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いつも長いのに・・これまた、長いもんですから。限定・224・

8年前、
「不登校、学力遅れに私塾ながら民間として関わってきた今北さんに、
講義をしてもらいたい」
宮城教育大の懇意にしているH教授から非常勤の要請があった。
「いやだよ、そんなの」
夫はためらった。
そのうち、
「受けることにした」

なんかわかった。
私たちはいいなってという教師にも会ったが、何を言ってもわからないさんざんな教師とも会った。
申し訳ないが、日本語が通じない。
夫が私は塾をしている、名乗っているのに、
「あなたはうちの生徒のどんな関係ですか」
「塾です」
学校は
あなた様が
部外者かどうか、血縁かどうか、という翻訳が必要らしい。

教頭と校長がひそひそやる。

部外者がついてきた理由を夫が言わないと話が進まないらしい。

「この子を塾で知っています、この子のお母さんについてきてほしい、と言われたんですよ。
どうして、こうなるか、子どもの責任ではなくてですね。
社会構造もあるんですね。そういう事例を沢山見てるんで、話してよろしいでしょうか」

学校は
「ご家族ではないんですよね」
「はい、塾です」
慰謝料を請求しているわけじゃない。この子が成長するのに、いい手立てはないものか、学校も考えてもらえないか、
不登校は怠惰ではない。
社会現象といえないのだろうか。
考えましょうや・・・

行政が
「どの子にも不登校は起こりえる。」
認知する前の話である。

家族以外の人間と話し合えないのが学校です。
親ですか?
親戚ですか?
血縁でなければ、排除は当然であった。
だって、子どものことは親が考えることですから・・・
白い目で見られて、夫は怒鳴った。
「いい加減にしろ」
異業種で世の中は成り立つもんです。
考えようってとき、同じ視点の人間同士じゃ、何も生まれない。
創造は
物書き同志でも生まれない、絵描き同志でも生まれない。


時に、
部外者の圧力が
教師をはたと、立ち止まらせることもあった。

「今北さんは親でも子でもないのにねえー」
遠くから褒められて、
渦中に入ろうとはしなかったけれど、家族ネットワークに入会した養護の先生がいた。
「勉強させてください」現役の教師も家族ネットワークには何人もいる。

しかし、大半、
埒もない
やりとりを私たちは知っている。

「こんな教師にはなるな。変な教師にはなるな」
伝えたくて・・・
夫は非常勤をやることにしたのだと思う。

講義が始まった。
1単位取得できる15回連続講義。

どんな講義をするのか、聞いていなかったが。
講義が終わるとレポートを家に持って帰ってきた。
「今日、書かせたレポート・・読んでみる?」

はあーっ・・
たまらないな!
こんな面倒くさい講師に付き合う学生さんは。
同情したもんです。

15回で1単位、乗ったはいいけれど
張り切った今年初めての講師に要求されて、
過酷のレポート・・・
大変だったね・・・

同居のよしみで読ませてもらった。
教師になりたくて大学に入った人、
これまで学校がつらかったと振り返る人、
すんなり、ここまで来たけれどなってもいいのだろうかと悩む人、
腹の中はみな、違う。

224・・とは
宮城教育大2号館、2階の4番教室、
教室番号224・・
そこで
夫はいろんなことをした。

家族ネットワークの不登校の親をゲストにしたり、
さんざんな目にあった学校の体験を包み隠さず話したり、
思いつくことなら、なんでもやった。

夫が多分、思ったのは、
変な高給取りの教師にはなるな、
組織に絡めとられるな、
どこを向くんだ、校長に向くのか、親に向くのか、
理想の教師になんていない、
ぶつかれ、周りを見ろ、
教師面するな・・・
頼むよ・・いつか教師になるんだったら・・・・・
なんかやれよ・・・

夫は新たな仕事を見つけたようにいきいきと
224・・に通った。

あれから8年、当時の学生は皆、現場の教師になった。
Mちゃんの企画で自主ゼミをほくそうしゃでしていいですか?

夫も私も
もちろんです。

キャンプの終わった次の日、
若い教師が塾の階段を上がってきた。

私は遅れて教室に入ったら、
「こんにちは・・玲子さん。すごい、虫に刺されたんですか・」
目ざといAちゃん。
「キャンプでね・・」
「大丈夫ですか」
同情されて
椅子に座ると
当時の受講生の半分近い、10名の参加表明だそうで、
白1点、男一人、A君以外は女性の麗しき教師が座っていた。
近況報告をしている途中だった。

沖縄のSちゃん、
八戸のUちゃん、Mちゃん、
宮古のA君、横浜のこの会の企画、Mちゃん、
気仙沼のAちゃん、仙台の三人Yちゃん、卒業式総代、すごいねMちゃん、医療のシステムを変えようと新たなシステム・チャイルドライフスペシャル世界で18番目の資格を持つTちゃん、
Jちゃんは写メール参加。小さい子がいれば、思うようにならない毎日、それでもメールで何かを伝え、なにをそこでみんなで話しているの?私にも、そして私から・・思ったのね。
今は腕に抱く、赤ちゃんが大事。疲れないように、いつか、会いましょ。

自主ゼミ・・・
Sちゃんは不登校の生徒の生育の資料のない中、家庭環境も把握できず、母親ともなかなか会えず、子どもと話したいのに、空回りしている胸中を話した。

A君は2年に及ぶ担任の不登校の生徒と自分、時間、その事実、パジャマ姿で送る日々を、ついに、外に出ることに力尽くした。何かしたい、この子のためになにかしたい。B4のびっしり3枚のワープロの文字は700日の迷いと悩み、家族と子どもと関わる姿を映していた。
「自分がこれでよかったのかどうか・・ベテランの先生がやったらどうなるのか・・」

そうね。

でも
「よくやったね」
「ありがとうございます」
うつむき加減に礼をした。
私、
ひとつ、用事があって他の人の近況をききたかったけれど頓挫・・

夜の飲み会で合流。
個性があちこちで花のように咲く。

そろそろ、汽車の時間もあり、数人が帰り始めた。

夫が「出世ゲーム知ってる?」
「あっ、そんなこと講義でも言っていましたよ」
「私、知らないー」
「お前ら、オレの講義をほんとに聞いていたのか?」
夫はいいか・やるぞ。
言われればやるしかない。

私も夫もいつどこで知ったか、でも私たちの世代なら知っているゲーム。
私は小学から知っている。
子ども会だろうか。
駅の待合でだるまストーブを囲むと、いつとはなしに出世ゲームに興じて、
待合の時間が短くなる。
塾の子どもたちにこのゲームを教えると、たいてい、せがまれる。
キャンプでも子どもたちは真っ先にやりたがった。

ひざをパン、手拍子パン、2拍のパンパン・・
親指出して「社長、専務」右は自分の役職、左は指名の相手、早くなると、自分の立場を忘れたり、相手の役職をかんだり、一度間違えれば、最悪のこづかいに落ちる。無難にこなせば、昇進するゲーム。
なにがおもしろいか、と思うほど、キャンプでも子どもたちは夢中になる、一時の集中力、たかが、ゲームでもこづかいには落ちたくないプライド、単純な構造のゲームに出世、というつまらない世界と、
どうでもよさそうだけど、がんばってしまう、ふと、氷山の自分と面白く会ってしまう。

教師となった224のそれぞれ、興じて、学生の顔になっていた。
「やれよ、これくらい、子どもたちにやってみろよ」
夫に言われ、
「はい、やってみます」
素直な224.


Uちゃん、
あなたの個性は子どもたちを親を、きっと楽にする。人生、晴れ!子どもたちはあなたのことを見て、弾むだろうと思った。ある日、子どもたちは聞く。「先生、オレっていい?」「先生、私って・・・」
「いいよー!あんたたちはいいさー!」
きっとあなたは自信を持って言うだろうと思う。

Mちゃん、
お口チャック、やわらかさというものは内から出てくるもので、子どもたちはきっとゆったり、おどかしもなしに学ぶだろうと思った。このままで・・・魔法の先生で・・応援するよ。

S子ちゃん、
沖縄からありがとう。繊細であたたかい、あなたの察知は自分との格闘だけれど、信じたことを迷わず、と思う。正直であればいい。工作しなければいい。教師はね。
でも、悩むよね。先走りせず、通じるから。一呼吸ね。

Mちゃん、
元気になってよかった。ふたりで昼食・・時間を忘れたね。企画ありがと。ドレッシング、最高でした。今回の企画といい、気遣い、わかります。あなたらしい!

Aちゃん、
ふわりと会えば嬉しい、それは滅多にない。生徒を怒りそうになったら今北さんのことを思い出すから・・・、帰りしなのあなたの言葉に夫は嬉しそうでした。自分の天性を信じてね。

Yちゃん、
誰にも言わずとも、ひたすらあなたのいくところ、行きなさい。分かる人は分かる。私はわかる。出世ゲーム・社長就任おめでと。自信もっていきな。

Mちゃん、
朝一番は大変だね。卒業式の総代の任を綴れる文章力は子どもたちの感性を即座に気づく何よりの味方で、あなたを見つめる何も言えない子どもの代弁者になれると思うな。フランスの飴、おいしかった。

Tちゃん、
チャイルド・ライフ・スペシャリスト。あの時も話したけど、いいよー!・難しいけど。
時代のニーズはすぐというわけには行かないかもしれないけれど、私はあなたなら、いける、そう思う。

A君、
ハーレムのような美女に囲まれてもあなたの存在は確かなもんです。あなたと会った人は心許す。理屈ではない、真心は通じる。ベテラン教師はあなたにはかなわないと思うよ。私も夫もきっとかなわない。あなたを生かしなさいね。

夫は
講義の15回目の最終授業は塾の教室を選んだ。
塾のアシスタントもやらせてみた。

あなたたちが3年になって、
又、何人かは受講してくれたし、
あなたたちが4年になっても
「先輩たちはこの授業をどう思っているか?」なんて喋らせたりして
教室の側面に
オレのために4年になったみんな並んでくれていた。
乱暴な授業したんだよね・・・
夫は思い返しています。

卒業式にあなたたちの名前を書いて、式に呼ばれもしないのに
あなたたちが式から出たときに、一度でおめでとうが見られるように
手書きの224のみんなの名前のだん幕を
両手で掲げたのは
夫の
乱暴な授業して悪かった。いや、
聞いてくれて、
ありがとよ、
だったのだと思います。

人を喜ばせたい、なんてこともあるもしれないけれどね。

あの夜、
長い間、話して、お酒を飲んだのに、
あなたたちから少しも教師の匂いがしなかった。

それはとても、とても
いいことです。
子どもたちにも父兄にも
「あの人、本当に先生?」
権力の匂いのしない先生になってください。
人にモノを教える人間は自分を語るのが片一方で好きなものです。
私もその一派。
気をつけようね・・

モノを教えるのは
教師以外の人が上手ってことあります。
小袁治師匠とか、芸人さんはバツグンの指導力です。
受ける、か否か。
暮らしの妙を知っているのだろうと思います。

でも、とつとつでもいい、シャベリが下手でもいい、
そういう先生は
子どもを包みます。

どちらが自分らしいかだね。

夫は
「若者をオレは応援する。
将来を託せる若者がいる。
224・あいつらをオレは応援する」

信じられる若者が大勢いると私も思う。
特に、224・・・


子どもたちが何もかも一番知っている。
変な奴か、怒るだけの奴か、頼りない奴か、
プライドだけか、言い訳の奴か。

見抜きます。
みんなだって、そうやって、大人を見抜いてきたのだと思う。


あの夜、思い出したことありました。

八杉先生を夫が塾に招いた時のこと。。
自己紹介が一巡したとき、
当時の宮城教育大のアシスタントのYくんが言った。
「僕は塾がなくなるように
いい学校のiいい先生になりたいと思います」

八杉先生が
「今ちゃん、(夫のこと)言っていい?卒業生だろうけど・・」
夫は慌てた。「先生どうぞ」

「塾がなくなればいいと思う発言に僕は黙ってられないんだよね。」
(私の記憶はきちんとはしていないが、大体の再現ですが・・)

「学校だけ、それはフアシズムと思います。学びは学校だけじゃない。
塾がなくなればいい。フアシズムですよ。教育のフアシズムですよ。
学校が一番なんて、危険ですよ。
僕は戦後、いやというほど、価値観の違いをある日、突然、味わったんです。
信じてきた教育の価値観が変わっちゃった。
先生が今まで言ってきたことが変わっちゃった。
今ちゃん、悪いけど、
君のアシスタントに言わせもらうよ。君はY君か。
学校が一番じゃないんだ。
学校が一番になっちゃいけないんだよ」

みんなと飲みながら、真剣な八杉先生を思い出した。
学校が一番ではない。
かといって、塾が学校の愛人でもない。
学びの窓はいくらあってもいい。

(Y君は教師にはならなかった。心境はY君でしかね。夫に意見を言える、いいアシスタントでありました。かわいい聡明な女性と結ばれて、仲人は嬉しくてね・・やっと二人にやってきた子どもの誕生も涙がでた。無二の親友のような間柄です)


別れしなに224のMちゃんが言った。
「玲子さん、また」

卒業生の御茶ノ水に行ったMちゃんが中学生のときに折り紙のようにたたんだ手紙の冒頭が
「玲子さんへ」だった。
娘も言ってくれる。
「玲子さん」

私は先生より、お母さんより、
父母が命名した名で呼ばれるのが何より好きです。

224・・・私を誰もが「玲子さん」と呼ぶ。
夫のことを「今北さん」と呼ぶ。
いいな。

教室の教師の顔と
素顔の
二つの顔を持たぬ、
学校の先生に
なって下さい。

私と夫は
支援塾という仲間はいますが、
同僚という仲間はいません。

いれば、楽しいのだろうと、
同級生で同僚のような
あなたたちに羨望です。

224という
同僚に混ぜてもらったと思えば、
「また来年、逢える」
一緒に歩く
颯爽とした気分になります。

夏の224の皆様、
何もかも一切合切、楽しゅうございました。

今北玲子

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2008年8月11日 20:24に投稿されたエントリーのページです。

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