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2012年1月 アーカイブ

2012年1月 6日

今年もどうぞよろしく

あけましておめでとうございます。

昨年はつたないブログを読んでいただきありがとうございました。

 

昨年の暮れのことです。

ひそかな私の自慢は耳と鼻。

教室のどんなささやきも聞こえます。

「消しゴム貸して」

「自分の使えよ」

「忘れたんだ」

貸してあげたら?

「先生、聞こえたの?」

はいな。

隅っこにいる小学生の会話も聞き洩らしません。

「そこ、答えなに?教えて」

あのね、

教えようとしているところに行きます。

諦めずに自分で考えてからね。

すごい、玲子先生の耳、なんて、褒められたりして。

でもこれは職業柄聞こえるようになるもんなんですが、

それにしてもいい耳を親からもらったと思っておりました。

 

鼻も、そうなのです。

「これ大丈夫?」

冷蔵庫の危ない煮物や賞味期限の切れた食品を

まず鼻で、不安な時は舌で、家族の毒み役、

私の鼻と舌を意外に家族は信じてくれます。

その自慢の鼻が

暮れになって拾う匂いがありまして。

コンビニで中年の男性が私の前を、通りすぎた。妙な匂いがした。

お風呂に入った方がいいですね。心の中で、そっとアドバイス。

教室で夫が私の前を通った。

さっきと同じ妙な匂い。

オーデコロンでも買ってあげようかな。小、中学生は匂いに敏感だし、嫌われないようにね。

小学生が質問に来た。

あらっ、あなたも。妙な匂い。

まさかこんな小学生が中年と同じ匂いだなんて。

先生、さよなら。中学生の女の子にも同じ匂い。

考えた。これは私の匂いではないだろうか。

深呼吸して匂いを探った。

ふっと誰も通らないのに匂いがする。

もう一度、

同じ匂いがする。

もう一度、

する。

やっぱり、あたしだ。あたしの匂い。

年末年始で急に不安になった。

鼻が病気になったのかもしれない。どうしよう。

電話帳で繰って順番に耳鼻科にかけたが、どこも診療が終わっている。

「今日、診察をしていますか」

夕方まで開いているという有難い先生を見つけた。

 

生まれて初めての耳鼻咽喉科だったんです。

耳と鼻には小さな頃から自信がありましたもので、

今までお世話になることはありませんでして。

椅子に座って鼻を覗かれると、怖くなりましたが、

「いやな匂いがするんです」

小さな声で言った。

「そうですか、レントゲンをとりましょう」

小部屋でお辞儀をするようにして鼻を板につけた。

診断の結果、急性副鼻くう炎。

慢性になると蓄膿症になるからきちんと直さないとね。

はい。

飛び込んだ耳鼻科の先生はお美しい女医さん。

天は二物を与えるんだ。

うっとりしながら、注意を聞いて薬をいただいた。

原因がわかって一安心。

 今年の努力目標を見つけました。

復唱しまーす。

「問題は我が内にあり。人のせいにするなかれ」

今年もどうぞよろしくお願いします。

玲子

 

 

2012年1月10日

雑感

中3の英語、夫が、ひとりひとり当てながら長文の和訳の授業をしていた。

誰かが、そっけない訳をしたらしい。

「これはさあ、恋なんだよ。わかるか。

淡い恋なんだよ。お前たちは恋をしたことあるのか」

 

横にいたアシスタント二人と苦笑した。

つい一言。

あるでしょ。でも、みんな、誰も言わないだけよ。

「(玲子さん)......いたのか。まずい。これから俺の初恋を話そうと思ったのに」

さいですか。

「ではお暇しまーす。存分に話しなさいまし」

 

教室を出ました。いい気分です。

外に出ると真っ向から北風ですが、夜空には星がひとつ。

誰にでも初恋はありますよね。

淡く切ない、なかなか消せない想い、

でも月日がたち、初恋だったんだ。

そう、人に語れるようになったら

なんとも懐かしく

「初恋」という星のごとき、

つんと高貴に、脳裏のはるか過去に光っている。

 

夫の初恋に嫉妬するほどでは、ないですが、

子どもの頃、

両親が運送業をしていた時分のこと。

運転手さんが

小学生だった私の頭を両手で捕まえて、

「好きな人はいるか、いるべ?」

「いないもん」

恋の真っ最中の小学生は言えない。

「うそつけー」

見抜かれる。

「俺はいたぞ」 

初恋は、

いつか誰かに話したくなるものなのでしょうね。

「どいな人?」

聞きたかった。

四十も過ぎたアルミの弁当の白米を頬張る運転手さんの

めんこかったなー!

息を飲んで

うっとりして聞いた。

 

さて、私が教室を出てから

中3の生徒が

どきどきして、うっとりする初恋を

夫はしたでしょうか。しましたね、きっと。

西友で牛乳を買って、北仙台駅を通り過ぎ、

夜空を見上げた。

 中学生に恋の話は

いいと思います。

 

夫の初恋は知っているつもりです。

淡くやさしく、夫の心の片隅にいる「初恋」と名乗る少女、

いつ聞いても

夫の初恋、は私、好きです。

少年の恥ずかしさ、真面目さにあふれている。

 

卒業生の皆さんは

知っていますよね。

あれはいいですよね。

知らなかったら、夫に

「ブログを見たんですけど、先生の初恋って?」

夫が

言うか、言わぬかは、

一期一会でしょうか。

 

淡い恋を思い出すたび、

その横におどおどする自分が立っている。

思い出すとかわいそうで、抱きしめたくなる。

恋は一つじゃないからって言ってやりたくなる。

 

あらっ、もしかして、

初恋をあっさりと越えられたのも

未来の私が「次に行きなさいよ」

手を振ってくれていたからかも。

とすると、今も、

つらい時、悲しいとき、

「なんと生きなきゃ」

ふとつぶやくのは、未来の私が

(なんとか生きるんだぞ)

懸命に話しかけてくれているのかもしれない。

中3の皆さん、

未来のあなたの声が心に届きますか?

「勉強しろよー。苦しくともあと少しだ。諦めるな。精一杯やるんだぞー」

未来のあなたの声は

親の声にも

私たちの夫婦の声にも似ていますよ。

REIKO

 

 

2012年1月16日

1時5時

私立の入試も近い。国語で確実に点が取れるのは漢字。

日曜日の午後、1時から5時まで頻度の高い、

漢字をすることにした。

読み書き抱き合わせで、左が書きとり、右が読み。

漢字が強い人は書きとりだけ。

苦手な人は両方。

延々と漢字。

一枚終われば、また次のプリント。一枚につき、読み書き64問。

同じ熟語の左右読み書きだから間違ったらすぐに直せる。

この時期は辞書で調べるより、数多く漢字を知った方がいい。

黙々と、皆、

鉛筆を走らせている。

中には漢検の準2級、2級を既に合格している人も、

なかなか書きとり32問、全問正解とはいかない。

一つ二つ、間違う。

散策、と思索、「さく」が違ったり、魅了の「りょう」が浮かんでこなかったり、

「瞬く」が日へんだったり、「左遷」が読めても書けなかったり、

「寒い」が、微妙に違っていたり、

仕上がったプリントを一人ずつチェックしていると、

こぼれていた漢字が見つかる。

苦手な人はみるみる伸びる。

わかってきたのね。

「はい」

うれしそうだ。

教室を見回すと、皆、夢中。

漢字はすごいな。

誰をも夢中にさせるようだ。

「漢字はやればやるほどわかりますよ」

教室は無言。

満点を目指している数人、

「また間違った、先生」

どこが間違ったの?

だってこう思っていたんだもの。

小学生の時から?

そう。

間違ったのに、笑顔。

ミスした漢字が消えて、正解が身体に入る。

子どもたちがわかる時って、

堂々とした顔になる。

漢字一つといえど、知った、わかった喜びというものは

不思議な充実であります。、

 

先生、4時になりましたけど。

2期生の父を持つY君が皆を代表した。

そうだ、夫が長すぎるから4時で終了。そう言ってあったのだ。

では終わります。でも、まだ時間に余裕がある人は、

あと1時間。漢字をやりましょか。

バス時間などで、数人帰ったが、あとはほとんど残った。

言ったY君も帰らない。

しんと残った。

 

昨年、

小学生が「百足」読めるか?

野球のコーチに言われて「むかで」と読めたのだそうだ。

「塾に通っていてよかったー。コーチに褒められたもん」

 

日本人なら、漢字に強くなりたいと思っているのではないだろうか。

子どもだって大人だって

できれば誰よりも読み書きができるようになりたい。

 

1時5時。ぶっ通しの4時間。

覚え違いで拾った漢字や、知らなかった漢字が

中3の体内におさまっていく。

 拾われた熟語、一字違いでセットにならなかった漢字、

直した赤字の文字がひらっと消えて、その子の胸に喜んで入っていく。

良かれと思って、

辞書を使うべし、言うが、

しかし、

時には、正解を横に置き、楽に読み書きもいいものだと思いました。

書きとり32問を20枚、64問を10枚、

今日は全員、平均600語を、

1時5時で、収穫、

勉強を収穫というのもおかしいが、

それぞれの語彙のかごに収穫した感じ?

漢字です!

(ご無礼)

間違ったものはもう一度さらう必要があるが、

運よくおさまった漢字は生涯、抜けるものではない。

次の日、中3の何人か、

漢字のプリント、したいんですけど......

あら、うれし。

まだまだありまっせ。

いくらでも拾いましょ。

玲子

 

 

 

 

2012年1月21日

週2回

なにか俺たちは世の中の役に立ちたいな。夫が言った。

相談に乗ってくれたのが、1期生整形外科医のS君。

学習のサポートを必要とする病院を探してくれた。

以来、数年前から午前の週2回、学習ボランテイアに行っている。

当初、長期入院の補助と思ったが、要請は意外に

\あと少しで退院、学校に戻る前、勉強を見てほしい。

そういう子どもたちが多かった。

国語は

楽しく漢字をと、かるたを持っていったり、あるいは

これをしたいという希望を聞いて、望む教科のプリントを持っていく。

行ってみれば、予想外の楽しい時間なのでした。

月謝もとらない、必要なことだけ、望むことだけを教える。

定期試験対策も、受験仕様もない。

今、その子が希望することを教える。

続けて行こう、と夫婦で合致。

S君ありがと。感謝しています。

 

入院の子どもたちに会って数分、

この子は割り算を希望していて、掛け算はできると言うが、

そうではない。九九から始めた方がいい。

漢字は得意だと言うが、そうでもない。

急遽、変更。でも文句はでない。

学校を離れた子どもたちは

夢中で勉強する。喉の渇き、水を飲むように、

プリントをむさぼるように読む。

傍らには、「勉強するから、お母さんに昨日持ってきてもらった」

筆箱を大事そうに持っている。

筆箱がない子どもも、保育士さんに貸してもらった、

鉛筆と消しゴムを握りしめている。

 

震災で入院していた、中学生にも会った。

震災前から学校でいろいろあって、この際、仙台に転校するという。

少しでも仙台でやっていけるよう、

仙台の塾の先生に面倒見てもらった方がいいかもしれない。

主治医の配慮。この先生、いい先生。

治療をするにしても、子どもたちの今の状況とか、

わからないことが多くて、どうか教えてください。

医者だけではなく、子どもたちには

心を開ける大人が必要だと思いまして。

 

その中学生に会ってみたら、人なつっこい。

でも学校がつらい場所で授業もびくびくしていたらしく、

俺は勉強はダメ、と

浜育ちの大きな声が言った。

屈託がなく、おおらかな少年だった。

なぜ、こんないい子が、と思うほど。

夫が教えた英語に

「こんなにわかったことは今までなかったっす」

主治医に終わってから笑顔で言ったそうで、うれしいことでした。

でも今考えると、

あの子の気遣いだったかも。

憂鬱な日々が続けば、人を信じられなくなったりする。

でもあの子は信じたかったのかもしれない。

自分に会ってくれる人を大切にしたかったのかもしれない。

「俺、ばあちゃんやじいちゃんには好かれるんですよー。

今北先生、塾に遊びに行っていいですか。

なんかあったら、行っていいですか」

あの子はよほど転校が不安だったろう。

今になってその言葉に込めた気持ちに思い当たる。

もう学校に慣れたかな。友だちができたかな。

 連絡がないのはいいことですね。

 

病院の子どもたちとはほとんど数回で別れがきます。

別れるために会うような時間。

別れは、退院です。

しかし、ここの別れはいいことなのです。

 

今週も一人の少女に会った。

初回はプレールーム、熱が出たので、2回目はベッドで。

希望は国語。

 

おはよう、Mちゃん。

おはようございます。

ベッドに座っていた。

 始まって、驚いた。

鉛筆をきれいに持っている。

 

初対面で、鉛筆の持ち方が気になった。

最近の子どもたちは妙な持ち方をする。

鉛筆を机に直角に立てるようにして、げんこつのような持ち方。

今にこれが鉛筆の正しい持ち方になるのではと思うほど多い。

それも圧倒的に女子が多い。

気になって、やっきとなって矯正のサックを配ったりしたが、書きづらいから

なかなかなおらない。

来るたびに注意して正しくなった人はいるにはいるが、5年はかかった。

 

見て見ぬふりもできず、初対面のMちゃんに言ってみた。

「鉛筆は寝せるのね。立てないでね。親指は人差し指にかぶせないの」

こうするの、やってみて。

きょとんとしていたが、

こうですか。

ちがうな。もっと鉛筆横に寝せて。

こうですか。

もう少し、寝かせて。

こうですか。そう。

親指はもう少し下、

こうですか。

そう、それ。その形。とてもきれいです。

なんと5分も経たないうちにいい持ち方になった。

今日はどうだろう?と思っていたから

驚いた。

ちゃんと鉛筆を寝かせている。机に突き刺すような持ち方はしていない。

正しく持っている。 

Mちゃんは5分の、最短です! 

「驚きました。すぐになおったね。書きづらくない?」

少し。

でも先生に言われて、なおそうと思ったから。

先生って、あたし?

はい。

ありがと、すごいよ。

 

勉強もやってみれば良くできる、

一つ間違うとMちゃんは困った顔をしない。笑う。

教えて、わかるとまた笑う。

いつも笑っている。

この子と会えてよかったな。私も笑う。

 

「先生、あたし、退院なの」

「よかったね、じゃあ、今日でMちゃんとは最後なのね」

「はい」

そっか。じゃあ、最後にかるたしよっか。

はい。楽しい、あれ。

Mちゃんは2回目とはいえ、

木乃伊(ミイラ)わかる、百舌(もず)わかる、南瓜(かぼちゃ)も、箸(はし)も......

Mちゃんが、私を見た。

「みんな、先生に教えてもらったから、みんなわかる」また笑った。

あなたは賢いですね。

そんなこと、下を向いたが、顔をあげると笑った。

 30枚ほど並べたかるたを間違えずに全部、取った。

家族ネットワークの創始者、恩人の八杉晴実先生が、生前、

「文章で人はわからない。人は会ってみないとわからない」

そう言っていらした。

ほんと、

人は、会ってみないとわからない。

Mちゃんの様子が皆さんに伝わればいいのですが、

肩までの髪、前髪をあげてピンでとめて、赤地にくまさんの絵のパジャマ、

八字眉で目は少し垂れてる、口元は微笑んでいて、への字に結ぶことはない。

首を横にかしげ、「わからないんですけど」

教えると、

じっと私の目を見て「そうなんだ」と笑う。

そうなんですよ、

ありがとございます。その都度言う。

 

あのう、先生、足、崩していいですか。

つらい?

ううん。大丈夫。

(この間は車椅子だったのもんね、大丈夫?)

楽にしていいよ。

すいません。

そんなこといいのよ。

Mちゃんが、ふと左手の包帯を見ながら、

あたし、やけどなの。

そっか。あたしもね、ほらここに、やけどのあと。

えっ。

(幼児の時、いろりに落としたおもちゃを取ろうと、

自在かぎを右手でつかんで、左手が火の中に。

野口博士のように

5本指の手袋ができない、てんぼうになった。

当時の熱さも手術の痛さも記憶にないが、

私の子守りをしていた祖母が亡くなる前に言った。

私の左手を取り、

「ごめんなあ、ごめんなあ。なんぼ熱かったべ、なんぼ痛かったべなあ」

生涯の心の傷になっていたことを知った。

ほら、手をひらひらさせて

なんでもないよ。おばあちゃん。

「いがった、ほんにいがった。死ぬ前に謝っておきたがったんだ」

一筋の涙の祖母が愛しくて、やさしくて、やけどの手を祖母の手に重ねた。)

 

「Mちゃんと私はおんなじだね。でも大人になればなんともないよ」

祖母にしたように左手をひらひらとした。

「それにMちゃんは退院だもんね。もう病院に来なくていいんだもんね」

ううん、首を振った。

もう1回、あるの。こわいけど、中学生になったらまた手術する。

そっか。

涙が盛り上がって困った。

また、いつかどこかで会えたらいいね。

うん。

( あなたが幸せでありますように。

きっと幸せになりますように。

 中学生の手術がうまくいきますように)

あなたはなんて、いい子なんでしょ。

 言わずにはいられなかった。

 はい

高かからず、低からず、いい音階の声がした。

 

終わってから、あの子はいい子ですね、

つい保育士さんに話しかけた。

Mちゃんのことですか?

ええ。

「本当に、あの子は自分が具合が悪い時でも、他の病室の子のことばかり心配して、

やさしくて、いい子なんですよ」

 

病院に行けば、その日の日誌を書かねばならない。

「1月△△日、晴天

学習ボランテア・今北正史、玲子

今日は小4の国語。

Mちゃんは、わからない時、笑顔。

わかれば、もっと笑顔。

別れ際に、ベッドに崩した足を気にかけながら

頭を下げ、

先生、ほんとに、ありがとうございました。

清らかな声。

涙が出ました。

人は

その心の良さに、泣くものなのでしょうか」

Reiko

 

 

 

 

 

 

 

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