは15歳なのに、
八木山から通町の自宅に15歳、たった一人で
何かを言いに来たね。15歳がそう簡単にできもしないことを
したよね。

私は青葉通りを
一歩、さらに一歩、
雨なのに
今日ほどさっぱりと心地よいことはない。

Nちゃん、想い通りに生きな。.

今年のネットワークで二人でお茶したね。
私、
「大人になるってあっという間だね、楽しいね、何でも買えるし、好きなことできるし」
「覚えていますよ、
玲子先生。
あっという間に大人になるからって。
大人は楽しいよって中学生の私に言ったこと」
「覚えているの?」
「はい」

あなたは賢いね・・

あなたと向き合うと
ころころごろごろ
二人だけの
得がたい思い出が転がってくる。

今北玲子

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2008年7月21日 21:34に投稿されたエントリーのページです。

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