昨年のこと、
娘が帰宅して
「お母さん、
経済力はいるよね。でも、幸福はそれだけじゃないよねー。」
はい!
いらないとは言えませんが、それだけともねえ。
ワイドショーが連日報じていた、小室氏のスキャンダル・・
だいぶ前だ。
発車寸前で乗り込んだ車両はグリーン車で、
その日は番線のホームに若い女性が詰め掛けていて
デッキの若い人に野次馬で・・
「有名人が乗っているんですか・」
「TMN!」
名前も知らなかった。
とにかく、グリーン車を通り抜けて自由車に行かねばならない。
フアンが詰めかける、それほどの有名人なら
迷惑かけたら申し訳ない。
自動ドアがぷんと開いて、
誰がTMNやら訳も分からないが、
旅のお邪魔にならないように・・
ドアのすぐ前に
喧騒のホームに目もくれず
頬づえついて、車窓の仙台の晴れたポッカリの空に
夢中の
小さな男性が座っていた。
大きな目で小柄で
一人ぼっちの年齢不詳の人が目に入った。
スタッフだと思った。
小室哲也氏。随分あとでわかった。
My Rebolution 中村美里なら知っていたのに
後の祭り。
ぽつねんと空を見つめている人の横顔の
ネガ1枚が今も残っている。
小室さん、・・どうしているのかな・・
たくさんの音が身体におありかと思います。
元気出してくださいますか?
人生、わからないもんですねえ・・・
この言葉は好きじゃない。
成功してもなんにしても、一瞥の感じがする。
誰だって、幸福になりたい。
思いがけず、
人から大変ね、
言われることがあるのは仕方がないとして。
娘のような
適齢期の女性は結婚は波乱の幕開けで怖いのだろう。
この人と歩いたら
どうなるのだろう?
私は・・・・・
夫と付き合い始めて祖母に夫のことを話した。
当時、夫は学生なのに親の仕送りなしで仙台で暮らしていた。
「それは今北さんは偉い。私は所属しない、一人で生きている男が好きだなあ」
祖母に言われて
なるほど・・いい気持ちがした。
間もなく、夫の次兄が仙台に来るとあって、紹介された。
仙台の案内を夫に頼まれて、歩いて、話して、
「私はこの人の妹になれるものなら・・なりたい」
なんて、思った。
次に
両親に紹介したいと夫が言うので
大津にお邪魔した。
日本の母のような、切なくておおらかな方と
加山雄三の父、上原謙似の渋い素敵な方と
長男という人はグラフイクデザイナーで
お召し物がそこ、ここにはない
黒と赤、黒と青、すっきりとしたお姿で素敵な、心優しい長兄と会った。
そして、結婚してからだが、
夫の親友に会った。
大津の高校時代の悪友と紹介されたお二人は私に紳士に親切で
男気のある、笑いの絶えない、好ましい人たちだった。
更に高校、大学時代の付き合いの違う、もう一組・・
「これも俺の親友」
紹介された二人
お一方は信仰の真実を見つめる方で、
もう一方は絵の好きな、芸能人にでもしたいような面白い方で
それは大津の親友二人にも通じていて、
素敵な人だった。
更にもっと後に
夫の両親が金婚式で
家族で一泊、
「オレの後輩のホテルに行こう」
全員集合した。
ホテルの社長という押し出しのいい、高校の後輩なる人に会って、
その日の夜、
お座敷で広間で会食の時、
手洗いに立ったら
その社長が
壁に直立不動で立っていらっしゃる。
「どうかしましたですか?」
「いえ、今北先輩のご家族がお食事中ですから、ここで待っています」
なんという、先輩といったって数十年前のこと、
夫に
廊下で直立の社長のことを慌てて伝えた。
『いいよ、お前』
『いえ』
二人にしかわからない世界に
私は夫と出会えなければこの後輩という方とも出会えなかった。
意表の感動だった。
それにしても
その方は廊下で何時間も足元見つめ、
大きなホテルの社長は
仲居さんが通るたびに深々と挨拶されながらも
ひとり、
足元見つめて、高校時代を見つめて、
ひたすら先輩を慕う姿は
目に焼きついた。
人はふいと心に留まったこととか、
ぎゅっと飛び込んだ場面は
脳裏に生涯、刻まれることがあるものです。
その夜、
地下のバーで3人で飲んだ。
「伝説の今北先輩のご家族がお食事中ですから、
(食事が終わるまで立って待っているのは)自分にとっては当然」
初めて今北伝説を知った。
滋賀県でトップのうわさをもっていた夫は決勝を前にまさかのまさかで敗れた。
伝説の今北!だそうで、私は
初めて聞いた。
きっと、勝って全国に出場したらもっと上に行ったと思うから
後輩の社長ははいまだに憂い続けている。
夫は笑っただけだった。
夫は高2・・Uさんを殴ったんですと・・?
理由は霧の中。
その後、Uさんは決勝進出、
夫は準決勝で敗れているが、
先輩を超える快挙・・・
「先輩どうぞ」
差し出す後輩の社長のグラスが地下のライトに薄く光って美しかった。
私は横にいて一言も口を挟めなかった。
片方は殴り、片方は殴られたのに、
こうも過ぎてしまえば思い出で、しかし、思い出だけとも言えず、
縁だけとも言えず、
何か、二人をつないでいる。
人を好きになるって、不思議と思った。
私は若い頃、
モテナイ娘だったから
夫に拾ってもらったと思っているんです。
『・・しゃべんないの?』
やんわりのお断りの連続の19の春に夫と知り合って
『一緒にいるとほっとする」
私は誰かに認められたような気分で・・・世の中が明るく見えた。
(昔は
夫に怒鳴られると泣いて、反省していましたが、
今や、
叱られても
右から左の耳やら、
「だって・・」居直りやら
お茶がほしいな。
夫の声に
アラ!ヨット、おいそれとは持ち上がらない重たい腰やら、
食器洗ってください!聞いてあきれる頭を下げて、
徐々に
歳月には、図々しい神経を頂戴いたしまして、
あの頃
『一緒にいるとほっとする』
19の私は、
とうにどこぞに失せまして、ハイ・・・)
でも、拾われた私の結婚は
ずっと、
福と思っておりますんです。
夫と出会えなかったら、兄二人、ご両親、
夫の親友、後輩の方々にはお目にかかれなかった。
結婚は
兄弟、両親、友達
福・三ッつ
めあう二人は合わせて福6っつ
当人の縁を含めれば7つの福がついてくる・・・信じてるんですね。
誰も同じとは限らない。
七福も同じではない。
あなたの両親が
あなたの親戚が嫌いです・・
言われたらそれは悲しい。
もし、その人に
親兄弟いなくても、
一冊の本、一匹の犬、猫、鳥
誰かがその人を支えたり、励ましたりした方はいる。
「君はその時、どう思ったの?」
出会う前のあれこれ聞いてもらえたら格別ですよね。
逆に
「あなたは嬉しかっただろうね。
それは悲しかったねえ」
聞いてみたいもんです。
野の花は可愛いね・・
そうだね・・
朝日や夕日はすごいね・・
そうね、すごいね・・
同じ気持ちになれたら・・・いいもんです。
娘や息子に潤沢な伴侶を探せとは言わないけれど
かといって、清貧求めよとは言わないけれど
学を好み、趣味を頼みに楽しみ、
怠ける日もあっても、次の日にはせっせと働き、
酔った日があっても、誰かに迷惑かけた日があっても、
昨日は昨日、くよくよしないでお天道様を見つめて、
沈まず、
褒められても
そんなことはない!褒めた人がいいのです・・
人を悪く思わず、自分はだめだと思わず、
余らず足らずの
中庸の人生がいいな。
「だから、君とこうして出会ったんだね」
二人が出会うまでのことを
語らえる・・
そう思える人が
好きな人だったら
いいな・・
1月9日の
A君の結婚披露宴に夫は満面の笑顔で帰ってきた。
「今日はさー。A君がさーあ・・」
宇野千代先生!
『幸福は伝染する』
本当ですね。
夫は話が止まらない。
笑顔も止まらない。
「あいつはさーーあいつはねーー
がんばったんだよ。・・おれ・・うれしくてさ・・・」
A君、
よかったね。
あなたの大好きな愛する人によろしく。
あなたの幸福が夫に、それから、私に伝染でした。
伝染、には違いないけど、
幸福はきっと、人が人に運ぶのでしょうね。
A君、幸福にね!
2月3日 節分
中国では鬼神を敬い、遠ざける、それが『敬遠』の起こりだそうだが、
そこには、
自然を恐れよ。大にも小にも生き物を慈しみ恐れよ。
目に見えない魔も恐れよ。
かといって、鬼神や魔を恐れるあまり、祀りに走るな。
人を粗末にするな。
鬼神は敬って遠ざかれ、
「敬遠」には
孔子の戒めもあるそうで。
遠ざかるとは、ほどほどの距離だろうか。
敬って遠ざかるは、謙虚というものだろうか。
今日は節分。
鬼は外!(ごめんなさいね、いい鬼もいるのに。)
鬼とは私のうつむく魔だとしたら、
「福は内!」
福とは私の善だとしたら
歳の数だけいただいて、
「鬼は外!」
もしや、存外、図々しい鬼を住まわせた私を戒める日ではないかと
豆といったって、落花生をまきながら思った。
日本はもともと八百万の神々の国。
あと、1,2年で100年を越す曾祖母の使ったすり鉢を前にすると
ものにはものの神がいるようで心落ち着く。
太古から目に見えなくとも、ずっと鬼神はいるのではないだろうか。
たとえ、どんなお方でも追い払うなんてとんでもない。
お引取り願うだけです・・・
でも、
お引取り願うにも土産ぐらい、はね・・
「鬼さん、外に出たのはいいけれど、このさむ空です、
お酒を玄関に置いて置きます。気持ちばかり・・・」
今北玲子
(大好きなSちゃん、また、電話するね。)