私立の結果がすべて出た。皆、二校のうち、片方残念は、
ありましたが、どちらかは全員、合格!
よかった!よかった!よかった!
そして、今日の午後、
中3ではないが、気になっていた、もう一人から、
携帯が鳴った。どきどきで携帯を耳にあてた。
「玲子先生、受かったー!受かったー」
午前のクラス(通信制、不登校のクラス)に
通ってきていた18歳のSちゃん。
よかったー!よかったー!私も連呼してしまった。
高1で高校中退、すぐに通信制に席を移して3年前に会った。
その後、働き始めて、午前のクラスはやめたのだったが、
昨年の10月、2年ぶりにお母さんから、
「また面倒を見てもらえますでしょうか。小論があるんで」
勿論です。
昨年の10月から、推薦入試の小論文のために
また午前に通ってきていたSちゃん。
でも、昨年の11月の推薦はうまくいかず、
今年、一般入試に受けることになった。
2年間、働いたお金は大学の入学資金だったという。
それを知ったのは昨年の面接に備えるための練習をしていた時、
「高校を中退したのはなぜですか」
Sちゃん、あるかもよ、意地悪な大学の面接官の質問。
ですよね。
「言える?理由。
誇りを持つんだよ、
あなたは悪いことをして高校をやめたわけじゃないんだから」
「はい、言いたいことを言っていいんですよね」
そう。
じゃあ、練習してみまーす。
どうぞ
「ええっと、あたしのお母さんがひとりで働いていて、弟もいるので、
私は公立を受験したけど落ちて、
入った私立がレベルが違って、担任もひどくて、高校をやめて、働きました」
そうなんだ。
はじめて聞いた。
「あなたはえらいね、それで?」
「お母さんに迷惑かけたくないし、大学に行きたかったから、
働いて大学に行くお金を貯めました」
そっか、知らなかった。
あなたは、えらい。
そうですか。
そうですよ。
一般入試の大学は、国語と面接。
大学の過去問の問題をしてみれば、読解のセンスはあるが、
漢字がまことに、問題でした。これでは差がついてしまう。
簡単な小中の漢字にもペンが止まる。
「ずっと漢字は嫌いだったの?」
「だって、あたし、小学校もいろいろあって最悪だったから、漢字はわかんない」
じゃ、漢字やろうっ。漢字ができれば合格する。
ほんとですか。
ほんとです。
小学校の漢字から、頻度の高い高校入試の漢字。
慣用句、四字熟語、
今年になってからは、連日、4時から10時まで、
小学生に交じって、中学生に交じって、高校生クラスの10時まで
ひたすらSちゃんは教室にいた。
あたしって、塾の居候?
いいですよ。
通信制の同級生のMちゃんが、
塾っていいよ。家ではやれないけど、集中できるもん。
だよね。
毎日、9時10時まで居続けるSちゃんに
どう、漢字?
声をかけると、
もう限界。書き続けて、手が痛くなった、腰も痛い、玲子先生。
でも間違った漢字を、赤字で書いていたプリントが、
確実に
少しずつ、直す赤の分量が減ってきている。
すごいね、Sちゃん。
あたしも自分ですごいって思います。
そうよ、あたしも、うれしくなっちゃう。あなたはわかるようになったのね。
渡したプリントでフアイルがみるみる膨らんでいった。
「あたし、今まで、こんなに勉強したことなかった」
「Sちゃんはできるんだよ」
「うん」
10月の後半、から、ほぼ4ヶ月、楽しかった。
だから、 今日はほんとにうれしい。
高1で中退して、働いて貯金をして、
志望大学に合格したなんて。
Sちゃんの声を携帯を持ちながら、居候と言った、ひたすらの姿が
涙と一緒に、浮かんくる。
「泣かないでください、玲子先生」
ん、
でも涙が止まんない。
大学の面接をしたあの日のことも思い出す。
あたし、失敗した、とSちゃんは落ち込んでいた。
「もう何を聞かれても真っ白になってしまって、
集団の地元の高校生が、すっごくみんな立派で、
あたしは、質問に満足に答えられなかったから」
「どんな質問が気になっているの?」
「面接の最後の質問で、あなたが日頃、気をつけていることはなんですか?」
なんて答えたの?
「うがい手洗い、早寝早起き。玲子先生、これってだめですよね、
笑っちゃいますよね。周りの人は、人間関係とか、忘れたけど、みんな立派だった」
うがい手洗い早寝早起き、ねえ。
復唱しながらSちゃんと笑ったが、思い直した。
「そんなことはない。そんなことはない。
きっと面白い受験生だなって思ったと思うよ。私ならいい点数つける」
まさか!だめですよ。玲子先生。
合格したから、言うのではないが、
Sちゃんは、 16歳からのバイトで社会を見てきたのだ。
高校に行っている同級生とは違う時間を過ごしてきたのだ。
受験だと言うのに、
だいぶバイト先では信頼されているらしく、
君に休まれては困る、わかっているから
休みたいとは言いだせなかったSちゃん。
事実、休みは取れなかった。休めば困る。店の事情はわかっていたのだろう。
心配になって
「お店に、お願いしてみなさい。あなたの入りたい大学なら。
あと少しだから、お願いしますって。終わったら頑張りますって
入試は定期試験ではないからね」
ですよね。頼んでみます。もっと漢字をやらないとだめですよね。
はい。皆が書ける漢字ができれば、大丈夫。読解のセンスはいいんだからね。
その後、バイト先と折り合いがついたようで、4時から10時まで、
6時間、連日、塾にいるようになったのでした。
Sちゃんが「居候」という教室にいる間、何問解いただろう。
中3のやるべき、読み書き64問の64枚。中3より早く仕上げた。
4096問。
それに全国入試の過去問5年分、500問。
それぞれ、二回、三回やったのもある。
少なくとも、カケル2、として、9192問。
手も痛くなろう。腰も痛くなろう。
4時から10時、
6時間、いたいけだった。
食べる、飴?
わあーっ、いただきますっ。
一粒の飴に喜んだ。
Sちゃんは毎日の心がけを身体で知っていたのだろう。
給料をもらって働くということを体感した2年間だったと思う。
毎日、何に気をつけたかと言えば、
仕事を休まないように、遅刻しないように、店に迷惑をかけないように、
「うがい手洗い、早寝早起き」
18歳がそんな心がけで暮らしていたのかもしれない。
だから口を出た。
そのSちゃんの言葉を、なるほど、って受け止める大人が
いたのだと思う。
いい面接官です。
いやいや国語の読解の点数が勿論よかったに違いない。
いずれにしても、
もう一人の、Sちゃんよかった。
おめでと。
15歳の高校中退の重みはどこかに飛んでいったと思います。
「玲子先生、今年、塾で漢検受けてみよっかなっ」
(3年前、目的があったらと、漢検をすすめても無理無理、と言っていたのに)
漢字勉強の合間に、Sちゃんの言った一言は、
花の蕾が
人知れず咲く、一瞬の、
震え、希望、挑戦......
今も、耳に残っている。
玲子