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いの一番

高校生クラスのMちゃんの大学が決まりました。

いの一番です。

 3年間高校生クラスに通い、こつこつと勉強していました。

 

中学の志望校選択には婉曲に「この高校でいいのか?」

だいぶMちゃんに聞いたものでした。Mちゃんの当時の実力からして

志望校は偏差値を下回っていたのです。

正直言って、もっと上の高校でもいいのに、

過信しすぎで実力以上の高校を志望するのも心配だが、

その逆というのもどうか。

でも、やりたいことがある、Mちゃんは揺るぎませんでした。

合格はわけないが、その後、3年間、不満は起きないだろうか。

高校生活がつまらなくならないだろうか。

しかし3年間、元気に、そしてよく勉強しました。

今年になって小論を練習したい。第1志望には論文はないが、もしだめなら、

次の大学には必要なのだと。

 

その第1志望に合格した。

15歳の高校の偏差値など、どこ吹く風でありました。

お母さんが挨拶にお見えになって、

東京の大学で

倍率7倍強、学力順の全国上位20数名の狭き門、とのこと。

そんなこと、初めて聞きました。

さらにバッグから

3枚の成績表が机に並び、順位が3,1,1,1......入学時の3番以外、

3年間、すべてトップ。

夫と目を見張りました。Mちゃんは高校生クラスに通っていましたが、

一度も私たちに言わなかったんです。

試験が終わるたび、

「どうでした?」

「まあまあでした」

 

無遅刻無欠席、これにも驚き。難しい大学に合格しただけでなく、

自分の選んだ高校でやり抜く決意だったのだ。

お母さんが、

「娘の合格は、高校の先生から後輩の励みになると言われましたし、娘はどうしてもこの大学で勉強したい、と言いまして、参考書ひとつ買わなくて、今北先生が言うように教科書を何度もやると言いまして」

そうですか。

「塾で基礎を教えていただきました。だからやれたと思います」

そんなこと、Mちゃんの実力です。

3枚の成績表の順位が涙でかすんだ。

娘の福を中3の皆さんにお分けして、頑張ってもらいたいと思いまして。

紙袋から、大きな大福がいっぱい、

早速中3の授業で、これこれしかじか、

すごいなあ、甘いものが苦手な生徒も、

それは食べる、という具合で皆で御馳走になりました。

高校ではない、そう思っても偏差値がプライドが、

親とすれば、そこでいいの?

思うのは人情です。

でも人生はわからない。改めて思いました。

 

子ども次第ですから、この子の受けたいところでいい。

そうだろうか、と思う。大事な志望校を

親子でああでもないこうでもない、

そのやりとりで子どもなりの高校の選択の過ごし方が見えてくるような気がする。

Mちゃんがトップを守り続けたのは自分で選んだ高校の意地もあっただろう。

あなたのプライドだったと思う。

 

Mちゃんの合格を指折り待っていた人がいる。

夫です。

高校時代を卓球で過ごし、インターハイを逃したことを今でも夢に見るそうな。

いつ決まるの?

 Mちゃんが、「東京がだめだったら11月です」

11月ねえ。

  

Mちゃんの大学が決まって、

高校生クラスが終わる10時過ぎ、

教室の廊下にひっそりと立てかけられている卓球台を一人で

セッテイング。

いい年して、

苦笑したが、

顔が若返っている。

 

夫が言いだせないでいるから代わりに聞いた。

Mちゃん、ラケット持ってきた?

はい。

 

そう、高校時代にやりたかったことは強い高校に行って卓球をやること。

Mちゃんは

市内で県内で名だたる卓球の実力者。

ここ数日、

夫は卓球台を持ち出して、壁打ちをして勘を取り戻すことに余念がなかった。

 

ありがと、Mちゃん。

いえ。

二人、の卓球が始まった。

ごめん、打ち損じた球を夫が詫びる。

いえ、

「血圧あげないでよ」

「あがるかそんなもの」

決まらなかったボールに、

Mちゃん、ごめん。何度も詫びる夫。

いえ

Mちゃんの夫への気遣いは、「いえ」だけだけど、優しい。

だめだな、足が出ない。

しきりとぼやくのは夫。

 そうでしょ、幾つだと思っておりやすか。

 

「ねえ、見においで」

明日、推薦入試の、高3から入塾のYちゃんに声をかけた。

高2から高校生クラスに戻ってきたうれしい、A君にも。

そこにアシスタントの二人。ギャラリーが増える中、

快音が響く。

Mちゃんは手を抜いているのがわかるが、

夫は真剣だ。

コンコンカンカン、見ていても二人が上手だというのがわかる。

 

高2のA君が、

「今北先生の

真剣な顔を見たのははじめてですね」

「教える人間はたまに教えられるのがいいのよ」

のんきに言ったが、二人は時代を超えて真剣だ。

 

高校時代に卓球で明け暮れた夫の18歳が見えるようだった。

坊主頭であんな顔をして過ごしたのだと滋賀の高校時代が目に浮かんだ。

18歳のMちゃんの現役に無謀とも思える夫だが、

「好きなことをしているといい顔」

声をかけた。

そんなこと言ってる場合じゃない!

 

ラリーは続いた。

Mちゃんが15歳で譲れなかった高校の卓球、

電車で動体視力を養うために

つま先立ってつり革につかまった夫の18歳。

 

夫はへろへろで家に帰って来た。

よござんした、

 

あたし、新婚時代にふと思ったことがあります。

夫と25歳で知り合ったのなら、この人をわかるに25年はかかるかも。

ひとけたの新婚時代も、それが同居ふたけたになっても

子育ても、塾も、

なんだか、違うの、の連続。

夫婦といえどわからない。

開業して33年、出会ってほぼ40年、

25年を越えまして、

 Mちゃんが合格したら、本気で卓球したいんだな。

ちょびっとそんなことわかるようになりました。

でもあと2割がたは、謎。

それもよござんす。

Mちゃん、

あたしより先にわかってくれて、

夫につきあってくれてありがとう。

そして

高校の差はない。

Mちゃん、やりましたね。合格おめでとう。

玲子

 

追伸

卓球の

ギャラリーだった高3からのつきあいのYちゃん

1年間小論を書き続けました。

第1志望の合格が決まりました。

「玲子先生、ありがと」

誰かの役に立てればうれしいです。

それもこれも丁寧に教えるアシスタントのI君のおかげ。

感謝。

最近は

高校生クラスは卒業生だけではなく、

中学時代を知らない、高校生からという入塾も多くなってきた。

 

卒業生の弟Y君もそのひとり。

中学時代は、塾に入らないって言っていたのですが、

高校生になったら塾で勉強したいって言うんです、とお母さん。

喜んでお引き受けした。

そのY君も、二人の卓球をも黙って見つめて笑っている。

誰ひとり喋らない、質問以外は黙々と勉強する

しんとした高校生クラスは

もうひとつのホクソウシャになりそうです。

 

今北玲子

 

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2011年11月12日 19:39に投稿されたエントリーのページです。

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