キャンデイ
「こんばんわ」
あらら、高1の卒業生3人。K君、Yちゃん、Aちゃん
「どうした?」
「中3の激励に来たの」
ガッツポーズをした。
「待って、主人に言うから」
「いいすっよ。授業中だし」
3人は夫の教室を覗き込んで、いい、いい、手で押しとどめる。
そんな・・
「卒業生です。」
隣の部屋の夫に伝える。
「おおーっ、入れ。」
気後れして、
「いいすっか」
「ちゃんと入れよ」
招かれて3人は照れた。
「皆さんの激励だそうです。」
私が言うと
一斉に中3が振り向いて、
3人は尚、照れた。
高校生は中3にとって羨望だろう。
聞いてみた。
「去年の今頃はどうでしたか」
「勉強しなかった」
(おっと、中3を変に安心させちゃだめよ・・)
「やめて、それは」
慌てた私を
察知して、K君が言い直した。
「いえ、先生、できなかったんです」
3人はよく勉強したのに
謙遜したか、中3を焦らせたくなかったか・・
まあ、詳しいことは11月の塾の行事高校進路説明会で聞くね。
(進路説明会とは
毎年、11月に
「本音で語る」進路説明会と題して
受験までどんな勉強をしたか、入った学校は自分にとってどうか、
パンフレットでは語られない本音を高1をゲストに中3と保護者に聞いてもらっている)
高校進路説明会、来てくれる?
「はい、来ます。」
「今度はあなたたちが後輩に話してくれる番だから、お願いね」
階段を降りる3人は
「あっざーす」
卒業しても塾に行かなきゃ、
そう、思った3人の差し入れは
ふた袋のキャンデイ・・
毎年、
夏の終わりに、秋口に、私立の直前に、公立の直前に、
卒業生が来る。(春はない。「希望とやる気の春」です)
ある年は
「初給料で中3に差し入れをしようと決めていたから」のルーズリーフだったり、
「暑いから」お茶だったり、
中3の時、誰かにもらった記憶を誰かが覚えていて、
誰かがやってくる。
心細いけど、やる気が起きなくて、焦ったあの時を思い出すのだろうか。
十五の自分の季節のかけらを拾うのであろうか。
卒業生の激励の笑顔を思い出し、
私もそんな者になりたいと
階段を上ってくるのだろうか。
卒業して一度離れた塾のドアを開け、
階段を上ってくる人情に
「ありがとう、・・」
帰る背中を追いかけて
手を振る。
とんとんと降りた玄関で
3人はさっと
靴をはき、笑いながら
あけた玄関のドアから秋風の吹く。
塾の階段を駆け上がる秋風のある。
「どう暮らしてもお前の一生のうちの一日なのだ。
俺はうるさく文句言うつもりはない」
幸田露伴がごろ寝の息子にきっぱりと言うほどの、
覚悟は私にはない。
でも
「どう暮らしてもあなたの一生だが、
まだ、十五才、
自分の力を自分で踏みつぶさないで。やれるだけやってみて」
・・思う。
15才の皆にも私にも
どちらさんも
秋が来ました。
せめて、しゃんと
行きますか。
今北玲子